第2話 衝撃の目覚め


 エバ・シャーリーは死んでしまった。


 しかし……奇跡が起きた。


 悪魔の力を借りて、新しい体に転生することになった。


 これが正解だったかのは、エバにはわからない。

 けれど、エバはこのチャンスに賭けてみることにした。

 

『さあ、もう一度やり直しよ!』


 エバはそう意気込んで、瞼を開けた——。






 暗い部屋のベッドの上で、転生したエバは目覚めた。


「——うっ! 痛っ……」


 エバは体をわずかに動かした瞬間、全身に痛みを感じた。


 ——転生した反動? 痛いけど、生きてるって感じがする……。私、本当に生き返ったんだ……。


 仰向けに寝転がるエバは、転生の余韻に浸っていた。


 ——悪魔って悪いやつじゃないのかもね……感謝しないとなー。……それにしても、ここはどこだろう? 暗いな……。


 エバは頭を左右に動かして部屋を見回す。

 サイドテーブルに置かれた照明の光だけでは、部屋の様子はわからなかった。

 カーテンの隙間から漏れる光はなく、部屋の外の喧騒は聞こえないため、今は夜なのだろう、と予想できただけだ。


 照度を上げよう、とエバはサイドテーブルの照明に手を伸ばす……。


 ——なにこの手……。


 自分の右手が視線に入った途端、エバは動きを止めた。


 ——どういうこと……?


 エバは痛みに堪えながら、ゆっくりと上体を起こす。

 そして照明を明るくすると……。


 右腕に包帯が巻かれていた。

 慌てて掛け布団を捲り上げ、身体中を触って確認する。


 ——嘘!? 頭、両足、両腕、腹……身体中が包帯だらけじゃない!?


 大人の女だとわかってホッとしたが、あまりにも酷い状態にエバは不安を抱き始める。


 ——事故……? それとも、事件?


 悪魔からもらった体だけに、何か問題があるのかもしれない、とエバは嫌な予感を抱いてしまう。


 エバはベッドからゆっくりと立ち上がる。

 唯一確認していない顔を見るためだ。

 サイドテーブルの向こうに鏡台を見つけ、エバは左足を引きずりながら、恐る恐るそこへ近づく。


 緊張で徐々に鼓動が大きく、速くなっていく。


 そして、鏡を覗き込んだ——。


「ギャーーーーーー!!!」


 エバは悲鳴を上げずにはいられなかった。


 恐怖で後ろへ仰け反り、躓いてしまう。


「——お嬢様!? いかがなさいましたか!?」


 幼い侍女が慌てて部屋に駆け込んできた。


「お嬢様?」


 床にへたり込んだエバの前で侍女はしゃがみ、心配そうに様子を伺う。


「…………」


 錯乱状態のエバにその問いかけは聞こえなかった。

 体を震わせ、その場で呆然としている。

 

 ——どうして!?


 そんな言葉がずっとエバの頭の中を駆け巡っていた。


「——リリスお嬢様?」

「やっ……」


 ——気持ち悪い!


 エバは無意識に顔に爪を立てて傷つけ始めた。


「リリスお嬢様!? おやめください!」


 侍女は慌ててエバの腕を掴んで止めようとする。


「いやっ! 気持ち悪い!」


 ——その名前で呼ぶのはやめて! 穢らわしい!


 エバが転生した体は、エバがこの世で1番憎い女『リリス・ジョーゼルカ』の体だった。

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