BORDER UP

四葉静流

翡翠とジェイド

 土曜のムーンバックスはやはり、午後のブレイクタイムを嗜む人々で溢れかえっていた。

 それほど大規模ではない地方都市とはいえ、各種交通機関の集合点として位置する駅ビルに構える店舗。加えて、郊外には最先端の科学研究所を擁する街だ。

 翡翠ひすいやジェイドと同じく夏の制服に身を包んだ学生から、華やかな私服の中年女性グループまで。落ち着いた雰囲気を醸し出す照明やインテリアの中で、ムーンバックスのロゴが描かれたカップを前に各々が自らの時間を楽しんでいる。

 今からレジカウンターの列に並べば、席を見つけるのに一苦労するだろう。しかし、就業直後に「今日はムンバに寄っていきたい」と放ったジェイドはもとより、翡翠もまた少々の待ち時間は厭わない心持ちでいた。

 ジェイドの願望は、鏡よりも正確に翡翠へと反射する。逆もまた然り。

 つまりはふたりにとって最初から、「今日はまっすぐ家に帰りたい」という殊勝な優等生気分など心得ていなかった。

 母から授けられた小遣いは未だ財布の中で潤いを保っている、今月に入ってからというもの何かと検査と調整で週末が潰されている所為だ。翡翠にとってそれらは愛おしくもあり、同時に憎らしくもある。

 ジェイドと共に過ごす一日は浮き立つものだが、その談話には科学の盗み聞きが介在している。まさに頭の中を覗かれているようだ。

 これまで幾度となく赴いた恒例行事ではあるが、未だにあの物々しい空間には馴染めない。

 私がジェイドと一緒に過ごせるのはそれが理由だけど、やっぱり私の心はジェイド以外に見られたくない。

「翡翠?」

 その呼びかけを伴って、隣り合って列に並ぶ翡翠の横顔をジェイドが眺める。

 思考と感情はおろか、五感さえも結ばれた仲。

 「翡翠を見つめるジェイドの視界」をジェイドの瞳を借りて自分自身を客観視する翡翠は、「翡翠を見つめるジェイドを視界を感じジェイドを見つめかえす翡翠の視界を感じるジェイドの心境」とその先まで、審らかに共有した。

 翡翠が見つめるジェイド。精巧なガラス細工を連想させる愛らしい瞳、顎先の高さで緩やかに弧を描き揃えられた黒髪、セーラー服から伸びる雪原の如き柔肌の四肢。

 ジェイドを目返す翡翠もまた、全て同じ姿をしている。

 人の子とロボットテクノロジーの申し子であるが、血を分けた双児であるかのような、正しく「生き写し」である。

 一方が物理的な形を持たないデータの塊であった頃に、ふたりでそう在りたいと決めた。

 「翡翠・ジェイド」ペアと同じく、等しい姿を持つペアは少なくない。中国の「黒・ジェット」ペアはジェットの強い希望によって、対する北米の「グラナタ・ガーネット」ペアはグラナタの強い希望によって。

 各地の研究所によってペアの性格は大きく異なるが、ペア自体のそれは同質と表現しても過言ではない。

 人と人の関係で用いられる精神同調セラピーよりも確かな心の繋がりが、二者の間に天秤を生じさせる。

 思考と感情の、その喜怒哀楽という重りが一方に乗せられたら、寸分違わぬ量がもう一方にも。故に性格も均等を保つようになっていく。

 「ひとつがふたつ」ではなく、「ふたつがひとつ」に変じるのだ。

 ジェイドが僅かに眉間へと皺を寄せている。それは研究所に週末を拘束される翡翠の憂いを受けてであり。翡翠もまた、ジェイドが募らせる苛立ちを感じる。

「私に言いたいことはちゃんと言って、ちゃんと言葉で」

 ジェイドが己の心象を、翡翠の胸中にも染み込んできていたものを口から紡ぐ。

 徐々に前進していく順番にも注意を向けながら、翡翠とジェイドは互いに互いの、額を覆い隠す前髪の下にある瞳を見つめる。

 同じ背丈の、同じ姿で。

 はたから眺めれば、双子の口喧嘩に思えるだろうか。

 実際は、どのようなコミュニケーション伝達より以心伝心を体現する絆を持ち合わせる彼女たちは、「言いたいことは口で伝える」と取り決めを交わしていた。

「翡翠の好みは知ってるし、私も同じだけど、ちゃんと聞いて欲しいの」

「……ごめん」

 翡翠は沈思に感けていた自らの非を認め、その意を述べる。

 研究所への煩わしさを振り切るように、翡翠は店員から手渡されたメニュー表へと深慮に潜っていた。熱量を損なわずに会話を為せる仲が仇となった、無意識にジェイドの心へと語っていた。

「わかればよろしい」

 仰々しく腕をくの字に曲げ拳を腰に当てたジェイドが、満面の笑みを浮かべる。その茶目っ気が、自らと同質を分け合う存在であっても翡翠にはたまらなく愛おしい。

「あざといかよ」

「そう言いながら、私のこと可愛いって思ってるくせに」

 翡翠もまた、相貌に笑みを湛えていた。言葉で軽口の応酬を繰り広げながら、裏腹に胸中では甘美な賛辞を贈る。

 肩に届かないショートボブの少女がふたり、先程とは打って変わって綻んだ顔を向け合う。

「それで、可愛いジェイドちゃんは今日は何にするの?」

「お待たせ致しました、こちらで承ります」

 翡翠とジェイドの前で会計を済ませた客が受け渡しカウンターの列へと並び直す、それを見送ったジェイドが笑顔のままで言う。

「もちろん翡翠と同じ、ソイラテの一番大きいやつ」



「お待たせ」

「待ってないけどね」

 両手にカップを携えた翡翠がジェイドの対岸、備え付けのロングソファーと独立した椅子が設けられた二人掛けのテーブル席へと腰を下ろした。ジェイドの横を通り過ぎ、ソファーへと落ち着く。

 括り付けたキーホルダーと小ポケットに挟んだ髪留めまで全く同じリュックを、翡翠は床に置かれた荷物入れの中、ジェイドのそれの隣に。

 普段よりどちらがソファーか椅子かは交替制にしているが、「合わせて十感」の感覚を持ち合わせる翡翠とジェイドにとって、席の心地はあまり問題にはならない。

 加えて、今日は翡翠が受け渡しカウンターへと参じ、ジェイドが席の確保に努めたが、ジェイドの視界に映るスケジュール帳を眺めていた翡翠は退屈すること無く列に並んでいた。そしてそれはジェイドも同じ、翡翠の視覚からカウンター上部に設けられたメニューを仰ぎ見ることによって、次回の注文に思いを馳せていた。

 私もジェイドも、新作のフラペツィノが気になるくせにいつもソイラテを選ぶんだけど。

「どっちがいい?」

 眼前に白のカップを並べて佇ませた翡翠が、スケジュール帳と筆記具を取り出すべく鞄の中を弄りながらジェイドの顔を見つめる。互いににやついた笑みを浮かべながら、もちろん戯れの一種である。

「翡翠が選ぶ方、と見せかけて、私はこっち」

 翡翠がテーブルへと手帳とペンケースを広げる前で、ジェイドはプラスチックの蓋が覆うカップへと口付けした。

 翡翠の味覚と嗅覚を刺激する、豆乳の優しい包容とエスプレッソの芳醇な気品。両者ともどうにもそれに飽きることを知らない、故に期間限定の品はいつも彼女たちを楽しませること無く過ぎていく。

「健康志向」

 翡翠もまた、掴んだカップを傾け飲料を口の中へ転がす。

「女の美は、日頃の摂生の賜物」

 したり顔でジェイドが応える。

「変なの」

 そう返しながらも、翡翠の顔には情を含んだ笑みが。ジェイドもそれに変ずる。

「翡翠が思ったことでしょ?」

「ジェイドだってそう思ったでしょ?」

 鶏が先か卵が先か、心を繋いだ人とロボットの間には前後など問題にすら成らない。瞬にして続、そう在るように望んだのだから。

 翡翠とジェイドが照らし合わせるように、同時にカップをテーブルへと置いた。ジェイドが右の横髪を耳に掛ける、翡翠もそれに倣った。

 そして、それぞれが広げたスケジュール帳の横に据えた筆箱から愛用のペンを取り出す。

 翡翠は鞘のように筆を包む黒の本革一本挿し、ジェイドは磁石が仕込まれたフラップが特徴である茶色の本革一本挿し。

 翡翠は橙と黒の対比が美しい万年筆、ドルチェウィータ。

 ジェイドは青と銀色で涼しげな印象の万年筆、マアレアドリア。

 そこはあえて差異を付けた。茶目っ気をふんだんに盛った遊び心はもとより、「どちらか一つを二人で一緒に揃えるほど、どちらともありきたりな色をしていない」が大方の本音である。

 愛用する筆が違うように、テーブルに開かれた二冊の手帳には、そこに記された内容に欠けと加えが生じている。

 翡翠のものは赤の筆致が多く、青の筆致が少なく。

 ジェイドのものは青の筆致が多く、赤の筆致が少なく。

 じゃあ、始めよっか。

 ソイラテを傾けながら、ジェイドが片手で掴んだ万年筆のキャップを器用に回す。

「喋るか飲むか書くか、どれかひとつにしなさい」

 そう窘める翡翠は、両手で摘んだ愛品の軸を丁寧に回す。

 お母さんみたい。

「お母さんだったらもっと怒ってる」

 だよね。

 ふたりの母は気立てが良く、柔軟な思考の持ち主であるが、礼節には少々神経質な面も垣間見える。筆記に万年筆を用いるのは、母の勧めもあった。

 「自分の為、相手の為、字は綺麗に書きなさい」。

 家で書いてると、お母さんが口癖のようにいつも言う。

「私はもう始めるよ」

 軸にキャップを挿した翡翠が、一口だけソイラテを含む。

「私も始める」

 同じ味と香りを共有しながら、ジェイドもまたカップを置き筆記の体勢を整える。翡翠が耳に掛けた髪を直す。ジェイドの感覚が疼いたが、彼女はそのまま。

 眼前に同じ背表紙のスケジュール帳、それらに挟まれるように並ぶ白いカップ、右手には各々の愛筆。

 そして、それぞれ視線を落とし、携えたペン先で手帳へと文字を刻んでいく。笑みは鳴りを潜め真剣な面持ちで、母の教えに従って。

 スケジュールの同期、ふたりの習慣だ。

 翡翠とジェイド、それぞれが個別で書き込み、後に向かい合って補足と補完を行う。もちろん、強固な精神接続で繋がれた仲には、互いがひとりで帳に走らせた内容を熟知している。

 だからこそ、ふたりにとって「言う」と「書く」は特別な意味を宿す。

 スケジュール帳の中身は、学校の行事や試験、友人との約束や交流、研究所絡み、雑感。翡翠の現象と心象は赤の文字で、ジェイドの現象と心象は青の文字で。

 互いが互いの視覚を感じながらふたりで二つのスケジュール帳を、視線を動かし見比べること無く記していく。

「ジェイド、ペン貸して」

「じゃあ翡翠のペン貸して」

 阿吽の呼吸よりも整った、目を合わせる事無く筆を交替する。

「ありがと」

「こちらこそ」

 翡翠のものにジェイドと同じものを、ジェイドのものに翡翠と同じものを書き連ねていく。万年筆の作法においてペンの貸し借りは禁忌の一つであるが、手の癖が正しく均一である両者にとって、「感情も感覚も違う者たち」のルールは形骸でしかない。

 加えて、「人間とロボットにおける精神と感覚の電子機械式無線接続による、人工知能の人間的感情獲得及び人間の心的能力向上」を目的としたボーダーアップ計画において、ロボット側のハードウェアも重要な課題だ。万年筆の繊細なペン先は精密動作評価に適している。「BORDER」の「B」は、ブレインの「B」でもあり、ボディの「B」でもある。

「そういえば、SNS見た? ズメラルとエムロードが美味しそうなの食べてた」

「あのふたりって、中国の研究所に行ってるんだっけ?」

 視線を交わすこと無く、帳に文字を刻みながら、談話を繰り広げ始めた。

 美味しい中華が食べたい。

「どっちの色で書く?」

「どっちでもよくない? 私も思った」

 翡翠が問う、ジェイドが応える、各々がそれを書き込む。

「でも、本場の中華と日本の中華って味が違うっていうよね。日本のは日本人向けにアレンジしてるって聞いたことあるような」

「でも、一度くらい本場を食べてみたくない?」

「食べたい、めっちゃ食べてみたい」

 自身の帳へ目を落としたままであるが、ふたりの顔に笑みが戻る。

 どこの料理だろうが、どこの生まれだろうが、人だろうが機械だろうが、美味なるものは変わらず美味なるものだ。

 彼女たちが話題にする「SNS」とは一般に流通しているものではなく、各国のペアと研究所職員専用のソーシャルアプリである。

 公文書や研究レポート以下の、日々の雑感や写真を共有する、「お堅い研究機関のオアシス」だ。そこにはペアのセルフスナップや、研究所の心温まるエピソードが投稿されている。

 国際的な研究組織が何故そのような場を設けたか、ひとえに「ペアが気兼ねなく自分たちを出せる場所」の確保だ。

 例えば、翡翠とジェイドの関係性は学校や近隣住民にとって周知であるが、国家機密にも触れるボーダーアップ計画の全貌並びにその技術性は、一般市民に秘匿とされている。そのような「秘密まみれのふたり」にとって、「それが自分たちだけではない」と、「ここではありのままに同じ境遇と話せる」空間を提供し、ペア間の交流によるフラストレーション解消と、それによるペアへの影響調査研究を図っている。

 もっとも、翡翠もジェイドも「実際に会ったことがない友人たち」とのコミュニケーションを楽しんでいるが、「誰よりも自分を知り尽くし、誰よりも自分を思ってくれる」のは、翡翠でありジェイドであると感じている。おそらく、他のペアも同様だろう。

「翡翠、ペン返してくれる? 翡翠のペン、ありがと」

「こっちも大丈夫、こっちこそ」

 再度互いに万年筆を交わした時には、スケジュール帳の内容は完全に一致していた。あとはここから、今の私とジェイドとのやり取りを書き込むだけ。

 翡翠が再び筆を走らせようとした矢先、手を止め視線を上げる。

 ジェイドもまた、それを翡翠に向けていた。

 翡翠の胸中へと流れ込む、ジェイドの心境。それも翡翠の心境であり、そこに淀む不安も受け止めるが、ジェイドを思って楽観を返す。

「心が一緒だと、こういう時ちょっと頭の中が混乱する」

 複雑な表情を浮かべて、ジェイドが呟いた。

「私も今ちょっとパニクってる」

 翡翠は笑みを返すが、その内面はジェイドと正しく同一。両者揃って、万年筆のキャップを締める。

「ごめん、ちょっと落ち着けない。翡翠困ってるね、ホントごめん」

「それがジェイドの所為なら、私の所為もあるよ」

「ごめん……ほっぺ触っていい?」

「ジェイドが触りたいってことは、私も触りたいってこと」

 それぞれが筆を握っていない左手を伸ばし、互いにその横顔に添えた。触っている感覚と触られてる感覚、触られてる感覚と触っている感覚。

 ムーンバックスの一角で繰り広げられる、微笑みを以って互いの頬を撫でる少女たち。はたから見たら仲睦まじい戯れと映るだろうか。

 両者にとっては、自分自身へと注がれる慈愛の表れであり、自分自身へと注ぐ慈愛の表れである。

「たとえその時が来ても、私は翡翠だし、翡翠は私。だから、大丈夫」

「それは私の台詞じゃない?」

「……やっぱりちょっとパニクってる」

 僅かに目を丸くした後ジェイドの笑みが増す、翡翠も同様。

 ふたりの間で蔓延る懸念、それはペアの独立段階。計画の真意は精神性の共有ではなく、その先にある、一つの高度な存在の自立行動だ。

 現在は研究所においてその話題を耳にすることは無いが、公文書にはその課程が明記されている。学生でいられる時間は短い、生活の変化はそのまま人生の変化だ。

 未だ誰にも語らずの将来、研究所の臨時職員として就きながら通信制の大学教育を受けることを夢見ているが、特にもふたりの父が良い顔をしないだろう。

 研究所の意向も同様と思われる、あくまで「普通に生きる人間」としてのデータを望んでいるはず。仮に精神接続を保っていても、一般社会において「いつまでもふたり一緒」は至難の道。

 はっきり言って、私も怖い。私がジェイドじゃなくなるのが、ジェイドが私じゃなくなるのが。

 翡翠の相貌が僅かに曇る。

「でも、やっぱり。離ればなれになったとしても、翡翠は私だし、私は翡翠だよね」

 優しい笑みのジェイド、頬から指を伝わせて翡翠の唇をなぞる。動揺がそうさせるのだろうか。幻覚に似た錯覚、どちらの身体にどちらの精神が宿っているか誤認しそうになる。

 ジェイドは、私じゃなくなった自分を想像できる?

「それは私も怖いというか、私が怖がったから翡翠も怖いんだけど。でもやっぱり、なるようになるというか、離れていてもずっと一緒というか」

 翡翠がジェイドの頬を軽く摘む、愛しい弾力。ジェイドもまた、翡翠と同じ動きを採る。

 世界のどのような真実より貴き、ふたりの間だけの慈しみ。白と紺のセーラー服と黒のショートボブを纏った少女の頬に触れながら、その奥にあるものに語る。

「私たちは、ずっと私たちだよね?」

「当たり前じゃん、これからもずっと」

 翡翠の顔に、ジェイドと同じものが戻っていた。

 そう、そうじゃなきゃいけない。

 私とジェイドで繋いだ手と手は、人生の別れ道や運命のイタズラくらいで切り離されない。この世界に翡翠がいる限り心の繋がりが途切れても、私たちは「繋がってる」。そう在りたいとふたりで決めた、この先にどのような茨が待ち構えていようとも。

「ところで、ジェイドのほっぺはいつ触ってもプニプニ」

 翡翠が愛筆を帳の上に置き、両の手でジェイドの頬を左右に軽く摘む。ふたりは変わらず笑み、否、若干にやついている。これも一種の戯れ、玉石の如き尊い日々の瞬き。

「翡翠ちゃんはおふざけが過ぎますなあ」

 ジェイドもまた、翡翠に倣う。ふたりの感触、ふたりの感情。

「やっぱり技術大国日本の最新鋭ロボット筐体はプニプニですなあ、翡翠ちゃん」

「いえいえ、気高き海外の血もその身に引くジェイドちゃんには負けますなあ」

 化粧による塗り固めを必要としないジェイドの柔肌、製造方法は国家機密である翡翠の特殊樹脂。

 同一の容姿とカタカナで記す名前の所為か、今でも翡翠ではなくジェイドがロボットだと誤解されることが多い。日頃からジェイドに美しい名と讃えられるが、翡翠には祖母の名を継いだジェイドにこそ賞賛が相応しいと考えている。

「筐体が変わってもこのほっぺでいてね、翡翠」

「ジェイドこそ、私がスクラップになる前におばあちゃんにならないでね」

 そのやりとりがどうにも面白く、ふたりは揃って今日一番の笑みを咲かせた。


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