第3話

 かくして相沢直樹・脱ぼっちの乱(2019)は幕を開けた。

 以下はその壮絶な闘いの記録である。


 火曜日

 VS 明らかに陽キャな男女混合バンド

 

俺「あのー、ちょっといいですか……」

男「ん、何? って言うか君誰だっけ」

女「えー、普通本人にそれ言う? ほら、最近入ったキーボードの……矢沢君だよ」

俺「相沢です……」

男「あぁ、ごめんごめん。で、何? どうかしたん? って言うかさっきからなんで敬語なの?」

俺「えっと、俺、まだバンド組めてなくてですね……。良かったらその、キーボードとかどうかなーって」

女「えー、キーボードー? うちらもうメンバー決まってるし」

俺「でもほら、今流行ってるじゃないですか。髭男とか」

男「あー、確かに。めっちゃいいよね髭男」

俺「ですよね! あんな曲できたらスゲーカッコいいって思いません?」

男「って言うか相沢君て髭男のボーカルに似てね?」

女「うわほんとだ! めっちゃ似てる~。きゃははヤバいウケるんですけどー!」

俺「そ、そうですかね。似てますかね、俺。ハハハ」

男「似てる似てる。だからさ、一遍プ○テンダー歌ってみてよ」

俺「………え?」

男「なあ頼むよ、サビの一小節だけでいいからさ」

女「私も聴きたいな~、おねが~い」

俺「……わ、分かりました」

 「…………」

俺「グッバイ♪」

男「んじゃそう言うことで、バイバーイ」

俺「…………」



 水曜日

 VS 明らかにオタクなボーイズバンド


男A「ドロー! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! キタ―――――――――――――――――――――――――――――――――――!」

男B「はああああああああああああああああああああああああああああああああああ!? まーたトップ解決かよ! クソクソクソクソクソクソクソ!」

俺 「あ、あのー………」

男A「これが真の決闘者デュエリストなんだよなぁ。おら喰らえや! アライブ発☆動」

男B「うらら打ちまーす^^」

男A「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!? 持ってんのかよおおおおおおおおおおお! 負けた―――――――――――――!」

男B「これが真の決闘者なんだよなぁ(キリッ!)」

俺 「あのさ! ちょっといいかな!」

男A「……はい?」

俺 「いきなりごめん、俺は相沢大樹。実は最近入ったばっかでメンバー探しててさ」

男B「ふーん、デッキは?」

俺 「デ、デッキ……? 楽器じゃなくて?」

男B「デッキに決まってるでしょ。ここ何部だと思ってんの?w」

俺 「え、軽音楽部でしょ」

男B「あー、つまんね。俺たちはここに決闘デュエルしに来てんの。ここならどんだけ大きい声出して決闘しても何も言われないだろ? 分かる?」

男A「迫真決闘部、軽音楽部の裏技」

男B「草ァ!」

俺 「えぇ……」

男A「バンドも決闘者だけで組んでるから。ってことで他当たってクレメンス」

俺 「…………」



 木曜日

 VS 如何にも爽やかな男女四人組バンド


俺「ごめん、ちょっといいかな」

男「んっと、相沢君だよね。どうかしたの?」

俺「実は俺、まだバンド決まってなくてさ。良かったらキーボードとかどうかなって」

男「うーん、キーボードかぁ……。欲しいっちゃ欲しいんだけど。うーん……」

女「ねえ相沢君、そのキーボードちょっと借りてもいいかな?」

俺「え? あぁ、勿論いいよ! キーボードってさ、凄く面白い楽器なんだよ!」

女「へー、また今度教えてよ。それよりアンプに繋いでみてもいいかな?」

俺「オッケーオッケー! ……よし、電源入れたから弾いてみてくれてもいいよ!」

女「~♪」←いきなり超絶テクを披露し始める

俺「…………」

女「あー、やっぱキーボードってピアノと全然タッチが違うんだぁ」

男「え、お前ピアノ弾けたんだ! なんだよもっと早く言ってくれよ!」

女「えー、だって聞かれなかったし」

男「俺ずっとキーボードがサポートにいたらなって思ってたんだ! だから偶に編成変えてキーボードやってくれよ!」

女「はいはい、分かった分かった。ってことでさ相沢君」

俺「え? は、はい。なんでしょうか」

女「偶にでいいからさ、君のキーボード貸してくれないかな? お願い!」

男「相沢君、俺からも頼む! この通りだ!」

俺「わ、分かりました……」

男「ありがとう相沢君! 恩に着るよ!」

俺「…………」



 清々しいほどの敗北を喫した俺は、一人部室裏にやって来た。

 呆然と立ち尽くして沈み始めた夕日を眺めている。すると黒木場先輩がやってきて、俺の肩をポンと叩いた。


「君の勇姿、しかとこの目に焼き付けたよ」

「…………」

「君は頑張った。それは間違いない。だからどうか……落ち込まないでほしい」

「……大丈夫です。もう慣れてますから!」


 精一杯笑ってみせた。と言うかもう笑うしかなかった。だってそうだろ? それが今の俺にできるせめてもの恩返しなんだから。きっとこの笑顔は、無理して作ってないように見えてくれてると思う。


 二人で朱く染まった空を眺める。


 そうしていると心が落ち着いた。沈黙を埋める言葉はなくて、それを気にしない俺たちがいる。


 やがて俺たちは音楽の話をした。先輩が大好きなバンドと、それに対する憧れの話を。

 それは本当に楽しくてさ、自分の悩みなんてちっぽけなもののように思えたよ。

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