旅立ちと二人の同行者(2/5)
「旅?うちが?」
少女がこの世界に
この数日の間に少女はこの世界に適応を始めていた。幸いなことに召喚された際に何かしらの魔法が少女に作用していたらしく、言葉の壁は存在しなかったので、世話役の
服の着方、井戸の
少女に旅立ちの提案をしたケイネスはええと頷く。
玉座の間にはケイネスの他に玉座に腰掛けたエルガス王、その前に立ち尽くす少女、壁際に数名の兵士の姿がある。
「貴女がどうしてこの世界に喚ばれたのか、その理由はお話しましたね?」
ケイネスの言葉に少女はこくりと頷いた。
「ずぅっと昔から続いとる人間と魔族との戦いを
「ええ、その通りです」
意味は理解できるのだが、少女の話し方には妙な
「
そういってえへへと少女が鼻先を
もっとも、そう思っているのは少女だけではないわけで。
「ええ、まぁ、正直我々も
申訳なさそうに視線を落すケイネスに少女はなんとも気楽な様子でええよええよと両手をひらひらさせる。
「そのことはもうええねん。元の世界にまったく未練がないわけやないけど、メイドさんとか兵士さんはよぉしてくれるし、リンちゃんっていう友達もできた。やからそのことはなんも恨んでへんねん」
リンちゃん、とはエルガス王の娘であるリンシア姫の愛称である。そう呼ぶのはこの少女しかいないが。
「そう言っていただけるとこちらとしても助かります」
ケイネスは深々と一礼。
これで少女が元の世界に
「ですが……」
ただ、それで万事よいと言うわけにはいかない。申し訳なさそうな表情から一転、ケイネスが表情を険しくする。
「貴女は勇者としてこの世界に召喚されました。だと言うのに剣もロクに振れず、魔法理論の講義の最中にはすぐに寝てしまわれる」
うぅと少女が目を
「小難しい話は苦手やねん……」
そこで、とケイネスが人差し指を立てた。
「習うより慣れろと言う言葉があります。まずは貴女にこの世界を理解していただきたい。どうやって人々が生活しているのか、戦うべき魔族とはどういう存在か。
確かになぁと
「兄ちゃんええこと言うなぁ。さすがメイドさんにモテモテなだけあるわ。うちあんま好みちゃうけど」
「……………」
ケイネスはゴホンと咳払い。隣のエルガス王の意味深な視線がその横っ面に刺さる。当然だがケイネスは妻子持ちである。
「えー、それで、です。貴女が勇者として召喚されたことには必ず意味があります。意識が変われば、貴女の中に秘められている貴女も知らない力が目覚めるかもしれない」
勇者召喚が正しく成功していたのなら、少女には常人を越える何かしらの力が必ずあるはずなのだ。そしてそれは先天的なものであるとは限らない。
何の能力もないただの少女が、召喚されたことによって後天的に能力を得るということも十分考えられる。勇者召喚は世界の
「そのための旅っちゅうわけかぁ」
伝えたいことは伝わったようなので、ケイネスは満足して頷く。
「旅といってもそれほど大層なものではない。このラドカルミア王国の領土を散策する
「旅は旅でも旅行みたいなもんか。ええなぁ」
そうはいうものの本当に旅行するだけでは困る。少女がどうにもエルガス王の言葉を真に受けてしまったように見えたので、ケイネスが再び口を開く。
「言っておきますが、このラドカルミア王国内……人間領の中でも下級の魔族や魔物は出没します。そういったものを見かければ退治するのも旅の目的です。実戦の中でこそ力は目覚めるものですから」
「お玉で倒せる?」
「もっとも軽い
当然お玉で倒せるような魔族はいないし、細剣を持ったとしても少女の技量で倒せる魔族はいないだろう。
彼女の身を守る護衛が必要だ。
エルガス王がパンパンと手を叩くと、壁際に
「この者達がお前の身を守る。いずれも腕に覚えのある者達だ」
王に
「お初にお目にかかります。勇者よ」
一人が口を開いた。
「私はラドカルミア王国騎士団“
短く刈り込まれた髪に日焼けした肌。衣服の上からでも分かる
歳の頃はまだ二十の前半ほどに見える。口調や礼をする動作の
その青年に続いて隣の人物も口を開く。
「セラ・リグン。ラドカルミア王国魔法師協会所属の魔法師です」
とりあえずの自己紹介が終わったところでエルガス王がうむと頷いた。
「この者達には旅のことは事前に伝えてある。行くと言えばすぐにでも出立できよう。して勇者よ、いつ旅立つ?」
王の問いに少女はすぐに返事を返した。
「ほな明日の朝にしよか。善は急げ言うし。今日のうちによぉしてくれたメイドさんとリンちゃんに
「よかろう。そのように支度させよう」
話がまとまったところで王が玉座から腰を上げた。
「では勇者ユウよ!この国を知るため、憎き魔族共を打ち倒す光明を得るため、明日二人の護衛と共に旅立つのだ!」
「おー……まぁうちがこの世界に喚ばれたんも何か意味があるんやと思うし、やれるだけ頑張ってみるわ」
そういってユウと呼ばれた小さな勇者は少しだけ
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