第1話 旅立ちは夜

 名もなき田舎の村にある、極々普通の一軒家。

 ここには普通の夫婦と、その子供達が住んでいる。

 両親は極々普通の夫婦なのに、第一子の長女は天才だった。

 一を聞いて十を知り、十の知識から自分で考えて百、千、万と答えを導き出していった。

 そしてそれを誰にも話すことなく、常に内へと秘め続けた。

 そして国の第一王子が現場の空気を体感する為に、魔物の討伐に訪れた際。

 エルフと見間違う美貌と賢知で王子を虜にして。

 今や王城にて、王子の第一夫人として居城している。


 第二子の長男も長女程ではないが秀才で文武に優れ、姉と共に王子に見込まれて王都へ連れられて行った。

 今は騎士見習いとして訓練に励み。

 将来は近衛騎士としての活躍を期待されている。


 だがこの長男ですら、長女の絞りカスでしかなかった。

 そう言われる理由は、第三子が普通の少女でしかなかったからだ。

 続く第四子の次男は、憎めないアホの子と呼ばれ。

 第五子の三女は、おマセなだけだった。


 王子の第一夫人の生まれた村として、当時は多少賑わったが。

 今ではすっかり元通り。

 慌ただしい王都入りを拒否した夫婦と、幼かった次女以下の子供達は村に残った。

 あの王子夫人の弟や妹ならもしかしてと、見に来る者も既に途絶えていた。


 そんな枯れかけた村には悪習が残っていた。

 初夜権だ。

 村長はブクブク太って脂ぎったハゲで、初夜権の行使には同じ外見の息子までついてくるらしい。

 2人が少女趣味でなかったので、長女は権利行使の前にチャンスを掴んで王都へ逃れた。


 昼間に両親からその事実を聞かされた次女のサンテ。

 村長好みの四十の誕生日まで、まだかなり先があるのに。

 眠れなくなって、着の身着のまま村を後にした。


「私は姉さんみたいに、ビッグなチャンスを掴んで見せるっ!!」


 一切の恐怖を持たず、希望だけを胸に秘めて。

 サンテは新たな人生の目標を掲げ、満月の夜道を歩き続けた。


 そして当然の如く、魔物に遭遇した。

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