台風19号に対する個人的な恨み

竜田川高架線

台風……呪い殺してやる……

 2019年10月12日土曜日

 この日、僕にとって最善の日になるはずだった。

 観艦式予行だ。

 バカ高い倍率の抽選をくぐり抜け、運良く乗艦券を頂けた。

 更に幸運なことに、地方に住む友人も同じ日時、同じ艦に乗艦出来ることになり、最高の気分であった。



 そして、奴が現れた。



 台風19号



 その後の展開は実に早い。

  

 観艦式予行、中止



 泣いた。


 僕は、一生分泣いた。


 泣いて、すべてのやる気を無くした。

 



 なあ、台風よ。



 なぜ。



 なぜお前は生まれた。


 なぜ、この日に限って生まれた。


 そしてなぜ、なぜ土日に来るのか。


 そんな怒りを抱えながら、僕は諦めた。

 いや、待ってくれ。怒り? いや、恨みだ。決して拭うことのできない哀しみ。怨念だ。



 この台風19号。台風の中でも特に強く、より一層の警戒が必要だという。

 そうかそうか。

 だが僕の知ったことではない。

 もう、いっそのこと殺してくれて構わない。飛んでくる看板に潰されても、飛んできた豆腐の角にぶつけても、好きな殺し方で構わない。

 だが僕の死を以って、貴様ら台風をこの世から消してやる。



 だが、今日は腹が減った。

 夕飯のおかずをスーパーに買いに行こう。スーパーの総菜は中々に美味い。



 さあ、自動ドアが僕のために開き、そして店内を見渡した。

 先ず目につくのはレジに並ぶ長蛇の列。

 レジから店の真ん中あたりまで、通路にぎっしりと人、人、人。

 一体何分並ぶんだこれは。

 

 ああ、これ、夕飯の買い物に台風前の買い溜めが重なってるのか?



 ……。くそう。俺は台風のせいでスーパーのレジで長いこと待たされようとしているのか。

 

 諦めてコンビニのかぷめんで済ませたさ。

 僕はかぷめんのみにて生くる者……。



 かぷめんを啜りながら、僕はまたも台風への恨みを募らせた。

 台風は、観艦式のみならず人間の尊厳たる食の自由まで奪うのか。

 奴はいったいいくつのものを僕から奪えばいいんだ。



 ああ、人間も舐められたものだ。



 許さない。決して、許さない。

 僕が死ぬその瞬間、いや、死んだあとも呪い続けてやる。

 台風19号。お前が熱帯低気圧に変わる頃。

 僕はお前を恨み殺す。



 死ね。台風。

 

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