はるながあめ 〜春霖〜
成柞草
異質
やまない雨が。
やまない雨が。
ながく降る。
降り続ける。
春の陽気を。
花びらを。
壊し続けて。
打ち続けて。
いつになったらやむのだろうか。
この薄暗さから、出られるのだろうか。
曇天に手を伸ばしても、届かない。
もう、太陽には届かない。
遠すぎて、届かない。
ああ、どこにいるんだ。
なにしてるんだ。
はやく。
もっとはやく。
それに手を、伸ばしていればよかった……ーー。
● ● ●
あの花は、どうなったのだろう。
ある雨の日の昼下がり。
しっとりと、地面を濡らす。
雨粒を傘に受け止めながら、そんなことをふと思った。
あれ、誰だっけ。
スーツに身を包んだ彼は、立ち止まったままぼんやりと空を見上げていた。
記憶の底にじわりと湧いてくるような変な感覚。
急には思い出せない。
「んー………」
彼はその場に佇んでいた。
しばらくそうした後、何事もなかったかのようにまた歩き出す。
そうだ、中学時代のクラスメイトだ。
お昼に食べた牛丼が腹の中で踊る。
ああ、食べ過ぎたかな。
そうしてちょっとお腹をさすりながら彼は自分の会社に足を向けた。
中学時代、同じクラスだったある女の子。
正直、浮いた存在だった。
部活にも入ってなかったし、友だちと言うほど仲の良い者も見たことがない。
顔立ちは良い方で、男子の間でも噂になっていた。
だが、それも一年の夏休みまでだ。
それ以降は相手にもされなくなっていた。
理由は明白。
彼女の存在が浮いていたからだ。
なぜかヒトを避けているようなイメージで、近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。
彼女の席は窓際だったが、ずっと外ばかり見つめていた。
出席番号が近いから、嫌でも目に入ったのだ。
たまに彼女が見ているものはなんだろうと、同じように外を見てみたりもしたのだが、理解できた試しはない。
不思議なやつだ。
その度に息を漏らした。
運動しているところも見たことがない。
体育の時は、決まって保健室にいるか、あるいは学校を休んでいた。
何故、そんなに詳しく知っているかと言うと、実は中学の三年間ずっと同じクラスだったからだ。
その三年間、彼女はずっと異質であり続けた。
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