神話黙示録.大地の瘡蓋
「まったく貴方という人は! 反省しているんですか?!」
「……はい、反省しています」
帝都のある一角にある古びた教会……孤児院も兼ねたそこではたった一人しかいないシスターが一人の少年をプリプリと叱っていた。
修道服が押し上げられた胸の下で腕を組み、自分を叱る声を正座しながら聞いている少年はもう既に限界が近い。
「ねぇ、ジークお兄ちゃんがサテラお姉ちゃんに怒られてるよ?」
「この前一言もなくまた勝手にどっか行ってたからじゃない?」
「あぁ〜……ジークお兄ちゃんも馬鹿だなぁ」
少年が怒られている様を見て、孤児の子供達は好き勝手にあーでもないこーでもないと、自分達の感想や推測を述べる。もちろんその様を見て少年──ジークが子供達を睨み、さらにシスター──サテラから追加のお叱りを受けるのは決まった流れだ。
説教時間が伸びた事を察したジークは絶望的な表情を浮かべつつも、この状況を打開しようと頭を悩ませ……閃いたのか先ほど睨み付けた子供達に目配せする。
(おい、お前ら! そろそろ読み聞かせの時間だろ? サテラを何とかしてくれ!)
(えー、でもジークお兄ちゃんの自業自得じゃん)
(お願い! 頼むから! もう膝が限界なの!)
必死であった……自身よりも遥かに歳下の子供達に説教から逃れる手助けを懇願する様は酷く情けなく、哀れだった……その様を見た子供達は流石にドン引きしつつも、『まぁ仕方ないか』とお互いに頷き合う。
(ジークお兄ちゃんのおやつ一週間分で手を打つよ)
(バッ?! お前らそれは取りすぎだろ?!)
「みんな向こうで遊ぼうぜ!」
(分かった! 一週間分な! それで手を打とうじゃないか!)
子供達の方が強かで交渉上手の様であった……それもそうだろう、常にあっちこっちをフラフラしてはサテラに怒られるジークと、時にはジークの武力を背景に大好きなサテラお姉ちゃんの為にと、食べ物を得る為に路地裏の怖い兄ちゃん達とバチバチにやり合う子供達とでは実力が違ったのだ。
「サテラお姉ちゃーん! ご本読んでー!」
「あら? もうそんな時間ですか?」
「そうだよー! ジークお兄ちゃんばっかりじゃなくて、僕達にも構ってよー!」
「あらあら、まだまだ甘えん坊ですね?」
口ではそう言うが、子供達に甘えられるのは嬉しいのかサテラはそれまでの怒った顔から満面の笑みへと変わり、いそいそと本棚から分厚い本を取り出す。
「さぁみんな集まって? この前の続きを読みますよ──おっとと」
「『……』」
自身の肩幅ほどもあり、分厚い聖書を開いてシスターは静かで穏やかな口調で読み聞かせを始める。……その時あまりの重さに取り落としそうになるのはいつもの光景だった。
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大地が怪我をする……大地の民と『
大地の免疫……怪我をした大地は自身の怪我を治そうとする……大地の民と魔物、闘争の果てにその形を失った敗北者をその土地に縛り付ける。
大地の穢れ……
大地の瘡蓋……土地の編纂が終わってしまったならもうその土地に人が住むことは出来ない。
大地の民ですらその凝り固まった魔力を直接解す事は出来ず、発生直後に取り込めなかったのなら諦めるしかない。時間が経過するほどに魔力は
『幽玄の禁書庫』……世界中の蔵書を現在進行形で複製し、収め続ける図書館。
『愚者の城塞』……常に太陽を追って浮かび続ける天空城塞。
『哀哭の船』……深い濃霧と共に世界の海を冒険し続ける華美な難破船。
『太陽の閨』……一日の最初に空が微笑む歪で野蛮な島。
『猫の集会』……その街に迷い込んだ時、貴方の全ては奪われる。
『深緑の砂漠』……背の高い草草が土地の水の一切を略奪し、成長する砂漠。その砂漠の周囲は常に豊かな草原に覆われている。
『巨人の帝国』……執念深い皇帝が治める人類最古の文明都市。
決して大地の瘡蓋を刺激してはならない……これらの『七つの魔境』は人に御せる魔物ではない。
決して大地の瘡蓋に近付いてはならない……これらの『七つの魔境』は〝怠惰で欲深き大地〟に一番近しい場所である。
決して大地の瘡蓋と敵対してはならない……もしも『七つ魔境』の何れかに遭遇してしまったなら、諦めて自死するか───────
───────管理人を探せ。
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