第11話.醜い愛憎の種その2

「……つまりアリシアは仕事で居ない訳ね?」


「そ、そうなるね……?」


 朝目が覚めたらアリシアが居なくなってて、代わりにアンジュが挨拶をしてくれて……そしてアリシアが居ない理由と現状を教えてくれる。……一部意図的にはぐらかされてるというか、伏せられているというか、嘘を吐かれているというか……怪しい部分はいくつかあるけど、だいたいは把握した。

 ……要は今は危機的状況だという事だね。何故だかは知らないけど、この領地が魔法使いの反政府組織に狙わていると。


「それで?」


「え?」


「私は何をすれば良いわけ?」


「あ、あぁ……お姉さんが僕に頼んだ用事が終わったらお姉さん達が戻ってくるまで待機、昼過ぎまでに戻らなかったらそのままこの領地から脱出を目指すよ」


 なんていうか、本当にヤバい事になってるみたいだね……できれば一般の人々にも避難を促したいけど、領主がグルなんじゃあ大規模には出来ないし、むしろ私達が騒乱罪なんかで取り押さえられそうだね、これは。……多分アリシアの捜査も、アリシア自身が官位と爵位を持っていたから見逃されていただけなんだろうなぁ。

 そしてそれを何とかする為にアリシアが一人でどっかに行っちゃった、と…………はぁ、もう本当にあの子の一人で何とかしちゃおうと、人を救おうとする悪癖はなんとかならないかな?


「それで? どこに行くの?」


「まずは一番近い郵便局だけど……?」


「私も行くよ」


「え?」


「子ども一人で行って、領主の手勢に襲われたらどうするのさ……護衛するよ」


 もしかしたらコチラの動きに気付いた領主達が手勢を差し向けるかも知れない……正規軍じゃない時代遅れの領兵程度だったら私一人だけでもある程度は何とかなるし、子ども一人の護衛くらいなら朝飯前だからね。

 ……アリシアが今何をして、何をアンジュに頼んだかは知らないけど、このくらいなら私も手伝えるはず。……アリシアは友人を失うこと・・・・・・・に酷く怯えてるから、言えないけどね。


「じゃあ急いでアリシアのお使いを済ませて、ここの領地から全員で脱出するよ!」


「うん!」


 ……何事もなく無事に終われば良いんだけど、そう上手くいかないのがこの世界だよねぇ。


▼▼▼▼▼▼▼


「​──こっちよ!」


「うわっ?!」


 前を走るアンジュの襟首を掴み引き寄せ、そのまま路地裏へと入り込む……活字中毒の図書館司書を舐めるなよ? 地元民も知らないような道を地図帳を読み込んで把握してるんだからなぁ! ……その地図帳が古くて更新されてなかったら詰むけど。


「……もしかして?」


「えぇ、もう手勢を送り込んで来たみたい……もしかしたらアリシアが色々動いてるのが効いてるのかもね!」


「うわっと!」


 アンジュを背に隠すようき振り向き、間を置かずに拳銃を発砲……まずは先頭の一人の足を撃ち抜き列を渋滞させ、近くの排気管を二発目で狙う事で吹き出した蒸気で目くらましを兼ねた攻撃をする。


「がぁ?!」


「熱ぃ?!」


 敵の足が止まったのを確認して即座に反転、アンジュの手を引きひた走る。……これはお使いが全て終わってもアリシア達を待つ暇は無さそうだね? この分だと私達が泊まってたホテルも押さえられてそうだし、参ったなぁ。

 本当にアリシアは一人で大丈夫だったのか不安になってきた……いくは官位と爵位を持ってても暗殺されない訳じゃないし、何も無いなんてそんな都合の良い事はなさそうだし……不安しかない。


「頭下げて!」


「うわっ!」


 ​路地裏の交差点……その場に足を踏み入れると同時にアンジュと一緒に頭を下げれば案の定待ち伏せされていたらしく、頭上を銃弾が掠めて行く……発砲音が聞こえた方に向けて発煙筒を投げ込む。

 私の発煙筒は涙が止まらないアリシアとの共同開発した特別製よ、そのまま戦線離脱しちゃえ。


「ふふ、『玉ねぎ香辛料爆弾.ver17』だったかな?」


「……なにそのダサい名前」


「……アリシアに言っちゃダメよ? 落ち込むから」


「お姉さんのネーミングセンス……」


 他にも色々とあるけれど……どれも全部とても個性的な名前なんだよねぇ……なんだか幼少期に友達を助けてあげようと色々作ってみたのが始まりらしいけど、もうちょっと名前はどうにかならなかったのかな? ……いや、私は結構この名前好きだけどね。

 ……っと、もう追加の追っ手が来たのか……よしアリシア命名の兵器よ! いくのだ!


「おりゃ! 『滑るンデス君八号』!」


「うおっ?! なんだこれ?!」


「滑る!」


「滑るンデス君八号……」


 アリシアが微妙な顔をしてるけど、私は結構可愛いと思う……特に命名者の得意げなドヤ顔が思い浮かぶ辺りが特に……絶対に『ふんす』とか『ふふん!』って感じで命名したに違いない。

 こんな素敵な物をわざわざ開発して貰った幼少期のアリシアの友人とやらは幸せ者ね。


「アンジュ、残りの場所は?!」


「えーと……後はバルバトスのホラド伯爵領支部宛だけだよ!」


「バルバトス……あぁ、魔法使いが関わってるらしいんだから、狩人を呼ぶのは当たり前だったね」


 というか、アリシアの為の慰安旅行だったのに……何故か殺人事件の捜査をする事になるわ、ただの殺人事件のはずだったのに領主の陰謀を疑う事になるわ、領主の陰謀だと思ってたら魔法使いが絡んでるわ……もう散々だね! いっそのこと笑えてくるよ! アハハハハ!

 ……とりあえず『ホラド伯爵領』の警察武官と違って、アリシアの言うガイウス・マンファンという方が信頼も仕事もできると良いんだけど……まぁ今は狩人に連絡するのが先か。


「アンジュ、ガイウスって人は信頼できそう?」


 領主に騙されて拘束されている可能性もあるけど、ここ警察武官達は全員が全員まったく信頼出来ないからね……最悪の場合は領主と魔法使い達の企みに積極的に加担してるかも知れないし、安心感が欲しいだけど。


「うーん、一応お姉さんは信頼してる風だったけど……」


「……アリシアが信頼してるなら、まぁ良いかな?」


 それでも不安は尽きないけど、それを最低限の担保としておくかぁ……。


「まぁでも……」


「うん?」


 脇に挟むようにして担いで『ぐぇっ!』という情けない声を出したアンジュの声に斜め下を振り向き​──


「​僕が直接話して暴いてあげるよ」


「……」


 ​──あら怖い。


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