第13話.相談

「……無事に転移できたようだな」


危なかったな、目が覚めたと思ったらリーシャが一人で俺たち二人を抱えて孤軍奮闘していた……本当に俺が情けないばかりに彼女に負担を掛けてしまった。


「はぁ……はぁ……」


「リーシャ、大丈夫か?」


「……少、し……だけ休、め……ば、大丈、夫……で、す」


リーシャが肩で息をする度に、油の挿していない歯車のような軋んだ音が鳴り響く……目尻からは赤錆のような涙が頬を汚していく様を見て、本当に無理をさせてしまったと自覚する。


「……すまない」


「い、え……大丈、夫で……すか、ら……ね?」


そう言って無理に笑うリーシャが今もずっと胸を抑えているのを確認して心が苦しくなる……やはり、応急処置はしたがそれだけでは揺り戻しの辛さは消えないのだろう。


「魅了、は……平気で……す、か?」


「あぁ、このペンダントを握ると不思議と頭がクリアになる」


「そ、うで……す……か……」


いつから持っているのかも分からない瑠璃色の、誰かの瞳の色を模したかのような椿の華を象ったペンダント……これが俺を魅了から引き上げてくれたらしい。


「大事、な物……な、ん……で、す……ね……」


「……あぁ、多分な」


本当に……このペンダントはなんなのだろうな? 調べてみても父親の手掛かりらしき物は見つけられないし、どこで手に入れた物なのかも謎で……そのくせ捨てられない。


「とりあえず、今は──」


「──アンタらそこで何してるだい?」


「「っ?!」」


突然に背後から声を掛けられ、リーシャを背に庇いながら急いで振り返ってみれば……斧を担いだアグリーがそこには困惑した表情で居た。……てっきりアグリーが魔女の正体ではないかと疑っていたのだがな。


「……アンタら怪我してんのかい? とりあえずさっさっと入りな」


「あ、あぁ……」


気絶するマークを見るなり顔を顰め、続いて俺とリーシャの様子を見て何かあった事を察したのだろう……何も聞かずに孤児院へと行ってしまうのを慌てて追い掛ける。


「あっ……す、いま……せ、ん……」


「気にするな」


マークを背負い、まったく身体を動かせない様子のリーシャの肩と膝裏に腕を通し、両腕で支えるようにして担ぎながらアグリーの後を追う。……本当に身体の骨が鉄になったみたいに固く、上手く動かせない様子のリーシャを見て、絶対のあの痴女をぶち殺すという決意を固める。


「ほら、娘はそこのソファーに寝かせな……マークを部屋に寝かせてくるさね」


「あぁ、助かる」


部屋に着くなり、アグリーはそう言って部屋を出ていく……マークの頭の傷はもう癒したが……気絶から目覚めるまでにもう少しかかるだろう。


「……大丈夫か?」


「は、い……短時、間に……魔法、を……使い過ぎ、た……だ、け……ですか、ら……」


「……そうか」


『生命』で編んだ毛布を魔法で造り、ソファーへと横たわるリーシャへと被せる……こればかりは時間しか解決してくれないからな、早く回復してくれると良いが……短時間の内に連続で魔法を行使し続けないための、交代で魔法を行使するための相棒なのに……色ボケしてしまうとは情けない。


「リーシャ、今の君に聞くのは心苦しいが……」


「? な、んで……す……か?」


「…………供物はあとどれほど残っている?」


こんな状態のリーシャに頼ってしまうのは本当に心苦しいが……あの魔女は『生命』を力の源とする魔物だ……他の魔物と違って純粋な魔力をぶつけたり、身体の強化に使ったりといった単純な物ではなく、半ば魔法使いの様に魔力を操る術を学習し始めている。……しかも理性があり、まともな会話まで出来るとなると厄介な可能性まで浮かび上がってくる。


「奴にまともな有効打を与えるにはリーシャの魔法が必要だ……」


「……Ⅴ号、が……一つ、とIV号……が二つ、で、す……ね、まだ使っ……てはいま、せ……ん」


「そうか、それだけあれば十分だ」


俺たちが用意できる『供物』で最上級の切り札とも言えるⅤ号とその一つ下のIV号が残っているのなら上出来だ……恐らくⅢ号のみで凌いでいたのだろう。


「隙は俺が作る、リーシャも俺が背負って移動する……トドメを任せても良いか?」


「は、い……相棒で、す……から……ね……」


「……ふっ、そうだな。相棒だもんな」


「ふふっ」


毛布の下からリーシャがゆっくりと手を出して伸ばす……それを掴みながら二人して笑う。……まだまだ俺たちではⅤ号が精々だし、IV号ですらそれを『対価』に魔法を行使するとなると自己を保つのに精一杯になるため、とても他の魔法を同時並行で行使するなど出来ない……動けない彼女の足はいつもの鉄人形ではなく、俺が成ろう。


「おっほん! ……そろそろ良いかい?」


「……アグリー、居たのか」


「相棒の下りの辺りからね」


「……」


アグリーが来たのなら丁度いい、妖精の魔女本人に会った事と交戦した事など……報告したい事は山ほどある。……なぜかリーシャは顔を赤くして毛布を頭まで被ってしまったが……そんなに会話を聞かれたのが恥ずかしいのか?


「話がある」


「まぁ大体は察してるさね、なんだい?」


「妖精の魔女と交戦した」


「ほう?」


本当に大体は察していたようだな、交戦したと言ってもあまり驚かないし、説明を続けても特に表情は動かない。……今目の前に居るのだから、違うのだろうが……今も彼女が魔物、魔女の正体ではないかと疑ってしまう自分が居る。


「この孤児院も森の中だが……大丈夫なのか?」


「さぁてね……なんとも言えないね」


「おい」


このババァ……適当な返しをしやがって、自分の身の安全に関わる事だぞ? 本当にそんなおざなりで良いのか?


「話を聞く限り、その魔女は自分の周囲の木々しか操れないみたいだが……今までだって子ども達を攫われてしまっているからねぇ……それを鵜呑みには出来ないねぇ……」


「……確かに、その通りだな」


いくら周囲の木々しか操れていなかったと言ってもただ単に全力を出していなかっただけという可能性もある……今までも子ども達が攫われているのを考えると、確かになんとも言えない。


「だが、まぁ……こちらの心配はしなくて大丈夫さね」


「……そうなのか?」


「あぁ……少なくともアンタらが魔女狩りに出掛けている間くらいはなんとかするさ」


「……マークの魔法はまだ未熟だぞ?」


なんの自信と根拠があるのは知らないが、本当に大丈夫なのか? マークに魔法を教えたと言っても単純な傷を癒したり、少しだけ走るのを早くしたり、重いものが持てるようになる程度だぞ?


「アンタの父親から餞別として『呪具』を貰っているからね……数は少ないが」


「……そういう事か」


俺の顔も見たことのない父親から『呪具』……魔法の効果を一時的に閉じ込めた物を貰っているのなら時間稼ぎくらいは出来るだろう……俺たち二人はその間に魔女を討つ。


「じゃあ、俺たちは魔女に集中していて良いんだな?」


「構わないよ、安心しな」


「そうか」


そういう事ならば、俺はあの痴女をぶち殺す事に全力を注ごう。


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