第14話.留守番

「じゃあマーク、頼んだぞ」


「……あぁ」


そう言ってぶっきらぼうにクレルさんは俺の肩を叩き、リーシャさんを背負ったまま森の奥へと向かって行く……俺が不甲斐ないばかりにリーシャさんは無理をしてしまい、首筋の一部は赤く錆び、未だに身体が上手く動かせない。


「マーク、にちゃ……」


「大丈夫だディック、俺がついてる」


駆け寄るディックを抱き上げながらティコとレックの最期を思い出す。結局、俺たちは間に合わずに二人は死んだ……そればかりか遺体を持ち帰る事すらできなかった。……今もそうだ、クレルさんに魔法を教えて貰っても留守番しかできない。


「……ティコねぇえちゃと、レックにちゃんは?」


「……二人は里親が見つかったんだ」


なにやらあの魅了に対抗する術を見つけたクレルさんなら兎も角、俺にあの魔女の誘惑を跳ね除ける術はない……また、リーシャさんに負担を掛けるだけだ……それなら素直に留守番をしていた方がマシだ。


「……みんな、いなくなるね」


「……そうだな、寂しいな」


…………リーシャさんは本当に大丈夫だろうか? 魔法を本格的に習い始めたばかりの俺では凡そ理解はし切れないが……その身に『鉄』の魂と記憶、そして性質を取り込み過ぎて彼女自身が鉄に成りかけていたらしい。……魔力の総量が少なく、〝偉大なる大地〟との距離が遠いウチから無理をすると揺り戻し……〝偉大なる大地〟からの聞き返し・・・・による魔力の逆流も身体に負担を掛ける。


「クレルおにいちゃ、とリシャねぇちゃんも……?」


「……あの人達は大丈夫だよ、また戻って来るさ」


いや、今はあの二人を信じよう……俺の魔法の師匠と、その相棒を……。クレルさんが大丈夫だと言うなら俺に出来る事はなにも無い。


「……またあそべる?」


「あぁ、あの人達は心配しなくて良い」


あんな状態になったリーシャさんも戦うどころか、むしろ主戦力でトドメを任せるという……本当に、本職の魔法使いには敵わないな……だから──


「──せめて自分の家くらい守らないとな」


「『……』」


花の生命を対価に行使した魔法でディックを眠らせながら目の前に現れた木人・・を睨む……あの女の姿形を模した木々達を見て、『なるほど、奴らが弟達を……』と納得する。……あの女自身では無いからか、未だに誘惑はされてはいないが……せめて目は見ないように気を付けなければ。


「……お前らが攫っていたのか?」


「『……』」


おそらく間違いないと思うが……あくまでも木でしかないコイツらなら気配も感じさせないだろうし、この森の中で森と同じ魔力を纏ってる木だからこそ……魔力も感じ取れなかったのだろう。……森の中のどの木が、どのくらい動いたかなんて察知できる訳ない。


「なんで今さら目の前に出てきた?」


「『……』」


子どもを一人、二人攫うのにそれだけ慎重を期して来た臆病なコイツらが、なぜいきなり目の前に出てきたのかが分からない……まさかとは思うが、俺たちをリーシャさん達に対する人質にでもするつもりか? ……だとしたら尚さら許せない。


「……だんまり、か」


「『……』」


「所詮は木偶人形でしかないってか」


あの女を模して彫ったような造形ではあるが、開く口を持っている訳でもない……なんでただの人形に話し掛けているんだろうな、俺は?


「『我が願いの対価は華三輪 望むは山崩す膂力』」


まぁどうだっていい、今は目の前のコイツらをどうやって凌ぐかだ……本体であるあの女はクレルさんとリーシャさんが絶対に討ち取ってくれる。……なら、俺がすべき事は決まってる。


「覚悟しろッ! 木偶人形ッ!」


「『……!』」


ディックを背負い直し、ぼうっと突っ立っている木偶人形共に突貫する……俺の動きに合わせてほぼ同時に構えを取り、俺の攻撃に備える奴らの目の前──


「──あばよッ!!」


「『……?!』」


直前で踵を返し、全力で奴らから遠ざかる……突然の事に固まる奴らを見て、『完全な人形って訳でもないのか……』と観察しながら薄ら笑う。


「『……』」


「うおっ?! 速っ!」


一瞬の硬直の後に俺を追うべく奴らが迫るが……そのスピードが木々で出来た人形とは思えないくらいに速い。……他のガキ共を回収しながら逃げ回れるか不安になってくる。


「……いいや、逃げてみせる」


俺の勝利条件はほんの少しの間、クレルさんとリーシャさんがあの魔女を討ち取るまで逃げ回るだけで良い……簡単な事だろ? それさえ出来なければ俺は……自分の『価値』を認められそうにない。


「……確か、こういうの鬼ごっこって言うんだったか?」


リーシャちゃんがガキ共に教えていた遊びの一種らしい……今の俺の状況とモロ被りするじゃねぇか、笑えるな。


「おら、遊んでやるから捕まえてみろ」


「『……』」


……婆ちゃんは無事だろうか? 数少ない『呪具』のほとんどを俺と、この場に居ないガキ共に持たせて大丈夫なのだろうか? ……いや、婆ちゃんの事だからきっと平気だろう、俺は自分の事に集中しろッ!!


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「あっ! 本当に来た!」


「マコおねぇちゃーん……」


クレルお兄さんとリーシャお姉さんの言った通りだ! 本当に木で出来たお人形さんだけど、私たちを攫う悪い人が来た……よ、よおし! 今この場にいる子ども達の中で一番お姉さんな私が頑張らないと。


「良い? みんな、あの人達に捕まっちゃいけないからね?」


「そうなのー?」


小さい子達は直ぐにパニックを起こして泣き出しちゃうから、優しく怖くないよって事を教えてあげなくちゃ!


「そう、リーシャお姉さんに教えて貰った鬼ごっこよ!」


「鬼ごっこ?! がんばる!」


途端にやる気と元気を出す小さい子達を見て満足気に頷く……さすがリーシャお姉さんが教えてくれた新しい遊びだ! この森の中では常に退屈との勝負だから、鬼ごっこはまだまだ新鮮な遊びだもんね!


「っとと、その前に……『返済日だ、メーメメー、子羊を護れメメーメーメー』」


お婆ちゃんから貰った『じゅぐ?』って言う御守りのスイッチを入れる言葉を教えて貰った通りに言うと……白い半透明の、杖を持った男性が現れる……凄い、本当になんか出た! ……でもなんで『メーメー』言ったらなんだろ? まぁいいや!


「じゃあみんな、逃げるよ! あの木のお人形さんに捕まったら負けよ!」


「『わぁー!!』」


白いお兄さんにお人形さん達を任せて、私は小さい子達を纏めながら逃げる。……リーシャお姉さん、大丈夫かなぁ? 心配だけど、クレルお兄さんが居るから大丈夫だよね! カッコイイもん!


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