エピローグ

「ほお、生きておったか」


「開口一番がそれかジジィ」


奈良の底アバドンに帰還してすぐ様エントランスで待機していたらしい師匠に嫌味を言われてしまう……隣にはマーリン様も居るがなにかあったか?


「まぁよい、ワシらは先に執務室で待っておるから報告を終わらせて来い」


「あ、あぁ……リーシャ行くぞ」


「は、い……」


なんだかよくわからんが大事な話でもあるのだろう、言われた通りに報告するべくリーシャへと声をかける。


「イヒヒ、仲良くなれたようじゃな?」


「黙れジジィ」


「ワシに対して辛くない?」


こちらをおちょくってくる師匠クソジジイを無視して、受注した時とはちがって赤く点滅しているランプのある受付へと赴く。


「クレル・シェパード様とリーシャ・スミス様ですね? ご報告をお願いします」


「あぁ」


村ではリーシャに大変な負担をかけてしまったからな、ここでの報告は俺が全て請け負う。


「……なるほど、凡そは解りました」


依頼を受けてから組織を出て、村に辿り着きそこで見聞きしたもの、魔物に遭遇するまでとした後、大体の考察とどうやって倒したかを報告する。


「詳しくはこの形式に則って報告書を書き、後日提出して下さい。期限は一週間後までとなります」


「わかった」


受付から複数枚の書類を渡される、これならリーシャもできるだろう。漆黒の羊皮紙に粘り気のある白いインク、鷹の羽根ペンのセットであり、無くさないようにと念押しされる。


「では師匠たちの下へ行くか」


「……(コクッ」


▼▼▼▼▼▼▼


師匠と同じ過ちは犯すまいと姿勢を正して、重厚な楢の木でできた扉……細かく四千年前の大戦を描いたのだろう彫刻が施されたそれを軽く三回ノックする。


「……クレルです、入ってもよろしいでしょうか?」


『……入りな』


許可が下りたところでゆっくりと扉を開いてリーシャと二人中へと入り、音を立てずに閉める。


「……本当にお前の弟子か? えらく常識的じゃないか」


「そらどういう意味じゃい」


……師匠は女性の部屋だろうがノックもせず入るからな、酷い時はそのまま転移してくる。むしろその弟子という事で何度か師匠の知り合いの女性から、俺まで初対面で警戒されれば嫌でも礼儀正しくなるというものだ。


「まぁいい……とりあえず良く帰ってきたな、まずは褒めてやろう」


「……偉そうに」


「事実偉いんじゃ、お前なんぞまだまだひよっこよ……悔しかったらさっさと俺を殺害してみせろや」


癪だか師匠の言うことは全て事実だ……俺はむっつりとしながら機嫌悪く師匠の横に座る。それを心配そうな表情で見詰めてくるリーシャに大丈夫だと言うように手を振る。


「……どうやら本当に打ち解けたようだね、この子がこんな短時間で慣れるのは珍しい」


「お? どこまでいったんじゃ? え?」


「クソジジイ、その口を閉じろ」


リーシャが俺に対しては早く慣れてくれたというのは素直に嬉しいが、それによって師匠にからかわれるのはウザイし、なによりもリーシャが顔を赤くしているからやめろ。


「……まさか、本当に?」


「違う、誤解だ」


「隅に置けんのぉ……」


「ぁ、ぅ……」


リーシャの反応を見て、心底驚いたというように感心した様子でしみじみと呟く師匠に殺意が湧く……それを受けて洞窟での介抱の事を未だに引きずっているのだろうリーシャがますます縮こまる。


「応急処置の時に少し距離が近くなっただけだ……それよりも話ってなんなんだ?」


「ほーん……まぁええわい」


……一回本気で師匠クソジジイの寝室にシロアリでも放ってみるか? 俺がほの暗いことを考えていると話が始まる。


「まずは見事あの依頼を達成したと褒めよう、まさか本当に受けるとは思わんかったぞ」


「……待て、どういう事だ?」


「なに、断られるの前提で別の依頼を用意しとったんじゃ」


どうやらあの依頼のきな臭さに気付けば最初は避けるだろうと踏んでいた……というよりもそういう判断ができるか見ていたらしく、本当に受けた時は『お、死んだか』みたく思われていたらしい……クソジジイめ。


「……それにの、同じ北の領地に赴いた新人魔法使い二人組が狩人に狩られたのでな」


「まさか……」


「なんじゃ、知っとるんか?」


同じ領地という事は距離もそれほど離れてはいなかったのだろうし、ほぼ確実に魔物を倒した後に村で襲ってきた二人組だろう。


「どうにか、一人は生きて帰ってこれたようだが相棒の死体は持ち帰れなかったみたいでね?」


「……死体を持ち帰れなかったら何かあるのですか?」


マーリン様が意味深に嘆いてみせるのを怪訝に思う……魔法使いの死体など、魔力残滓が漏れ出る以外になにもなかったはずだか……?


「あ~、言った方がいいのかねぇ?」


「子どもじゃあるまいし、良いんじゃないか? ワシは知らん」


「……本当に適当なジジィだね、アンタは」


師匠とマーリン様のやり取りに、リーシャと二人顔を見合わせて首を傾げる。


「単純な話だよ、魔法使いの死体は──」


「──そのまま帝国の特殊兵装である、狩人の『猟犬』と機士の『軍馬』の材料となる」


「「──」」


まさかの回答にリーシャと二人で絶句する……なるほど、それならばガナン人の魔法使いではない奴らに魔物や魔法使いが倒せる訳だ、まったく同じ力を元としているのだから。


「お主らも、もしも任務の途中でどちらかが殺されれば出来るだけ死体は持って帰れ」


「相棒だった武器で殺されたくはないだろう?」


「……わかった」


「……はい」


……本当にこの国はどこまで我らガナン人を貶めれば気が済むのだろう。


「まぁ暗い話は置いておいて、そちらの詳しい話も聞こうじゃないか」


「あぁ、それなら──」


こちらも気分を変えるために師匠の要望を聞き入れ、受付にしたのに時折解説を混じえた報告をする。


「どうやらちゃんとこの子は役に立ったみたいだねぇ」


「それはもう……彼女が居なければ危なかったです、紹介してくれたマーリン様には感謝しております」


「ハッハッハ、お礼なら直接この子に言うんだね」


「ぁ、う……」


マーリン様の言うことは尤もだが……リーシャは極度の人見知りで恥ずかしがり屋の疑いもあるし、後でそれとなくお礼を言ってなにかプレゼントでもした方が良いだろう。


「……最後は『対話魔法』でねぇ?」


「何か問題があるのか?」


そんな事を考えていると師匠がなにやら考え込みながら呟くのを聞き、なにか問題があるのかと尋ねる。


「いーや? だがな小僧……魔法は言葉そのものだ、これからも扱いは間違えるなよ?」


「……もちろんだ」


「ハッ! どーだか……対話し過ぎて逆に言いくるめられて呑まれるなよ?」


「……」


実際に呑まれかけてリーシャを害してしまった身としてはそれを言われると痛い……本当にあの時は申し訳なかった……。


「まぁいいわい、今回の依頼難度は推定レベルIIIは固いだろう……一気に評価が上がるからの、一人前と認められるのも案外早かろう」


「それは嬉しいが……」


そんなに今回の依頼は師匠たちから見てヤバかったのか……こちらの運がとてつもなく良かっただけみたいだな? 調子に乗らず、これからも堅実に行こう。


「お前たち用の寝泊まりする部屋を用意してある……これからそこで暮らすことになるだろうし、受付で確認して今日はもう休んでいいよ」


「次の依頼までしばらく待機じゃな、それまで好きに過ごすいい」


「……ではこれで」


「……(ペコリ」


マーリン様からの提案により、今日は一先ず休む事にする……さすがに旅の疲れが出た、このままぐっすり眠りたい気分だ。


「リーシャ、これからもよろしくな」


「こち、ら……こそ……」


リーシャという最高の相棒とお互い笑顔で握手を交わし、部屋の前で別れるのだった。


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