第5話.村の窮状
「ささ、そこに座ってくだされ」
「……」
村長さんに促されるままにリビングのテーブルを挟んで向かい合う形で椅子に座ります……村長さんの家であっても隙間風が酷く、とても寒いですね。
「さ、どうぞ……私は引っ込んでおきますね」
「……(ペコり」
村長さんの奥さんらしき人がお茶を淹れてくれたので会釈をします……その後すぐに奥に引っ込んだのでお礼が言えませんでした、反省です。
「……あちっ」
「ハハハ、お気を付けを」
お茶を一口含むと予想以上に熱くて思わず声が出てしまいました……恥ずかしくて死にそうです、もう帰りたいです……お茶自体は薄味でしたが美味しかったです、まだ頑張れます。
「さて、どこから話しましょうか……」
「……」
こちらを生暖かい目で見たあと村長さんはどこから説明しようかと悩み始めます……この無言の間が個人的に辛いです。
「……まず、ここら辺の村々は二年ほど前に、トンネルが開通するまでは街に出るまで往復一ヶ月は掛かっておりました、これは周りを険しく背の高い山に囲まれているためですね」
「……」
確かにこの北の大地で山に囲まれた地形では、容易に外界と交流することは極めて困難でしょう。往復に一ヶ月掛かるというのも納得です、一々登山と下山を繰り返さなくては行けませんし、雪山ですからね……。
「基本的に寒く、山に囲まれているために日照時間も短い……これでは作物を育てられるはずもなく、外界と交流も難しいときたらあとは狩猟しか残っておらんのです」
「……」
それは理解できます。作物は時に通貨の代わりにもなります、それが小麦や米なら尚更です……嗜好品である茶葉すら作れないとなれば頑張って街と交流できても換金できる物がないため意味は薄かったでしょう。
「じゃがいもなども試してはおるのです、しかしながら段差が酷く、耕作面積が小さいために精々村の中で消費する分が精一杯でしてな」
「……」
寒冷地といえばじゃがいもというくらいには有名ですが、そもそも作る場所が無ければ意味がありませんからね。
「狩猟を生業としても動物たちも餌がないため獲れる数は少なく、切り詰めても苦しい状況が続いておりました」
「……」
このような場所では仕方がありません、この厳しく寒い気候でまともに植物が育たないのですから山の幸がなくて動物が穫れないのも無理はありません。
「……お客人に話すのもどうかと思うのですが、特に寒い冬はそれはもう苦しくて……なので口減らしに労働力にならない老人や小さな子どもを山に捨てておりました」
「……」
それ、も理解は……できます……今まで聞いた村の状況では労働力にもならず、貴重な備蓄を消費するだけの存在を養う余裕は……無かったのでしょう。
「今でこそトンネルが開通し、街との交流の他に領主様や帝国政府からの支援が届き始めましたが……それまでは毎年集会で山に捨てる者を話し合いによる多数決で決めておりました」
「……」
なげ彼らの先祖はここに住もうと思ったのか……関係はありませんが気になりますね。ここまで追い詰められていたのですから、山に捨てることを部外者の私が責めることはできませんが。
「この二年でようやく生活が安定し、山に捨てることもしなくて済んだ……その矢先に魔物災害です、村の者の中には今まで捨ててきた者たちが化けたのだと騒ぐ者もおります」
「……」
なるほど……それで特定の家に怯えているように見えていたのですか、事実怯えていたのですね……その家々は捨てられた者の住んでいた、あるいはその家族が住んでいる家なのでしょう。
「せっかく村人全員で冬を越せるようになったと言うのに、村人同士で疑心暗鬼にはなりたくないのです……どうか、どうか魔物を討伐して我らを安心させてくだされ……!!」
「…………任せ、て……くだ、さい……魔物は討伐して、みせ……ます……!」
ここまでの話を聞いてなんとも思わない人は居ないでしょう、それに仕事でもありますからね……彼らを救うことに全力を出しましょう!
「……それ、では……早、速……行ってきま、すね……」
「……もう行かれるのですか?」
「……(コクッ」
村長さんの質問に頷いて答えます……クレル君から渡された紙に書かれた事は私が聞く前に村長さんが全部話してくれましたし、なによりも村にいてはクレル君が不便ですからね……早めに山に出ましょう。
「そうですか……外までお送りしましょう」
こちらを申し訳なさそうに見詰める村長さんの見送りを受け取り村を出ます。
「ふぅ〜……疲れましたね──」
「──お疲れ様」
「あひゃあ?!」
あっ……あまりの驚きと想定外のコミュニケーションに脳がシャットダウンして行きます、つまり気絶です……驚くクレル君の表情を最後に視界が閉ざされます……そういえばクレル君が後ろについていたんでしたね……不覚です。
▼▼▼▼▼▼▼
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます