魔物調書.No214,585『切り裂きジャック』※討伐済み

この書物は魔法使い相互組織『奈落の底アバドン』の管理下にある、魔物について纏めた物である。利用者は以下の項目を厳守せよ、


(一)書物を破損しないこと

(二)必ず元の場所へと戻し、司書へと報告すること

(三)持ち出しは厳禁

(四)読んだ事柄は口外禁止

(五)新たな情報は直接書き込まず、司書を通じて知らせること

(六)これら破った者は殺害する


以上を守って楽しく読書しましょうネ☆彡.。


by.図書館司書


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名称……『切り裂きジャック』


推定討伐難度……レベルII


出現地域……レナリア帝国・旧スカーレット男爵領


起源……愛情。


討伐者……クレル・シェパード


容姿詳細……腐った血に塗れた巨大な赤子、瞳からは絶えず蛆虫の涙を流し、人の手脚で出来たよだれかけを着けており、口の中には被害者の物と見られる子宮を常に咀嚼している。


戦闘詳細……手に持つ巨大な鋏で敵対者を切り刻み、駄々子のように手脚を暴れさせることで防御する。

その鋏の切断能力は高く、地面やコンクリートすらも切り裂くほど。

基本的に四つん這いだが、その見た目からは想像もつかない機動力を持って獲物を追い詰める。

赤子の泣き声のようなものに魔力と起源を乗せ、爆発的に周囲に共感者を生み出すために、討伐が遅れればドッペルゲンガーを大量に増やしたと推測される。


行動詳細……深夜の闇に紛れ、自身の母親の偶像を求めて彷徨い、目に付いた母親や妊婦を襲って切り刻み、最後にはその子宮を奪い去って行く。

段々と行為がエスカレートし、犯行の間隔が短くなるのはいつも通りと言える。


以降は討伐者であるクレル・シェパードからの聞き取りによって『切り裂きジャック』がどういった経緯で産まれたのか記したものである。


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『切り裂きジャック』の元となった人物は孤児であり、母親というものを知らずに育った。当然自身の名など知らない。


『……』


唯一の肉親との手がかりは読めないイニシャルの掘られた散髪鋏のみで、それを捨てることも売ることもできずに持ち歩き続けていたと見られる。


『チョッキン……チョッキン……』


ある日のこと、その人物はいつも通りに鋏で遊びながら彷徨っていると、路地から見える表通りにて仲良く母親と談笑しながら家路につく子どもに自身を重ねてしまったらしく、その親子について行ってしまう。


『ねぇ、お母さん?』


『ねぇ、ママ? この子誰?』


『きゃっ?! 気味が悪いわね! あっちに行きなさい!』


『あっ……』


当然の如く跳ね除けられ、地べたに座り込んでしまう。愛情を求めた矢先にこの仕打ちである……断片的にしか見ていなかった通行人も彼に同情の眼差しを向ける……。


『うぇへ、うぇへへ……うへっへっへっへっへっ』


しかしながらそれは彼にとって初めての『自身に向けられた感情』だった……来る日も来る日も散髪鋏を売らず、他の孤児よりも強く家族の愛情を求め続けた彼だから故にそれが嬉しかった……。


『ねぇ、ママ?』


『きゃっ?! 誰よこの子!!』


『お母さん』がダメならば、あの親子の子どもが呼んでいた『ママ』ならどうか……結果は変わらず、しかしそれでも……。


『うぇへ、うぇへへ……うへっへっへっへっへっ』


彼は嬉しくて笑った、これが自分の求めていたものなのではないかと……でも一時の満足感が終われば残るのは虚無のみ……彼は酷く落ち込んだ、それはもう酷く落ち込んだ。


『ママ……お母さん……違う……お母さん? ママ? ……違うの?』


彼は次第に壊れていった……いや、もしかしたら最初から壊れていたのかも知れない……だからだろう、その願望に魔力残滓が反応してしまった。


『願い……叶える……対価……支払う』


彼にとって価値ある対価などそれこそ自我が芽生えてから片時も離さなかった散髪鋏のみ……。


『お母さんかも知れない物よりも……お母さんが欲しい……』


彼はこの時初めて……その散髪鋏を手放した。裏町のギャングに追われようとも、孤児達の縄張り争いに負けようとも手放さなかったそれを……支払った。


『マ"ッ"マ"?"』


ようやくして魔物『切り裂きジャック』は産まれた、彼だった者は母親の愛情を求めて夜ごと彷徨う。


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