エピローグ
「……師匠、これは?」
「ん? おぉ、それはじゃな? ……ワシのフケじゃ!」
「おい!」
腹違いの兄であったディンゴを対価に、魔物と狩人を撃退してから七年……俺はいつの間にか倒れていたところを今の師匠である『大樹のセブルス』と裏の世界では有名な魔法使いに拾われ、育てられてきた。
「これのどこが秘薬なんですかね?!」
「若いのがそう怒鳴るでない!」
今も修行と称した師匠の遊びにウンザリする……確か師匠の『供物』に使う大事な物だと言う話なのに……。
「……そうじゃ、クレルよ!」
「誤魔化さないでくださいよ?」
「誤魔化してないわい! 大事な話じゃ!」
「師匠が……?」
「お主……」
師匠がわざわざ大事とまで言う話ってなんだ? まったく検討もつかない……。
「はぁ〜、まぁいいわい……お前、供物の準備はよいか?」
「大丈夫だけど、なんでまた?」
『供物』……それは強力な魔法を使うために魔法使いが用意しておいて然るべき物……いきなりその場で自分にとって価値ある物を対価として払えなんて無茶な話で、さらには万人にとって価値のある金や宝石なんかが落ちているはずもない……。そのために魔法使い達は予め『消費できる価値ある対価』を用意する……師匠である『大樹のセブルス』ならば、自ら育て上げた植物がそれに当たる……いつも我が子のように育て、供物として消費する時は身が裂ける想いがするのだと言う……正直、師匠ほど『供物』に感情移入する魔法使いは珍しい……珍しいがほぼ全ての魔法使いの常識であるために、最初の頃は『供物』の事を知らない俺に、師匠は大層驚いていた。……父さんは行方不明、母さんは早くな亡くなったから仕方ないと言えば……ないけどね。
「……お前も今年で十七歳じゃ、これから『
「っ?! まさか……」
『
「そうじゃ、そのまさかじゃ……お前も闇の住人になれや……所詮我ら魔法使いに生きる場所はそこしかあるめぇよ」
そうだ、魔法使いは日陰でしか生きることはできない。師匠から独立し、日々の食い扶持を稼ぐためにも所属しないという選択は……ない。
「イヒ、イヒヒ! 期待しておるぞ? ……いずれ、このワシを殺害して見せい!」
「言われなくても、クソジジイ」
▼▼▼▼▼▼▼
「今日付けで特別対魔機関バルバトスに配属されました、アリシア・スカーレット准尉であります!」
「ふむ、スカーレット? ……あぁ、没落領主一族で、あの『乱獲』のお弟子さんだね?」
「……はい、その通りです!」
友人を誰一人として護る事が出来なかったあの屈辱の……師匠に拾われたあの日から七年、ようやくクレルを探すスタートラインに立てた。
「士官学校では非常に優秀な成績であり、生体兵器である『猟犬』とも素晴らしい適合率を見せたとか……その優秀さでもって准尉スタートなんだ、期待しているよ?」
「はい! ご期待に添えるように奮励努力致します!」
「アッハッハッ、固いよ〜」
正直目の前の人が大佐だなんて思えないけど……階級は私よりも遥かに上、師匠よりも偉いのだからしっかりしないといけない……いけないけど、どうしたらいいのかしら?
「あー、困らせたいわけじゃないんだ、ごめんね?」
「あ、いえ……恐縮であります!」
「アッハッハッハッハッ」
「……」
正直この軽い感じはなんとかならないものかな、と思うけど一応上司だし、喩え本人が許可してもしっかりしなくてはダメだろう。
「あぁ、そういえば私の自己紹介がまだだったね? 許しておくれ……特別対魔機関バルバトス司令室勤務のヒサシ・スズハラ、階級は大佐だよ……一応ね?」
「よろしくお願い致します!」
「ブフォッ!……いや、失敬! ついね……」
本当に我慢よアリシア……師匠も言ってたじゃない! このスズハラ大佐は『甘党腐れ外道愉快犯』だって!
「さて、おふざけはこれくらいにして真面目な話をしよう」
「……」
これ、ふざけてたのは貴方だけですって言ったらダメなのかしら?
「新兵は自身の階級よりも二つ以上上の者と組むのが慣例でね、これはなるべく初陣の事故死を防ぐためだ……まあ、それでも死亡率は高いんだけどねぇ〜」
「……」
真面目な話をすると自分から仰ったのですからら、最後まで頑張っていただきたい!
「そこで君には、ガイウス特務中尉と組んで貰うよ、いいね?」
「はっ! 謹んで拝命致します!」
「よろしい、では行きたまえ」
「失礼します!」
ふぅ〜、疲れた……でもここからが本番よ! 師匠との辛い修行にも、士官学校でのイビリにも耐えてやっとここまで来たんだから! ……待っててね、クレル!
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