第277話休戦
「どうします? このまま続けますか?」
答えを分かっている癖に目の前の彼女はそんな事を宣う……彼女のすぐ側には本国からと思わしき手紙を携えた悍ましい蝿が待機している。
かく言う僕もフィーリアからの『戻って来い馬鹿野郎!』っていう手紙を従魔の雷鳥から貰ったところだ。
「冗談」
「では休戦しましょうか」
「そうだね、観客も増えて来たみたいだけど……あの紳士さんみたいな面白い邪魔とはいかないだろうし」
僕と彼女がこのまま暴れても最早良い事なんて欠片もないだろう。
周囲には僕たちを囲むようにして無数のプレイヤーと治安維持NPCが待機しているし、それに何よりも――
「――まさか空き巣に入られるとはね」
いつの間にやら自分達でも国を手に入れたらしい、秩序連合とやらが僕たちの本国を襲ったという。
中々愉快な事をしてくれるなってワクワクして来たんだけど、そもそも今ここで彼女と戦ってた理由を考えると看過はできない。
今回のウォーゲームに於いて大事なのは如何に相手よりも初動で差を付けるか……その為に妨害に来るであろう彼女を退け、そのまま僕自身も彼女の国へと嫌がらせをしようとした。
それらが達成されないままに第三者から漁夫の利を盗られるのは面白くない。
そして何よりもこのまま彼女と楽しい殺し合いを演じても、周囲を囲んでいるプレイヤー達が横槍を入れてくるのは確実と言ってもいい。
そして彼らはあの変態紳士の様に僕たちを楽しませてくれる事はない、ただの有象無象だ。
そんな者達に冷やかされながら無理に遊ぶよりも、ここは実利を取った方が良い。
「彼らも面白い事を考えますね、徒党を組んで抑止力になろうとは」
「撒いてきた種が遂に芽吹いたかぁ、って感じだね」
「? ……そうですか?」
今まで散々に好き勝手にやってきた自覚はあるからね、そろそろ常識的な彼らも吹っ切れる頃合だろうと数値の計算してはいた。
目の前の彼女は素でやってて自覚は無かったみたいだけど、あれだけヘイト稼いで目立てば報復やら対抗同盟やらあるだろうなっていうのは分かる。
まぁ、彼女からしたら報復されたという認識はなくて『あ、この人も一緒に遊びたいんだ』としか思ってないだろうけど。
「……ですがまぁ、このままでは言いなりにみたいで癪ですね」
「奇遇だね、僕もだよ」
そんな事を言いながら彼女は僕やプレイヤー達の目の前め鎧を脱ぎ、それを影へと落とす。
っていうか、本当に無防備だね……こういう事にあんまり頓着しないのは分かってたけど。
周囲を取り囲んでいるプレイヤー達から動揺する気配が伝わってくるのもさもありなんって感じ。
「影山さんと一緒に居れば連れて行ってくれますよ」
なるほど、鎧の従魔を装備させながら、妨害プレイヤーの下へと差し向けた影の従魔の分体の方へと『影転移』させるのか。
これで妨害プレイヤーの下へはステータスが半分になった影のモンスターではなく、ステータスが十全になってさらには鎧を装備したほぼ完全体が現れる事になる。
……まぁ、傍から見たら急に彼女が鎧を脱いで、その下の身体にピッタリと張り付くインナー一枚になったとしか思えないからビックリするよね。
「それではご機嫌よう、またお会いしましょうね」
「あぁ、そうだね」
自身の影から這い出て来た、人間一人くらいなら余裕で乗れそうな程に大きく悍ましい蝿に掴まりながら彼女は空へと飛び上がっていく。
多分だけど、鎧があるとさすがに蝿が持ち上げられなかったのか――それとも重量は関係ないけど、従魔の数がそのままゲームシステム的な人数制限に引っかかったのかな。
「「次は殺す」」
周囲に放出し、滞留させていた微弱な電磁波の出力を一気に引き上げては周囲のプレイヤーやNPC達を感電させながら彼女と笑い合う。
「さて、一旦帰るかな」
次はそうだなぁ……多分お互いに外へと拡張し切った辺りかな?
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