第231話少女が三人寄れば姦しい
「ほうらほら、這いつくばりなさい?」
「むきっー!」
ゲームにログインし、何やら疲れた様子のエレンさんを労わってあげた後に指定の待ち合わせ場所に来てみれば争う声が聞こえます。
その場で『遠見』スキルを発動してみれば……あれはマリアさんとブロッサムさんですね。
第二回公式イベントの際にはお互いに協力し合って私を楽しませてくれたと思いますが。
「お二人は何をしてらっしゃるんです?」
「あっ! レーナさん!」
「あら、ちゃんと来たのね」
とりあえず待ち合わせの時間がもうすぐそこなので話し掛けてみます。
マリアさんは私の声に『味方が来た!』とでも言い出しそうな表情で顔を輝かせ、ブロッサムさんは意外なものを見たという顔をしてますね。
公式イベントの時はたまたまであって、意外とこの二人は相性が悪いのでしょうか?
「聞いてくださいよレーナさん!」
「なんですか?」
「この子ったら、私と話してる途中でいきなり他の男性プレイヤーを跪かせて顔を蹴ったんですよ?!」
「下僕が手柄を立ててご褒美を強請ったからご主人様として応じてあげただけよ」
……なるほど、マリアさんと会話をしている最中にブロッサムさんの下僕さんとやらが何やら手柄を立て、それを元にご褒美を願ったと。
そしてブロッサムさんはそれに応じる形で下僕さんを跪かせ、そのまま位置が下がったその方の顔を蹴り飛ばしたと……こういう事ですかね?
「……それがどうしたんですか?」
「これだけじゃないんですよ! 顔を蹴ったと思ったら他の男性プレイヤーをそのまま椅子にするし、かと思ったら次は女性プレイヤーに素足を舐めさせてるんですよ!」
「あーあ、女王様は下僕の管理も大変ねー」
「一旦椅子から降りてから言いなさいよ!」
なるほど、それでブロッサムさんは四つん這いになった知らない男性の上に座ってたんですね。
知らない女性がブロッサムさんの足を舐め、知らない男性が恍惚とした表情で近くで横たわっているのも納得です。
……多分この男性は顔を蹴られた方ですね。
「はぁはぁ……まさか聖母様だけでなく、ジェノサイダーとも気安く話せるとは……さすがはボクの女王様でふ!」
「誰が勝手に喋って良いと言ったの? 黙って椅子をしてなさい」
「はひぃ! ありがとうございますッ!!」
「ぴっ!」
急に椅子が言葉を発したと思ったらブロッサムさんにお尻を乗馬鞭で叩かれ、歓喜の声を上げ始めます。
それを見てマリアさんは思わずといった様子で、スズメの様な声を出して私の後ろへと回り込みます。
「……ま、初心な聖母サマを揶揄うのはこのくらいにしましょうかね」
その一言と共にブロッサムさんが手を二回ほど叩くと、途端にその場に居た二人の男性と一人の女性がキビキビとした動きで退散しました。
どうやらかなりの訓練が施されているようですね、モンスターだけでなく人間の類もテイム出来たりしないのでしょうか?
……今度エレンさんに部下を一人借りて試してみましょうか?
「それで? 貴女がちゃんと待ち合わせに来るなんて思わなかったわ」
「約束は守るものですので」
「……約束っていうか、一方的に押し付けただけの気もするけど……まぁいいわ」
現実のブロッサムさんとは似ても似つきませんし、今も本当に彼女が目の前に居る少女の正体なのか分かりません。
ですが、母はいつも約束事は守るべき、それが人との待ち合わせ等だったら尚さら……と、言っていましたからね。
「え、レーナさんとブロッサムって待ち合わせしてたの?」
「そうよ? 目的は決まってないけど、一緒に『遊ぶ』のよ」
「ふ、ふ〜ん? へぇ〜? そ、そうなんだ〜?」
「……あらぁ〜? 聖母サマは気になる事でも?」
「べ、べべ、別に? なんかモニョるとか思ってないし?」
……やはりこの二人は仲が良いみたいですね。
年齢的にはマリアさんの方が歳上のはずなんですが、ブロッサムさんの方が背なども高いですし、マリアさんを揶揄っているようです。
そしてマリアさんは何を誤魔化しているのかは分かりませんが、見るからに動揺が激しいですね。
「あっ、私分かっちゃったぁ〜! 聖母サマってば、寂しいんでしょ? 自分だけ仲間はずれにされたと思って寂しいんでしょ?」
「は? そんな訳ないし、マジで、は?」
「誤魔化すの下手くそか」
なるほど、ブロッサムさんが言うにはマリアさんは寂しがっているようですね。
確かにまだ小さかった私が公園に一人とり残されていると、母はいつも悲しそうな顔をしていましたね。
友人を大切にしなさいとも言っていましたし、ここはマリアさんも誘いましょうか。
「よろしければマリアさんも一緒に『遊び』ますか?」
「いいんですか?!」
「ブロッサムさんも良いですよね?」
「……まぁ、構わないけど」
今回はとても珍しい組み合わせでゲームを楽しむ事になりそうですね。
このお二方の仲はとても良さそうなので、特に問題は起きないでしょう。
「精々私の前に立たない事ね?」
「……なんでよ?」
「アナタ小さくて見えないのよ、私が躓いて転んだらどうしてくれるの?」
「は? (全ギレ)」
確かにマリアさんは私よりも頭一つ分くらい背が低いですね。
普通にしててもたまに見失ってしまう事が往々にしてあります。
「アンタこそ精々気を付ける事ね?」
「……なにがよ?」
「似合わない背伸びをして転んで泣いても知らないわよ? まぁ、その時はまた慰めてあげなくもないけど?」
「は? (威圧)」
背伸びをして転ぶ……確かにブロッサムさんはヒールのあるブーツを履いていますし、その状態で背伸びをしたら確かに転んでしまうかも知れませんね。
本当にそんな事になってしまうのかどうかは分かりませんけど。
「「
「わざわざヒールのあるブーツで背伸びをするから躓くんですよ、マリアさんもそんな人の前に出たら危ないじゃないですか」
「「……」」
何の目的があってかは知りませんが、ヒールのあるブーツで背伸びしながら歩いてる方の目の前にいきなり躍り出たら危ないと思います。
躓いて転んでしまうのも当たり前でしょう……まぁ、その後で慰めてあげるところはさすがはマリアさんと言ったところでしょうか。
「それよりも行き先を決めても良いですか?」
「……構わないわ」
「……別に良いですけど」
「? そうですか?」
何やらお二人共に脱力してますね?
事が起こる前に緊張しないのは良い事ではありますが、何かありましたかね。
「実はですね、先ほど招待状が届いたんですよ」
「「招待状?」」
エレンさんを労ってあげた時に『これを渡すからもう辞めてくれ、頼む』とまで言われながら貰った物を取り出します。
その手紙には『クレブスクルム紋』で蝋が押されていました。
「──どうやらベルゼンストック市で反乱が起きるようですよ?」
「「……は?」」
いやぁ、本当に楽しみになって来ましたね。
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