第142話邪魔

「……逃げられてしまったではないですか」


「げほっ……!」


私の顔面を掴む奴の指の隙間から、その顔を覗き込む……まるで『自分以外は興味ないです』とでも言いたげだった無表情が歪み、その瞳は濁りきっていて恐怖すら感じる。

眉を寄せ、口端と瞼は引き攣り、瞳孔が揺れる……ほぼ無表情な中での、ほんの些細な変化だけれど……だからこそ目立つその余裕のなさ。


「……随分と余裕がないのね? そんなにあの姉弟が憎い? ……ざまぁないったら!」


私の顔がさらに地面に押し付けられ、地面に亀裂が入る。怒っている、というよりも悲しくて仕方がないように見える余裕のなさで、力が入りすぎているのか震える手で短刀を振りかぶるジェノサイダーを見て、私はなんだか無性に───────イライラしてきた。


「……………………死ね」


「嫌に……決まってるでしょ!」


奴の気が逸れた隙を狙って『舞踏』スキルの《スキップ》を利用してその腹に膝蹴りを食らわせてやってから、続く《社交ダンス・男》の動作で投げ飛ばしてやる。


「足癖の悪い人ですね」


「……いや、あんたにだけは言われたくないわ」


横に投げ飛ばされたにも関わらず、すぐさま体勢を整えて着地した奴は全身から不機嫌なオーラと殺気を撒き散らして仕方がない……そんなに、あの子たちの事が嫌い? お姉ちゃんのくせに?


「……私は事情は何も知らないけれど、仲良くしたいと言ってる妹を足蹴にする姉が居るかしら?」


「……私に妹は居ません」


私の心臓を狙った突きを放ってくるけれど……最初の頃より簡単に柄で弾く事が出来てしまう。……思ってた以上に動揺してる?


「あの子は良い子よ? 仲良くしてあげたら?」


「……あなたには関係ないです」


大鎌を横薙ぎに振るって距離を取らせ、バックステップをした奴の足が地に着く前に石突でその胸を穿つ……が、短刀の刃先を滑らす事で躱されてしまう。


「ふーん……要は食わず嫌いなのね──ッ?!」


いきなり短刀が影を纏い、大太刀へとその間合いを変え首を狙って振るわれる……のを急ぎ背後から突き上げるように回して大鎌の刃で弾く……いきなり間合いを変えるのは卑怯、ビックリするじゃない。


「もう一度、言います……あなたに、関係は、ありません……」


「あっそ、でも──」


背中に担ぐように構えられ、そのままバネのように振り下ろされる斬撃を腰の周りに回すように振るった大鎌で弾き、刃と場所を入れ替えた柄で奴を殴り付けるけれど裏拳でこちらも弾かれる……が、そのまま肩から回すように大鎌の刃を振るう!


「──そんなん、知らないし」


「…………本当に邪魔ですね」


紙一重で躱され、奴の前髪を数本切り落とすに留まるけれど……ようやく不意打ち以外の攻撃が当たったわね?


「他人の都合だとか知ったこっちゃないわよ? でも気になっちゃうんだもん……仕方ないじゃない?」


私はこのゲームでだけは我慢はしない主義なの、だから自分の友達の肩を全面的に持たせて貰う……残念だけれど、あなたがいくら邪魔だとか、関係ないとか突っぱねても……知ったこっちゃない・・・・・・・・・


「自分勝手に、自分の思う通りに……あなたも散々してるじゃない」


「……」


この数分間の攻防の間に完全な無表情に戻り、何を考えているのかさっぱり分からない……けれど不機嫌な事だけは分かる奴が大太刀を腰だめに構え、それに合わせて私も大鎌を振り下ろせるように構える。

……まぁ、偉そうな事を言っててもその実……キリの良いところで逃げ出す隙を窺っているんだけれどね? もう少し時間を稼げればあの子達も逃げ切れるだろうし、そしたら何時までもこんなお互いに全力が出せない状況でやり合うなんて面白くない事をしなくてもいいでしょ。


「だから私は──マリーにお義姉様って言わせてあげるの!」


私の叫びを合図に両者共に中央へと向けて駆け出す。奴が大太刀にスキルのエフェクトを纏わせるのを確認して、私も《刹那之刈取》スキルを発動させ振り下ろして──


「「っ!!」」


──突然に飛来してきた数発の矢をお互いに弾き合う……誰よ、邪魔をしたのは? 確かに煩かったかも知れないけれど、普通乱入してくるかしら?


「ちっ! 目標共に外した!」


「プランBに移行する!」


「……プランBとかあったか?」


「言ってみたかっただけ! とりあえず地上制圧部隊を展開しろ!」


…………プレイヤー? 私やジェノサイダーを倒して名を上げようってギルドかしら? ……チッ! このわからず屋に妹の素晴らしさを説いてやろうと思っていたのに! ウザイわね!


「…………あなた方も、邪魔をするんですか?」


「? なんの事だかよくわからんが、とりあえずだな──」


…………ジェノサイダーの方からとんでもなく冷たい殺気が漏れてるわね。脳波計測技術が高いっていうのも考えものね、現実よりもその人の怒りだとかが伝わりやすい。

というよりもアイツらなんなの? 距離が離れているからこの殺気には気付いていないでしょうけど……普通ジェノサイダーを狙うのはないでしょ──


「──〝ドキッ?! キ〇ガイだらけのPvP?! 〜ポロリもあるよ〜〟の開催のお知らせでぇーす!!」


「「……」」


……………………思わず公式メールを確認したけれど、まだ公式イベントの開催時期すら未定のままね? まぁ当たり前か、そんな重要な情報を見逃したり忘れるわけないものね。


「わぁー! ドンドンぱふぱふ!」


とりあえずコイツらがアホやってるだけなのは分かったわ。さっさと殺しましょうか。


「あなた達……」


「ん? なにかなジェノサイダーちゃ──」


何か言葉を発したジェノサイダーに反応したプレイヤーアホがこちらを振り向いたと思ったらその顔には深々と短剣が突き刺さって……いや、ジェノサイダーが投擲したのね。


「揃いも揃って…………邪魔なんですよ!! 『破滅遊戯・虐殺器官』!!」


「……邪魔なのには同意するわ、『震天動地・唯我独尊』」


とりあえず私は自分の事は棚に上げ、珍しく素の感情を露わにするジェノサイダーからそっと……距離を取り、このプレイヤー邪魔者達を排除していきながら丁度いいのでそのまま戦線離脱をしていく。


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