第100話アンタッチャブル

「将軍、最後方の部隊も定期連絡は問題ありません」


「そうか」


エルマーニュ王国第一王女が無謀にも我らが帝国に宣戦布告してから一週間とちょっと……王国侵攻の橋頭堡を築くべく、先遣隊である兵士五千あまりを率いて王国領内へと進軍中である最中に部下からの報告に頷く。


「このまま行軍継続、王都を目指す」


「はっ!」


ふん、まさかあのバーレンス辺境伯が完全な中立を宣言して王国と帝国のどちらの軍に対しても通行許可を与えながら、都市を攻めるならば両方を相手をすると啖呵を切るとは……今まで散々帝国の邪魔をしておいて何が目的だ?


「……そろそろ道案内が欲しいな」


「道案内ですか?」


「あぁ、ここは既に完全な敵地……バーレンス辺境伯も信用ならん」


実は奥深くまで帝国軍を引き込んでから王国軍と一緒に攻めてくるつもりやも知れん……今までのことを考えると完全に信用するのはありえないだろう。


「……ん? そこの貴様、何者だ?!」


「……私のことですか?」


前方に変わった形の大剣を背負った長身の男が歩いているのを発見し誰何する……その声を聞き部下たちもそれとなく警戒するが何者だ?


「お前以外に誰がいる?」


「結構いますが?」


「……こいつらは私の部下たちだ」


なぜそんな不思議そうな顔をされるのかわからん……私が間違っているのか?


「私はプレ……渡り人でして、これから王都に向かう途中なのですよ」


「ほう……」


なんと渡り人であったか、これは好都合……未だに渡り人がどこかの組織に明確に所属したという話は聞いていない……完全な中立として道案内を頼むのも良いだろう。


「それは結構、では私たちを王都まで案内してくれるかな? 報酬は出そう」


「それくらい別に構いませんが?」


「……そうか、それは助かる」


不思議な男だ……さも当然というようにこちらを疑いもせず背中を見せて案内を開始するが渡り人とは皆こうであるのだろうか?


「ここから王都までは近いのか?」


「そうですねぇ……途中の村や街をスルーすればすぐですよ」


「そうか」


元々バーレンス辺境領と王都までの間には有力な領地もなければ貴族も居ない……少ない兵力をここで各個撃破されるよりは王都に集中して集める方が賢いと言えるために、無視して進んでも挟撃の心配はないだろう、唯一の懸念はバーレンス辺境伯の罠かもしれないということか。


「ところで貴様はなんと呼べばいい?」


「……そうですね、エルサレムとでも」


「ふむ、わかった」


変わった名前だな? 本名というわけではなさそうだが……さすがにこんな得体の知れない軍隊に名乗るほど迂闊な奴でもなさそうだな。


「っと、そんなことよりもそろそろ王都が見えてきますよ」


「……そのようだな」


奴の言う通り指し示す方向を見上げると王都の城壁が見えてきた……これが我が帝国が長年夢見てきたエルマーニュ王国王都か……。


「ふむ、道案内はここまででいいぞ」


「そうですか?」


元々私の今回の目的は王国侵攻のための橋頭堡を確保することだ。王都へは攻め込まずここに陣を張って牽制しつつ、後続の部隊がスルーしてきた村や街を攻略するのを待てばいい。


「では私はこれで……おや?」


「……どうした?」


役目は終わったとばかりにここを立ち去ろうとした奴が突然動きを止めて驚愕の表情を浮かべる……本当になにがあった?


「か、カルマ値が……私のカルマ値が下がってしまった……?!」


「……なんだ? 我らが悪の軍隊とでも言いたいのか?」


いっそ異常とも言えるほど狼狽え嘆く奴の姿に不快感を覚える……確かに戦乱を起こすことは褒められたことではないかも知れないが宣戦布告してきたのは王国側だ……責められる謂われはない。


「し、しかも一気にマイナス五十以上も……?!」


「……ふん、それは残念だったな?」


そこまで動揺するほどか? なぜ我らが悪者であるかのような扱いを受けねばならんのだ……特に変わったところのない男だと思ったのだがな?


「そんなに嫌ならばまた上げればよかろ──」


「──これじゃあなた方を殺すしかないな」


顔を顰めながらまた善行を成して上げ直せと投げやりに言いかけたところで私の隣で呆れた顔をしていた副官の頭が破裂する……。


「……は?」


「あなた方をここまで案内したら下がったのです、あなた方を全滅ないし撃退すればまた上がるでしょう」


……この男は何を言っている? なぜ躊躇なく軍隊に敵対できる? 先ほどまでただ嘆いていたではないか……カルマ値を元に戻すため……?


「っ狂人め! 全軍戦闘態勢!!」


「『応!』」


「……アシュリーとルワンダは強化をお願いするよ」


奴の篭手とネックレスが一瞬輝いたと思ったら既に奴の姿はなく、背後から配下の悲鳴が響き渡る……ただの優男ではなかったか?!


「全軍ツーマンセルを基本とし──」


「──おっと先ずは頭から潰さないとね」


全軍へと指示を出しているとすぐ横から奴の声が聞こえ急いで振り返ると……私の視界は上下逆さまになっており、何も理解できないままそこで意識が途切れる。


▼▼▼▼▼▼▼


「『永遠無敵・我が栄光』」


将軍だと思われる女性の首を手刀で刎ね飛ばして自身に強化を施していく……全体で五千近くは居るかなってぐらいだし必要だと思われる。


「き、貴様ァ?!」


「『魂魄共鳴・魔統』」


大地を拳で叩き割り密集していた兵士たちを呑み込ませ、揺れによって体勢を崩した兵士の頭を貫き手でぶち抜きいてから手首の返しでその方の首を掴んで振り回して包囲を吹き飛ばす。


「『絶対不動・不可侵領域』」


「ヒィ?!」


「ば、化け物ォ!!」


ここまで来たらもう簡単だね……足払いで兵士の足を粉砕しながらその衝撃で背後の者たちまで吹き飛ばす。大地を放射線状に踏み割りながら吶喊し、兵士の顎を殴り砕き、その者の肉片と一緒に衝撃を飛ばして直線上の兵士たちの腹などに風穴を空ける。


《カルマ値が上昇しました》


「良かった、戻せるみたいだ……」


戻せなかったらどうしようかと思ったよ……一先ず安心したとホッと安堵の息を吐いてから笑顔で残りを殲滅していく。


▼▼▼▼▼▼▼

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