第91話善悪攻守逆転その2

「守れ!」


「攻めてください!」


領主の館の正門付近では大規模な戦闘が先ほどから続いている……数の差はこちらが圧倒的に有利、質でも『始まりの街』のNPCとプレイヤーでは大きな差がある。


「くそっ!」


「押されてるぞ?!」


先ほどから一条さんの指揮をしながらの妨害が酷く効果を発揮している……いや発揮し過ぎている。毒を投げ込まれ、それを解除しようと動けば投擲で狙われ、同じくこの事態を打開しようと目立てば遠距離から即死の一撃が降ってくる……正面から絶えず敵の部隊が押し寄せるために回避行動すらままならない……野戦で相手の弓兵部隊が狙撃してくるようなものだ。


「サブタンクは前に出て! 増援を送るまで耐えて!」


さらにそこに暗殺部隊を放ち、集中を欠かせて所々の警戒が疎かになったところで糸によるタンク部隊の虐殺……描写規制をしていない人は一瞬動きが止まってしまうほど凄惨なそれにより壁のなくなったこちらへと敵部隊が突撃してくる。


「増援が来たらまた前へ突撃! 正門に対する攻撃の手を緩めないでください!」


相手もこちらの戦力を釣るために、守りに徹してこちらの消耗を狙わずむしろ攻めてきているのでしょう……相手はこの街のトップ、店でポーション類は規制され買えないが向こうは備蓄などが大量にあるだろうし、一条さんも毒が作れるなら薬も作れるはずだ。


「マリアちゃん、裏門突破できたってよ!」


「ありがとうございます、相手が攻めてこようがこなかろうが変わりません! どんどん内部に攻め入ってください!」


「了解! 伝えてくるぜ!」


相手が裏口を積極的に守るのか、それとも打って出るのか……それによって取れる戦術が変わってきます。


「それでは副官、指揮の引き継ぎをお願いします」


「わかった、当初の予定通りだな?」


「はい」


正門の指揮を『皇国神聖騎士団』のスメラギさんに任せて私は裏口まで駆け出す……その隣には織田がついている。


「マリア、この後はいつ合流するの?」


「お……ユウはこのままついてきて、裏口からある程度侵入したところで彼らとは合流して、それが無理ならばこのまま二人で行くよ」


「おけ把握」


織田と二人、並んで戦場を走り抜ける……横から突っ込んでくるNPCの兵の首へと杖の先を引っ掛けて引き寄せ、前方から迫り来る敵へとぶつける。そのまま織田の支援の下に強化された《赫灼杖》にて周囲の敵を吹き飛ばし、燃やして一掃する。


「せぇえい!」


「煩いわよ!」


剣を振り下ろされる前に、その鍔へと杖を引っ掛けて奪い取り後方の魔術師へと投げる……一条さんみたく当たりはしないけど牽制にはなると思う。そのまま武器を失った兵士の顎を杖で砕き、鳩尾を石突で突き飛ばして道を空ける。


「さっさと行くよ!」


「わかってるって」


走り抜け、途中でプレイヤー部隊と合流した後は安全に裏口まで辿り着く。そこでは敵の徹底した遅滞戦闘が行われていた。


「……攻めるでも守るでもなく遅滞?」


「入り込まれたら不味いはずだけど……?」


織田と二人で訝しむ……一条さんの狙いがわからない、こんな屋敷の中という逃げられもせず、得意の機動力も活かせない場所に敵を引き込む理由はなに?


「……当初の計画通り、私たちで王女と傀儡領主を狙います。その間にあなたたちの部隊はポーション類などの略奪をお願いします」


「おうよ!」


「任せな!」


わからないけど考える時間もない、秘密の抜け道で逃げられても堪らないし正門での戦闘のように相手の思惑に嵌って身動きを取れなくなっても面白くないし、なにより一条さんが……。


「……慎重すぎたら楽しめないよね?」


「……僕の周りの女子ろくなのが居ないな?」


一条さんのことを想いながら薄く笑みを浮かべて呟く……織田がなにかほざいているが無視して次の行動へと移る。


「皆さん退いてください、一気に守りをこじ開けます」


「どうするんだ……?」


「お、ユウは支援!」


「はいはい」


どんどん織田から支援を貰う……本当にこいつの支援能力は頭一つ飛び抜けてるわ、なんなのこのバフの量? 攻略組トップよりも凄いじゃん、スキル変なのに……。


「『御仏憑依・火天』」


「っ?! お前上級クラスを?!」


「最近やっと判明されたのと食い違うぞ?!」


周囲のプレイヤーがざわめいているが別に不思議なことはない……カルマ値が200を過ぎないとダメだがそれとは別に中立と同じくカルマ値150を超えて特殊な条件をクリアすれば問題ない。


「『妄執慈愛・理想女性』」


====================


種族:人間

名前:マリアLv.61《+15》

カルマ値:156《善》

クラス:赫灼司祭 セカンドクラス:杖聖 サードクラス:聖母

状態:献身特定の相手に尽くす毎にHP継続回復:最大2%/5s

火天STR上昇:特大・INT上昇:特大・攻撃に火炎属性:極大・火炎属性の与ダメージ上昇:極大

理想女性INT上昇:特大・DEX上昇:特大・攻撃に光輝属性:極大・光輝属性の与ダメージ上昇:極大

属性付与《攻撃に火炎属性:極大・攻撃に火炎属性:特大・攻撃に火炎属性:大・攻撃に火炎属性中・攻撃に火炎属性:小・攻撃に火炎属性:極小》

属性付与《攻撃に光輝属性:極大・攻撃に光輝属性:特大・攻撃に光輝属性:大・攻撃に光輝属性:中・攻撃に光輝属性:小・攻撃に光輝属性:極小》

炎熱攻勢攻撃に火炎属性:中・攻撃力上昇:中

炎熱守護火炎耐性上昇:中・防御力上昇:中

神聖攻勢攻撃に光輝属性:中・攻撃力上昇:中

神聖守護光輝耐性上昇:中・防御力上昇:中

強化付与STR上昇:特大・VIT上昇:特大・AGI上昇:特大・INT上昇:特大・DEX上昇:特大

強化付与切断強化:大・打撃強化:大・命中率上昇:大・回避率上昇:大


====================


いや、最初はビックリしましたとも、まさか自身の所属する陣営の神と邂逅するとかさ……そんな条件ならば普通は無理だし絶対不可侵領域さんが黙るのも理解できるというもの。まぁ、とりあえずは準備が終わったし、ぶちかましますか!


「『偉大いだいなる七色なないろ貴神きしん眷属けんぞくたる太陽神たいようしんガーヴェスよ 御身おんみ信仰しんこう御身おんみてきほろぼし 御身おんみ子羊こひつじまもるはマリア その御力みちからもってして われいまこそ邪悪じゃあくなる神敵しんてきつための加護かごを───────』」


「げぇっ?!」


──さぁ、プレイヤーの皆さん離れていてください。


「『───────あたえたまえ!』」


「た、退避! 退避ー!」


──じゃないと。


「『日輪の怒号ガーヴェス・イーラ』!!」


──巻き込まれて死んでも知りませんよ?


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