第85話潜入

王女に仕込んだ糸を辿って駆け抜ける、灯りのない地下通路を走り、壁を押し退け、階段を下り、穴に落ちて、五回ほど柱の周りを回ってから出てきた階段を登って、枯れた水路の横穴を通り抜ける。


「……複雑ですね、皇族の緊急避難用の地下鉄ほどではないですが」


ユウさんが言うには無駄に複雑なマップはゲームには付き物らしいですからいいですけど、これ糸がないと初見では確実に迷ってましたね。


「ユウさんたちの方が城に着くのは早そうですね……」


まぁ、構いませんけど……そのまま目の前に現れたカーテンを捲り、出てきた鏡をそっと押す。


「んー、どこの部屋でしょう?」


割と豪華な部屋に出ましたが、王族が使うかと聞かれると微妙な感じですね……おや、入口は棚に偽装していたんですね。


「とりあえず、隠密系統を全開にして進みましょう」


今必要なのは暴れることではありませんからね。そのまま糸を辿りつつ気になる部屋を順次物色していきます、まだ王女様は目的の部屋に着いていないみたいですからね。


「ここは……書架ですね、貰っておきましょう」


何かに役立つ知識があるかも知れませんし、ユウさんが喜びそうですからね。……これをネタに脅迫するのがマリアさんとのやり取りを見て学んだ友人関係です、頑張って脅しましょう。


「……なんだかこそ泥になった気分ですね」


少しだけボヤきながら他の部屋にあった宝石類を盗っていきます。……お、このアクセサリーは結構性能が良いですね、装備するとしたら何を外すか……。


「……完全に泥棒さんですね」


少しだけ自分の行動を客観視して微妙な気持ちになりつつも、まぁ今さらかと半ば開き直ってからは本棚ごとや、机や椅子も根こそぎ奪っていく。


「虐殺に略奪とは……私ってもしや蛮族なのでは?」


いや、別に女性……この場合は男性ですか? を襲ったりもしないし、家畜も奪わないし、略奪や虐殺じゃなくて楽しむ事が真の目的ですし……それになによりこれは『遊び』ですからね、そんな大層なものではありませんよ。


「おっと、どうやら王女様は目的地に着いたようですね」


寄り道はやめて一直線に進みますか。長く広い、天井も高くて隠れにくい通路を足早に通り抜けていきますが……途中で動かずそれ以上進ませないための衛兵がいますね。


「……死んでもらいましょうか」


まずは鋼糸で首を締め上げて声を出すことを封じ、極力汚さないために長針で心臓を直接刺し貫いて殺しましょう。


「んー、いきなり居なくなるのも不自然ですね」


死んだばかりの二人の衛兵を糸によってその場に固定し、遠目にはちゃんと立って職務を全うしているように見せかけましょう。近くに寄られたり、交代の時間になればバレますが、それまでには終わらせるので大丈夫です。


「……これ、ユウさんに変なポーズを取らせる事ができるのでは?」


今度また変なことを言ったり、挙動不審になった時にしてみましょうかね? 彼は一々動作やリアクションが大げさなので面白そうです。


「ここが王様の執務室ですかね?」


途中に何度も衛兵……やはり近衛兵ですかね? が立っていたので同じように処理していった先に、なにやら一際豪華で前に立っている近衛兵も今までの方々よりも強そうな二人が居る扉があります。


「……王女様はこの扉の先ですね」


もうここまで来たらいいですかね? それに最後の方はなるべく騒ぎを起こした方がいいですからね。


「せいっ!」


「「っ?!」」


爆薬入りの鉄球を思いっ切り扉に向けて投擲、近衛兵二人が急いでその身を盾にしますが、大きい爆発音と共に扉ごと吹き飛ばされます。その合間に急接近し、状況把握ができていない彼らの首を刎ね飛ばす。


「げほっ、ごほっ! ……少し火薬多かったですかね?」


うーん、室内で使うには少しいきすぎた物でしたか……次からは気を付けましょう。


「あ、あなたは?!」


「王女様、さっきぶりです」


「……」


こちらを口を開けて驚愕の表情で見つめてくる王女と……険しい顔をしているこのおじ様が王様ですかね?


「あなたがこの国の王様ですか?」


「……だったらなんだ」


いきなり襲撃されたというのに中々肝が据わっている方ですね?


「……あなた、アナベラを……私のメイドをどうしたの……?」


「殺しましたよ、わかっているでしょう?」


「あっ……そんな……」


……? 今さらなぜそんなことを聞くのでしょう? 逃げたということは薄々こうなることが……少なくとも可能性があることはわかっていたでしょうに。


「とりあえず確保しますか」


そんなにメイドさんが死んだことが悲しかったのか、涙をポロポロと流す王女様を糸で縛り上げます。


「ふむ、どうやら人の心が無いらしいな? ……帝国ではなく混沌の使者か」


「……あなた方には言われたくないのですが」


「好きで化け物を批評したいわけではないわ、たわけ」


ほほう、襲撃されているのに罵倒する余裕まであるのですね?


「いいんですか? あなたの態度次第でこの場の命が少なくなりますよ?」


「……どうせ狙いは私の命のみだろう、この分では他の兵は間に合わん」


「だから?」


「好きに持っていくがいい……ただし簡単に逃げられると思うな?」


「……死ぬのが怖くないのですか?」


なんなんでしょうこの人は? 自分が死ねば国がどうなるかわかっていないのでしょうか?


「……あなたが死ねば国が混乱すると思いますが?」


「それは仕方ないが手遅れなのには変わりあるまい」


「……素晴らしく達観してらっしゃるんですね?」


「まぁな、ただ一つ条件をつけさせてもらおう」


「……なんですか?」


偉く物分りがいいですね? いったい何を企んでいるのでしょう?


「……娘には傷一つ付けてくれるな?」


「……娘さんが大事なんですか?」


「? 当たり前だ、子を嫌う親がいるものか」


「……」


子を嫌う親が居ないとでも? あぁ……なるほど、彼らは王族であれど『普通の家族』なんですね? ……とても憎たらしい。


「……あなたの持論はさておき、私は王女を傷付けるつもりはありませんよ」


「ならいい、父親として娘の幸福を──」


「──それはもういいです」


聞くに堪えません、これ以上付き合う気もないので首を刎ねましょう。


「さて、行きますよ王女様」


「んんーー!!」


国王だった者の首と、寄り道した王太子の部屋にあった宝石の指輪を執務机に置き、王女を担ぎ上げて城から脱出しましょう。


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