第80話第一王女のお忍びその2

「ほら、こっちよ!」


曲がり角でぶつかった時は反射的に殺しそうになってしまいましたが寸前で踏みとどまれてよかったです。


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重要NPC

名前:フェーラ・ディン・エルマーニュLv.15

カルマ値:55《中立・善》

クラス:プリンセス

状態:通常

備考

エルマーニュ王国・第一王女

エルマーニュ王国・継承権第三位


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中々に利用できる用途が多そうな女の子ですから、早々に消費するのは勿体ないです。……どうせなら、ただ王太子を殺すよりも彼女を利用してもっと面白くしちゃいましょう。


「すいません、アイスクリームください」


「はいよ……あれ? お嬢ちゃんまた来たのかい?」


「私がぶつかって台無しにしちゃったのでその弁償ですよ」


「あらそうかい、綺麗なお姉ちゃんも大変ね〜」


淡々としたおばあさんからアイスクリームを購入して王女に渡しましょう。


「はい、どうぞ」


「ありがとう、じゃあ案内するわね」


「ええ、よろしくお願いします」


それから王女に案内されるがまま王都の地形を頭に入れていきます、どうでもいいところにも案内されてしまいますが巡回する衛兵の装備や何人組体制なのかを把握していきましょう。


「ここは王都自慢の噴水広場よ! あの銅像が初代女王のマーシィ様よ!」


「…………へぇ」


「すごい綺麗ですね、レーナさん」


「わぁ……」


ユウさんとマリアさんは感動しているようなのでなんか凄いものなんでしょう……私には理解できませんがここは合わせておくべきですね。


「周りの活気も素晴らしいですねぇ」


とりあえず当たり障りのないことを言っておけば大丈夫ですかね? ……普通の方と観光地に行った場合の対処法など知らないから困りますね……。


「ふふん、そうでしょ? 私のお父様はすごいのよ! みんな笑顔なんだから!」


「……………………そのようですね」


また、父親ですか……………………。


「自慢の家族なの!」


「そうですか、素晴らしいお父様なのですね?」


「……っ! お嬢様!」


「? アナベラどうしたの?」


「…………いえ、なんでもございません」


おっと、いけませんね。感情が漏れてしまったようでメイドさんを警戒させてしまいました……反省です。


「……レーナさん? どうかしましたか?」


「大丈夫ですか?」


「なにがですか? それよりも次へ行きましょう」


二人を誤魔化して次へと案内してもらいます、さてどのタイミングがいいですかね……。


「……おや? あそこは何があるのですか?」


案内してもらっている最中にスキルに反応する場所がありました、一見何もないようですがなにかありそうですね?


「っ?! な、なにもないわよ! あそこには何も! ほら行きましょう!」


「え、えぇ」


ふむ、看破を使ってみますか……ほほう? なるほど、使えますね?


「……何をしておいでですか?」


「特になにもしてませんよ?」


「そうですか……」


メイドさんの警戒がすごいですねぇ……どうやらあそこは王族専用の隠し通路だったようで王城に繋がっているようですね。それを聞いてしまったので先ほどの失態と合わせて完全に不審者扱いですね、邪魔で仕方ありませんね…………。


▼▼▼▼▼▼▼


「……」


この女性は危険です、広場にて殿下が陛下の話をしていた時に感じたあれは言葉にはできませんが……私の『悪意察知』スキルが爆音を奏でるほどの濃密な負の感情は只事ではないことを私に知らせてくださいました。


「ここが私の服をよく作ってくれる店よ」


「…………へぇ」


今もそうです、自分から案内を頼んでおいて殿下が案内されてもまったく興味がなさそうです。というよりも殿下の案内を隠れ蓑に色々と探っているようですね、王族の隠し通路を発見された事からも帝国の間者の可能性が濃厚でしょうか?


「……っ!」


一瞬だけこちらを見た無機質な瞳に思わず息を呑んでしまいます……人はあそこまで同じ人に対して温度のない視線を寄越すことができるのでしょうか?


「レーナさんどうしたんだろうね?」


「さぁ……なんか、また不機嫌になったっぽいのはわかる」


「あぁ、そうなんだ?」


厄介なのが連れのお二人がこの女性の本性に気付いていないところですね、お二人ともとても徳が高い、清浄な気配を発しておられますからもし、私がいきなりこの女性を排除しようと動けば善意から止めるでしょう……なんとかして引き離して殿下をお守りせねばなりません。


「……」


しかしながらどうやって引き離せばよいものか……なるべく不審に思われずに排除しなければなりませんが……殿下はこの女性の話す『ニホン』という国の話に興味津々ですから困ったものです。そんな国聞いたこともありませんのに。


「……そうでした、私は彼女に用があったんですよ」


「……私、ですか?」


「えぇ、そうです」


…………なにを企んでいるのでしょう? そろそろ時間的にも殿下から引き離し、尾行されぬようにして王城に帰還しなければならないと焦っていたところに彼女自身からのお誘いです。


「……来ないと王女の命はありませんよ」


「っ?!」


…………そもそも殿下がこの女性にぶつかってしまった時から決断していれば……最近は陛下とも話せない日が続き、部屋に篭ってばっかりだったフェーラ殿下に息抜きを……と考えて少し甘い対応をしてしまったのが間違いだったのです。


「……殿下、少し、ほんの少しだけ……お待ちください」


「……アナベラ?」


「大丈夫です、すぐに戻ります」


さすがに何かを察したらしい殿下に安心するように微笑みかけ、なにも心配いらないと伝えます。


「あぁ、ユウさんとマリアさんはこの女の子を守ってあげてくださいね? すぐに戻りますから」


「それは構いませんが……」


「…………」


男の子は困惑し、女の子は何かを考え込んでしまってますね……ですがこの二人とも引き離せるのなら僥倖です。


「では行きましょうか?」


「……はい」


そのまま人間味の薄い彼女と共に路地裏へと消えていきます……殿下、好きでした。立派に成長なされてくださいね…………。


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