第63話第一回公式イベント・六日目その3

​──ガイィン!! ギィン! ガンッ!


耳を劈くような金属音と大きく雪を掻き分ける音が辺りに断続的に響き渡る。


「オラァッ!! 」


「……フッ! 」


井上さんのアシストがあると言っても、戦斧の一撃を短刀でまともに受ければ耐久値も山田さんのHPも不味い事になりますので、基本的に刃を滑らせるようにして受け流していきます。

斜め上から振り下ろされる斧の表面に短刀の刃先を当て、手首の返しで斜め下に受け流し、すぐ様こちらを脇下からぶつ切りにしようと振り上げられるのを、斧の柄に短刀の柄で殴り付けることで阻止します。


「チッ! ……ふんっ! 」


「ぐっ! 」


短刀の柄で殴り付けた勢いを逆に利用され、斧の重さをも加えた遠心力の乗せた回し蹴りを左脇腹に喰らいますが、そのまま足を脇で固定し捕まえます。


「やろっ!? 」


「せいやっ! 」


そのまま斜面を滑り落ちながら回転しさらに下へと投げ飛ばす。


「う、うおぉぉおお?!! 」


咄嗟に斧のスキルを地面に放つことで生まれた衝撃を利用し、空中で体勢を立て直して着地する相手に毒針を投擲しますが弾かれます……ですがここは雪山の斜面。それも駆け下りるというより落下しているという方が正しいくらいであり、背後の雪崩の震動も相まって足場が最悪ですからね、着地した後すぐにバランスを崩し後ろから転がっていくハンネスさんを追い掛けるように私も地面を蹴りさらに落下します。


「チィイ!! 」


後ろに転がりながら戦斧を大きく振りかぶり、重さを利用した遠心力を生み出してバランスを取りながらこちらに打撃を与えてきます。

それに対して短刀をかち当て落下の勢いと併せてそこを支点とし、身体の上下を入れ替えるように回転しながら跳躍し背後に着地、盛大に雪の粉を散らしながらブレーキを掛け、そのまま落ちてくるハンネスさんの心臓を狙い背中に短刀を突き込む。


「うるァっ!! 」


それをさらに回転を加え、まるで独楽のように斧を振り回し、雪を掻き分けながら攻守を兼ねた動きで落ちてくるので心臓に対する突き込みを取り止め、姿勢を低くして足を浅く切り裂くに留める。


「ふんっ! 」


立ち位置がまた入れ替わったところで、地面に思いっ切り斧を叩き付けてブレーキを掛けるハンネスさんの横に並ぶ。こちらの足元に《発熱》をかけながらの、両足を使ったブレーキと併せてお互いの視界を雪の白が染め上げ、時折散る金属由来の火花と魔術の応酬がそのキャンバスを彩る絵の具となる。


「ふふ…………」


「……何がおかしい? 」


「いえ? まさか貴方と殺し合うのがこんなに愉しい『遊び』になるなんてと思いまして…………」


「はんっ! このイカレ女がァ! 」


あぁ、本当に愉しいですよ……これからもしばらくは重要NPCを狩り続けることになるのかと考えていましたから、こんなに素敵なプレイヤーの方が育っていたなんて最高です!!


「ふっ! 」


背中からバネのようにこちらに振り下ろしてくる斧の腹を、短刀の柄で打ち付けて横に逸らしながらハンネスさんの体勢を崩す。


「こなくそぉ!! 」


その衝撃に逆らわず、むしろ振り回して一回転しつつ逆側からまた振りかぶられる……この足場の悪い環境では回転してバランスを取ることは、単純ですが効果的です。即座にリカバリーと反撃ができ、そのまま落下しながら回り続けることで攻守を兼任する事もできます。しかしながら​​──


「​──やはり単純ですね? 」


「がはっ!? 」


単純であるからこそ予測しやすく、彼が回転して後ろを向いた時に懐に潜り込み、こちらを振り向いたところで顎を思いっ切り殴り付ける。そのまま上へと吹き飛んでいく彼の足首を掴み取り地面へと叩き付け、落下しながら引き摺っていく。


「う、うおぉぉおお!!!! 」


その状態を、恐らく『大地魔術』でこちらとの間に地面の壁を盛り上げて拘束から脱出する彼に、鉄片を囮にしたガラス片を投擲します。


「ふっ! ……ぐっ?! 」


予想通りに鉄片は弾きましたが、この見渡す限り白銀の世界で透明なガラス片を視認するのは難しかったようで、幾つか刺さります、鉄片を囮にしてたのも効いたでしょうね。こちらも足場が悪くて急所に当てることは叶わずダメージ量は少ないですが、元々どちらも常にHPが消費されていく状態です……僅かなダメージもバカになりません。


「……へっ、決着つける前にどちらもペナルティで自滅しそうだな? 」


「確かにそうですね、それは面白くありません」


お互いに武器を構えたまま一時攻防を取り止め、斜面を滑り落ちながら会話する。


「あぁ、面白くねぇ! そんな決着なんて認めねぇ! ……だからよ​──」


「……」


「​​──次の一撃で最後だ」


「ふふ、いいでしょう」


本当に彼は最後まで手を抜かず、こちらを楽しませようとしてくれますね? そちらの意を汲み、こちらも現時点で放てる最高の武技スキルを用意しましょう。見れば彼も準備している様子です。


「『偉大いだいなる七色の貴神なないろのきしん眷属けんぞくたる大地神だいちしんジーヴェルよ 御身おんみ信仰しんこう御身おんみてきほろぼし 御身おんみ子羊こひつじまもるはハンネス その御力みちからもってして われいまこそ邪悪じゃあくなる神敵しんてきつための加護かごを​​──』」


「『矮小わいしょうなる汚濁斑の卑神おだくまだらのひしん眷属けんぞくたる純朴神じゅんぼくしんファニィよ 御身おんみ利用りよう御身おんみてき蹂躙じゅうりん御身おんみ子羊こひつじ略奪りゃくだつするはレーナ その御力みちからもってして われいまこそ自由じゆう侵害しんがいする害虫がいちゅう駆除くじょするための加護かごを​──』」


お互いに技を放つために必要である特殊な詠唱をしていく。これは自身が所属する陣営の神に呼びかけ、その神力の一端を降ろして放つユニークスキルです。


「『​──あたえたまえ! 』」


「『​──寄越よこしたまえ! 』」


スキル自体は割と初期から使えますが、その威力は『自身と相手のカルマ値によって変動』しますから、初心者が放ったところで通常スキルよりも威力は下です…………ですが、今の私たちが放つ場合はその限りではありません。


「《大地の張り手ジーヴェル・アフェクション》!! 」


「《無邪気な遊戯ファニィ・ピュア》!! 」


赤褐色の輝きを纏ったハンネスさんにワインレッドの輝きを纏って突撃、お互いの攻撃がぶつかり合うことで凄まじい衝撃と雪由来ではない白が視界を一色に塗り潰し、次に目を開けるとそこは​​──


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