第56話第一回公式イベント・三日目

さて、イベントフィールド内の木の上からおはようですね。体感速度が引き上げられているのでイベントが終わったとしても一日が経過している程度ですが、その分ゲーム内で睡眠を一応取らないと危ないですからね。面倒臭いですが大事なことです。


「……距離や速度的に今日にも接敵しそうですね」


あれからじわりじわりと秩序一位と混沌二位の方たちと距離を詰めていますが、どちらも三竦みになるのは避けたいようで、たまに離れていったりマップに表示される度に位置が思わぬ方向にズレていたりと予測地点が付けられないんですよね。三歩近づいて二歩離れていく感じでしょうか…………。


「なるほどまさに『隠れ鬼ごっこ』ですね…………」


妙な納得感と共に、最後にマップに表示された位置を元にお互いに追跡を開始します。時間は掛かりますが、お昼までにはどちらかと接敵できるでしょう。


▼▼▼▼▼▼▼


「ふむ……ブロッサム殿が少しばかり邪魔ですな」


彼女は少しばかり自分本位で目立ちたがり屋なところがありますからな、大方自分よりも目立つ混沌勢力のジェノサイダー……レーナ殿のことが気に入らないのでしょうがそのおかげで互いに遠距離での睨み合いが続き未だに接敵できていませんな…………。


「ふんっ! 」


時折超遠距離から飛来してくる鉄球———おそらくジェノサイダー殿が投げた物でしょう—–—を粉砕しながらマップを頼りに移動していきますが、中々面倒ですな。


「次の表示までまだ幾ばくか時間がありますな……どうしたものか——むっ?! あれは…………」


どうやら天は吾輩に味方したようですぞ? 『遠見』スキルにより遥か前方にジェノサイダー殿を発見いたしましたな、これは幸いである。


「ふふ……やっと彼女とヤリ合えますな! 」


溢れ出る気合いと情熱を持って一気に駆け抜ける、地面を踏み割り、音すら置き去りにする勢いで接近し​──


「​──マッスルパワァァァァァアアァァアァァァアアア!!!!!!!! 」


「っ?! 」


これまでの加速と全体重を乗せて、『拳術・王』スキル《爆裂破砕》に《加重》に《振動》を上乗せしてぶん殴る!! 咄嗟に《聖壁》を張られたようですが、それすら紙きれのように貫きぶち当て吹き飛ばす!!


「…………っ!! 」


吹き飛ばした彼女の方を警戒しながら残心しているとソニックブームを発生させながら極太の針が飛んでくる、それを横に身体を逸らして避けると​──


「ぶっ?! 」


予測していたのか、逸らした方向に移動していた彼女の膝蹴りが顔面にお見舞いされてしまい今度はこちらが吹き飛ばされる…………その勢いを逆に利用して少し距離を取りましょう。敵が確認できないまま距離を詰められていては危険ですからな。


「新手の敵です​──変態さんですか? 服が一枚どころではなく足りていないと思うのですが? 」


距離を取り構えると彼女がそんなことを言う……ようやくこちらの全体像が把握できたのでしょうな、この吾輩の完璧な肉体美を余すところなく表現できるための格好……真っ黒なブーメランパンツをサスペンダーで引っ張り上げた白のニーソックスという、この完璧に近い格好を!!


「どうですかな? これぞ芸術だと吾輩は思うのです」


「………………………………………………そうですか」


ふむ? どうやら彼女には刺激が強すぎたようで、ジェノサイダーも乙女ということですかな? 本人は気付いておらぬようですが、機械は騙せなかったようで耳が赤くなっております。中々に愛いではないですか…………そんな姿を魅せられると……………………。


「今から滾ってしまいますな!? 」


「…………なるほど、あなたが変態紳士さんですか」


少しばかり呆れたような脱力したような声色で吾輩の正体を見破りましたな? まぁ、彼女と比べれば吾輩を初めとした他のプレイヤーがマップに表示される時間間隔は長いですからな、他のプレイヤーの可能性も考えたのでしょう。


「吾輩、あなたとヤリ合うのをとても楽しみにしていたのですよ? 」


「……そうですね、私も殺り合うのを楽しみにしていました…………さっきまでは」


ふむぅ? どうやら彼女はあまり乗り気ではない様子……より正確に言えば、彼女も楽しみにしていたがなんらかの要因でテンションが下がってしまったようですな? これはいけない。


「これから楽しい蜜月だというのになんの問題がありましょうや」


「……」


「独り言は寂しいですぞ? 」


「…………」


「仕方ないですな、マグロや恥ずかしがり屋を自身のテクニックで啼かせるのも熟練者の務めでありましょう! 」


少しばかり寂しい気もしますが、こういった手合いを相手にしたことは幾度も経験しております故に、吾輩の全力を以って彼女を啼かせてみせるのも紳士として立派なことでしょう!!


「では、行きますぞ!! 」


「…………………………………………………………死ね」


拳を構えると短刀を抜き去り、投擲武器を構えた彼女が殺気を放ってきましたが…………ゾクゾクしますな!!


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