第37話クレブスクルム解放戦線その3

口角が釣り上がるのを必死に抑えて、なるべく相手を見下した表情を心掛けます。


「逃亡奴隷を連れてどうするつもり、ですか……それをこの街に於いて人ではないあなたに教える必要が? 」


「……ほう、どうやら死にたいらしいな? 女だからといって容赦はせんぞ? その死体の切り口を見れば只者じゃないことはわかるからな」


そう言って短刀を構え、相手も拳も構えます。どうやら拳打で戦うスタイルのようですね? 一応腰に短剣を差してますが、使われた形跡が一切ありませんね? 手入れはしているようですが…………。


「ち、ちょっとレーナさぁ〜ん?! 」


囀るユウさんを無視して互いに相手の出方を探り合います。どちらも間合いが狭く、薄暗い路地というこの立地、そして実力も未知数の相手ですからね、お互いがカウンターを警戒している感じです。


「来ないのならばこちらから​──」


「​──待たんかバカタレ!! 」


「っ?!親父?! どうしてここに居るんだ!! 」


おや? 誰か知らないおじいさんが男性の頭を殴りつけましたね。


「……私は別に二人同時でも構いませんが? 」


「……お主もここは一旦矛を収めてくれんか、場所を移して話がしたい」


ふむ? まぁ、当初の目的には沿いますしむしろ手間がなくて良いのですが……そうですか、お預けですか…………。


「……残念ですが、そうしましょう」


「はぁっ〜、若いモンは血の気が多くていかん! ほれ、そこで突っ立てる兄ちゃんと座り込んでる君らもささっと移動するぞ! 」


「っ! あ、は、はい! 」


「……わ、わかりました」


「た、助かった〜」


まぁ、ユウさんならともかく、せっかく助けた女の子たちを戦いに巻き込むわけにもいきませんからね。ここは引いて最初の目的の達成のために動くとしましょう。


「っ! 親父?! まさかコイツに頼むつもりか?! 」


「……そうじゃと言ったら? 」


「でもコイツは!! 」


「わかっておる、でも他に手はないのはわかっておるじゃろう? 」


「それは……はい、わかりました」


なにやら揉めてますね? 私が何かあるのでしょうか? さっきまで殺気を飛ばしあってたからでしょうかね?


「とりあえずささっと移動せんと見廻りか来るぞ、ついてこい」


「そうですね、行きますよユウさん」


「は、はい! 」


とりあえず、案内してくれるようですので素直についていきましょう。


「ワシのことはロン老師とでも呼んでくれ、こっちは愚息のロノウェじゃ」


「………………よろしく頼む」


その直前に軽い自己紹介がされますが、大柄な男性​──ロノウェさんは素っ気ないですね。とりあえず今は放っておいて先を急ぎましょう。


そのままおじいさんは路地を出てから反対側の路地にまた入り、途中の建物の裏口に入って中の店員を無視して店内を横切ってから別の部屋にある階段から地下に降り、しばらく進んでまた登って外に出たと思ったらそこは街の外でした。


「……なるほど、探しても見つからないわけです」


「……このまま船に乗るぞ」


そして出口から近い小川に船が係留されており、それに促されたまま乗り込みます。


「このまま海まで出る」


「えぇ? 大丈夫なんですか……? 」


不安そうに辺りを見回すユウさんに水月への肘鉄をお見舞いしようかと思ったところで『ぐぅ〜』という可愛らしい音がしたので取り止めます、命拾いしましたね。


「お腹が空いてるんですか? これ良かったら食べます? 」


「いいの?! 」


そう言ってインベントリから、昨日と今日とで情報収集のために散々買った屋台の食べ物を取り出しニアさんに渡します。


「に、ニア! すみません! 」


メアさんは一応遠慮しますが、食べたいのが隠しきれてませんね。今も『ぐぅ〜』とニアさんと同じ音が聞こえてきました。


「いいんですよ、ほらメアさんもどうぞ」


微笑みながらそう渡すと、『うっ、すみません! ありがとうございます! 』と深く頭を下げてお礼を言いながら食べ始めます。

別にそんな大層な物じゃないんでけどね。買う時にユウさんが『いや、情報収集ってなにも屋台って決まったわけじゃ……』とか言ってたので酒場に行こうとしたら、『まぁテンプレだけども……』とかほざきやがったのでその場で腹に膝蹴りした曰く付きですが、まぁ大丈夫でしょう。少なくともお腹を壊すことはありません。


「…………意外と優しいんだな」


「あなたは私をなんだと思っているのです? 」


ロノウェさんがこちらを訝しむように見てきますね、私そんなにおかしなことをしたでしょうか?


「…………いや、なんでもない」


「カッカッカッ、こやつは頭が固いからな、気を悪くせんでやってくれ」


「親父」


「事実じゃろう? 」


へぇ〜、親子仲は良さそうですね? ……………………本当にさっきのお預けは残念でなりませんね、まぁ今は我慢しましょう。


「まぁ、構いませんよ」


「カッカッカッ、すまんの」


そうこうしているうちに海に出ました。それからもしばらく船を漕ぐと、一際大きな船が岩礁に隠されるようにしてありました。


「あれがそうじゃ」


「あの船がですか? 」


「あぁ、そうじゃ我ら​──クレブスクルム解放戦線のアジトじゃ」


やはり思った通りビンゴですね、上手くいったようでなによりです。これからの計画がまた随分と進みますね。


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