第35話クレブスクルム解放戦線
「……お姉ちゃんお腹空いた」
そう言って私は横になりながらお姉ちゃんの服の裾を掴む。
この知らない街に連れてこられてもう2週間が経つ。すぐに怖い人から逃げられたのは良かったけど、毎日色んなところでゴミを漁っても食べられる日は少ない。
今日だって一日中歩き回ってパン半分の値段の硬貨を拾っただけ……暗くなってきて活動するのもできなくなった。
「……ごめんね、でももう寝ないと」
「ううん、わがまま言ってごめんなさい」
お姉ちゃんだって辛いんだ、今日だってなけなしの野菜屑を私に分けて自分は何も食べてなかった。
明日こそは私が頑張って………………お姉ちゃんを…………………………
「…………ごめんね、少し待っててね」
…………………………はっ?! 寝ちゃってた、かわりばんこに見張りしないと腕を切り落とされちゃうのに………………。
「……アレ? お姉ちゃん? 」
お姉ちゃんが居ない? もしかして置いていかれちゃった? いや、お姉ちゃんは優しいからそんなことしない、じゃあどこに? もしかして捕まっちゃった?! 探しに行かないと!
「お姉ちゃん? どこ? 」
暗い路地をキョロキョロと見渡しながら探していると案外すぐに見つかった。
「お姉ちゃっ……? 」
誰? お姉ちゃんが知らないおじさんと一緒にいる、何を話してるんだろう? その人は私たちの腕を切り落とそうとしない人?
「あっ、行っちゃう! 」
そのまま2人でさらに隣の路地に入っていく、急いでその後を追いかける。
「なにしてるんだろ? 」
少し奥まったところに入っただけで何か布のような物を敷きだした……そこにお姉ちゃんが寝転がり、その上にさっきのおじさんが……………………
「わ、わぁぁぁああぁぁあ!!!! か、火事だァァァァァァァ!!!! 」
私はお姉ちゃんが何をしようとしてるのか理解ってしまった、捕まった最初の時に説明されたことの1つだ、私がわがまま言ったからだ! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!
「ねぇ、火事だってば! 逃げないと! 」
私が精一杯の大声で叫んでもおじさんは最初の方にビックリしただけでお姉ちゃんの上からどこうとしない、それどころか服を引っ張ってる。
「っ! なんで! 」
「あ? うるせぇガキはすっこんでろ! 大体こんな水が溢れる場所で火事なんか起こるわけねぇだろ! 起こったとしてもすぐに鎮火されるわ! 」
今の自分に精一杯の嘘をついてお姉ちゃんを助けようとするもお姉ちゃんはこちらをビックリした表情で眺め、おじさんはまともに取り合ってくれない。
それどころか……………………
「あ? よく見たらガキでも女じゃねぇか、お前も売りたいならそう言え」
このおじさんが何を言ってるのか理解できない、売る? 売るって何を?
「っ! 待って! この子には手を出さないで! 私が相手をするから! 」
「あ? お前らみたいなガキ一人で満足するわけねぇだろ? 」
「ぅ、お、お姉ちゃん逃げようよ……」
お姉ちゃんが必死に私を庇おうとすると、私も必死に逃走を促す。
「うるせぇ! 金が欲しいんだろ?! 」
「うっ! 」
お姉ちゃんがぶたれる……なんで? どうして? 私たちは何も悪いことしてないのに、誰か……神様じゃなくてもいい、誰か………………。
「だ、誰か助けてぇ!! 」
「あっ! このガキ黙れ! 」
私が泣き叫ぶとおじいさんはこちらに勢いよく腕を振り上げる。それを頭を庇い、お姉ちゃんが必死に止めようとするのを眺めて──
「――――わかりました、助けてあげますね」
──なぜかおじさんの首が落ちた。
「ぅえ? 」
お姉ちゃんも何が起きたのか分からないようだ、私もいつの間にか泣き止んでそれを成したであろう人物を見上げる。
とっても綺麗な女の人だった。月の光を反射する一部が白い綺麗な黒髪に、夜の闇で一際目立つ紅い瞳……この人が神様じゃないなら……………………。
「悪魔? 」
「ある意味間違ってない…………」
「何か言いましたかユウさん? 」
「っ! い、いえ! なんでもごさいません! 」
もう一人いたようだ、私の呟きに反応してさっきの女の人が手に持っている短刀を首に突きつけられてる。
「……まぁ、いいでしょう。それよりもあなたたちのお名前は? 行くところがないのなら私が面倒を見ましょう」
「っ!? 本当に?! わ、私はニアって言います! 」
「に、ニア! 」
これでお腹空くこともお姉ちゃんが酷い目にあうこともなくなる! でもお姉ちゃんはまだ警戒してるみたい…………。
「大丈夫ですよ? 私はあなたたちの敵ではありません。どうかお名前を教えてくださりませんか? 」
「…………メア、です」
お姉ちゃんも警戒してても現状は変わらないことは理解できてる、なら少なくともこの場を救ってくれたこの人に縋ることにしたようだ。
「メアさんにニアさんですね、わかりました。では一先ずここを離れ──」
「──お前らその子たちに何をしている? 場合によってはただじゃ済まさんぞ……」
今度は大きい男の人が現れて女の人を睨みつけながら声を掛けてきた、もうさっきから何がなんだかわからない。
「いきなりなんですか? 不躾な方ですね、私はこの子たちを助けただけですよ」
「……」
男の人はチラッとおじさんの死体を見てからこちらを見てきたので頷いておく。
「どうやら、そうらしいな」
「えぇ、信じてもらえましたか? ではこれで、私はこの子たちを連れていきますね」
「いいや、その子たちは俺たちが保護する」
「………………保護? この子たちを? 奴隷のあなたが? 笑わせないでください」
よく見れば大きい男の人の左頬には私たちと同じ奴隷の印があった、暗くてよく見えなかった。
「お前たちこそ逃亡奴隷を連れてどうするつもりだ」
なんだか女の人と男の人が険悪な雰囲気になって怖い。いつも頼れるお姉ちゃんはいきなりの急展開に私と同じく困惑してる。
「えぇ……? ちょっとレーナさーん? なんで喧嘩腰なの〜? 」
女の人の後ろにいた男の子はもっと頼りなさそうだった…………………………。
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