第34話ベルゼンストック市その2

とりあえずこの街ではなにして『遊ぼう』か悩んでいましたが、お誂え向きの文化があるようで丁度いいですね。


「いつまで固まっているんですか? 早速情報収集と準備に取り掛かりますよ」


「あ、ハイ」


なにやら諦観の表情を浮かべたユウさんを伴ってまずは聞き込みですね。


▼▼▼▼▼▼▼


さて、まずどこで聞き込みをしましょうか?


「ユウさんは丁度いいところ知りませんか? 」


「うーん、……街の中に走る定期船はどうでしょう? 広い街中を張り巡らせた水路を通る公共機関なんですが、それになら様々な階級の人たちがいると思うんです」


なるほど定期船があるんですね、確かに海に流れる大河を跨ぐようにしてこの街はありますから必要でしょう。


「それにその船を漕ぐのも奴隷ですから、彼らを知るのにも丁度いいのでは? ほら、目の前のあの船着場がそうですよ」


「さすがユウさんです、では行きましょう」


ユウさんの勧め通りに、目の前の屋根しかない受付へ向かいます。


「すみません、二人分です」


「あいよ! お、兄ちゃんえらい別嬪さん連れてるねぇ? これからデートかい? 」


「で、でででで?! ち、ちが! 僕と彼女は​──」


「そんな慌てんなって! 」


ユウさんが『チケットを買ってくるので待っててください』と言っていたので少し離れた場所から待っていますがなにやら揉めてますね?


「どうしまたかユウさん? 敵ですか? 落としますか? 」


「​──っ! れ、レーナさん?! って違いますよ! 敵じゃないです! 少しからかわれただけです! 」


「お、落とす……? 」


どうやら違ったみたいですね、受付のおじさんも此方を困惑した目で見てます。残念です。


「と、とりあえず船に乗りますよ! 」


「? えぇ、そうですね」


丁度よく定期船が来たので乗り込んでいきます…………なぜあの受付のおじさんはこちらを生暖かい目で見てくるのでしょう? やはり落とした方がよかった気がします。


「疲れた……」


なにやら既にお疲れのユウさんを放っておいて、船内の客を観察します。席のグレードなどの違いはもちろんありますが、確かに色んな階級層の方がいますね。あと全体的に共通してるのは、全員が笑って幸せそうですね。


「おや? 見掛けない顔だね、観光かい? 」


船内を見回してみると、優しそうなおじいさんが話しかけてきましたので応じましょう。


「えぇ、そんなところです」


「やっぱりそうだと思ったんだ、どうだい? この街は、隅々まで綺麗で豊かだろう? 」


「えぇ、素敵な所だと思います」


確かに街は隅々まで清掃が行き届いていますし、それによって地中海沿岸地域のような真っ白な建物の群れは太陽と海からの光を反射していてとても綺麗です。

そして市場は物に溢れ、道行く人々は一部を除いて明日の不安などないと太陽にも負けない眩しい笑顔でした。


「しかしながら若いのに大変だねぇ...重い荷物を持ってモンスターの出るところを長距離歩いてくるのは大変だったろう……飴でも食べるかい? 」


「ありがとう存じます」


おじいさんが飴をくれました、どうやらご自身のお店の商品だそうで。


「こちらはそうでもないですよ? そちらこそその歳になると重い荷物などを運ぶのは大変ではないですか? 腰とか」


飴を口に含みながらおじいさんの会話に応えておきましょう。


「? 何を言ってるんだね君は、そんなもの奴隷にさせればいいだろう? 」


おや? さっきまでこちらを気遣い、誰にでも優しそうだったおじいさんがまるで不思議な物でも見るかのように困惑していますね。

こんな善良そうな人ですら、奴隷は人でなく物とし認識しているようですね……。


「…………これがひっくり返ると思うとゾクゾクしますね(ボソッ」


「? なにか言ったかね? 」


「いえ、なんでもありません。そうですね、奴隷にさせますよね普通は」


おっと、いけません。ちゃんと受け答えなければなりませんね、この高揚感はまだ取っておきましょう。


「………………聞こえちゃった、やっぱ怖いよこの人(ボソッ」


「では、ワシはここで降りるでな、ゆっくりしていくんだよ」


「はい、では」


おじいさんは次の船着場で降りていきましたね、会話する相手も居なくなりましたし、船を漕いでいるであろう奴隷たちを見てみます。


「『……』」


泣きそうな者、辛そうな者、こちらを睨み付けている者、絶望しかけている者、様々な人たちがいますが、皆に共通しているのはそこに諦観の表情が微塵もないことですね。

見聞きした限りだと諦めの表情を浮かべる者が一人くらい居てもいいと思うんですけど、彼らは何を支えにしているんでしょうね?


「……もしかしたら奴隷たちの地下組織のようなものがあるのかも知れませんね」


「そうなんですか? 」


「ただの想像です」


ふむ、これは本格的に調べてみますか。計画に利用できるかも知れませんからね。


▼▼▼▼▼▼▼

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る