第29話北の地下通路その4

なにやらいきなり騒ぎ出したと思ったら落ち込み始めた彼にどう対応しようか悩みますね、本当にどうしたのでしょうか? やはり首を落としてあげた方がよいのでしょうか?


「本当に大丈夫ですか? 」


「はい、大丈夫です……」


…………………………絶対に大丈夫じゃありませんよね、これ。


「とにかく大丈夫です、何も変わったことはありません、えぇそうです、僕は変わっていない」


これは大分重症ですね…………? なにか精神攻撃でもうけましたか? 索敵には引っかかってないのですがね? もっと索敵の範囲を広げた方が​──


「止まってください」


「……なんですか? ついに僕の首を、」


「人の足音がします」


「っ! どこから? 何人くらいですか? 」


お、復活しましたね? それは喜ばしいことですが今はそれどころではありませんね。


「で、どうしますか? 」


「? 何がです? 」


「どうやら私はジェノサイダーと呼ばれているのでしょう? 一緒に居るところを見られて平気なんですか? 」


「……あぁ」


彼が私の仲間だと思われてこの先ゲームがやりにくくなっても可哀想ですしね、あらかじめ聞いておきましょう。


「僕は別に構いません、むしろここまで来たんですから一緒に街を目指しましょう? 」


「……私の仲間だと勘違いされて不都合はありませんか? 」


「大丈夫です! 心配しないでください、そのくらいなんとかなりますよ」


そう言って彼は満面の笑みでもって答える。ここまで言われてはこっちが変に配慮しなくても問題なさそうですね。


「…………それに今まで接点のなかったクラスメイトのオタクと美少女がゲームを通じてなんてラノベの王道……(ブツブツ」


またなにやら小声でブツブツ言い始めた彼を伴いその足音に向かって進みます。


▼▼▼▼▼▼▼


半ばトリップしかけていた意識を無理やり正気に戻してレーナさんについていく。


「……」


正気になって今さら緊張してきた……あれだけ啖呵切っておいてかっこ悪い…………が、でも僕は別に攻略組ではないし、リアルでも荒事の経験なんてないから仕方ないと思う……。


「……そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ、私が全部殺りますし」


…………やはりレーナさん根は優しいんだな、なんでこんな殺伐としているのだろう? 家庭環境に問題が​──いやいや、さすがに失礼だ。クラスの美少女との接点がとか、さっきから僕は無礼なことばかり考えてる。これは良くない。

ちゃんと彼女自身を見て判断し、それから​──友達になりたいな。


「大丈夫です、レーナさんの足は引っ張りませんし、僕は支援系統が得意です。むしろ役に立ちますよ? 」


そう笑顔で彼女の気遣いに応える。


「……そうですか」


そんな会話をしながら進んでいくと​──


「っ?! てめぇまたかよ!! 」


​──プレイヤーと会敵した。しかも攻略組じゃないか、それにハンネスたちのパーティーだし…………クラスは違うけど同級生だからやりづらいんだよなぁ、同じ攻略組ならハロルドたちが良かったよ。

幸い向こうは所謂カースト上位の生徒だ、陰キャオタクの俺のことなんて知らなさそうなのが救いかな? レーナさんのことだって雰囲気とかやってることがイメージと違いすぎてまだ気付いてないみたいなのが良かった、本当に…………。


「…………また? 」


「お、お前ぇ……? 」


「ハンネス、落ち着け。俺もちょっとどうかと思うが冷静になれ……」


「……まずは個人を覚えてもらうところから頑張らないといけないわね? 」


「ハンネス可哀想……」


嘘でしょレーナさん?! あなた3回この人たちキルしてますよ?!! その時だって広場で唯一戦闘になったし、狭い場所で少ない人数で顔を見合わせてたらしいし、クーデター事件の時も最初から最後まで生き残ってたし、途中までとはいえ口上も捨て台詞も聴いてましたよね?!

絶対忘れないと思うんだけどなぁ…………? ハンネスたちがあまりにも可哀想だよこれは………………。


「ただ殺されるより残酷かも知れません……」


「なんだか僕、一周回って面白くなってきちゃったよ」


今は敵同士ですけど激しく同意しますよ。


「……待って、後ろにもう一人いる」


「っ! お前仲間がいたのか?! 」


一番大きな変化だし気付くよねそりゃ、見慣れない僕に一気にハンネスたちのパーティーメンバーが警戒の視線を投げる。


「? 彼は仲間じゃありませんよ? 」


「……じゃあ、なんで一緒にいる? 」


「物知りなので情報を吐き出させてます」


「『……』」


いや、事実だけども!! もっと他に言い方あるでしょ?!! ほら、見てよハンネスたちのパーティーを! こちらを見る目が警戒から一気に気遣わしげなものに変わっちゃったじゃん!!

めっちゃ居た堪れないよ!! 『あいつ何されたんだ』とか『可哀想な奴だな』とか言いたげな目だよ!!


「……彼に何したの? 」


「可哀想な奴だね、君も」


ほら言われた!! ケリンの奴に至っては笑ってんじゃん!!?


「? 話の流れがまったく読めませんね……」


「ダメだこの人……」


薄々わかってたけどもしかしてレーナさんって超がつく天然なのかな​──そんなことを思いながら、僕は自分にできるありったけの支援をレーナさんにかけて後ろに下がるのだった​──


▼▼▼▼▼▼▼

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る