第22話敗戦

「がふっ……!! 」


血反吐を吐き、地に膝をつく。まだだと思うも震える身体は言うことを聞いてくれず、身体から急速に力が抜けていくのがわかる…………。

なぜ敗けたのか? それだけがわからず困惑してしまう…………その疑問と共に溢れんばかりの憎しみを込めて目の前の地面に座り込む女を睨み付ける。


「……ふぅ、賭けに勝ちましたね。今回ばかりは危なかったです」


本当に底が知れない、ポーションなどで足をくっ付け立ち上がる女に問いかける。


「……なぜだ? 」


「? なにがです? 」


「…………まだ10秒近く猶予はあったはず、その時間さえあれば俺はお前の首を貫けていた」


「あぁ……」


薄々勘づいてはいるが聞かずにはいられない。女はさも納得がいったとばかりにタネ明かしをする。


「……まぁ、いいですか。そんなに難しいことでもないので最後に教えましょう」


そう言って女が語ったのを聞き、最初からこうなるように手は打たれていたと思い知る。


「まずそもそも短刀に劇毒が塗ってあったんですよ。それをあなたは強化する前にかすり傷とはいえいくつも受けていました。全然そんな素振りないので少し焦りましたが、まったく効かなかったということはなかったようで安心しました」


「それでも毒状態ではなかったが? 」


「簡単ですよ、火薬玉自体にも副産物として効果の薄い毒効果がありまして、さらに毒煙玉はただの毒ではなく、短刀に塗った毒と生物の体内で混ざるとその効果を増幅する効果かがある…………らしいんですよ」


「……らしい? 」


「私もテキスト読んだだけですから本当かどうか半信半疑だったんですけどね? さらにダメ押しとして闇魔術の《衰弱》で状態異常に対する耐性を下げ続けていたんですよ。その結果あなたのHPは通常よりも早く尽きたというわけです、納得しましたか? 」


「…………あぁ、悔しいがな」


本当に悔しい…………我が故郷を荒らす大罪人を、父上の敵を、秩序の敵を目の前にして、全力と本気を出してなお仕留めきれなかった自身の不甲斐なさに自罰的な念を抱く。


「さて、最期に言い残すことはありますか? 」


「ない………いや、父に……生きてくれと、どうせ向かうのだろう? 」


「…………そうですが、お父さんに……ですか? 」


「あぁ、ダメか? 」


「………………いえ、いいでしょう」


ほんの少し躊躇する素振りを見せたものの、最終的には引き受けてくれた。理由はわからないがおそらく自身の父親と確執があるのだろう……。


「では、さようなら。すごく楽しかったです」


「……私もお前とはもっと別の出会い方をしたかったよ」


あぁ、本当に悔しい…………我が故郷を荒らす大罪人であり、父上の敵であり、そして秩序の敵であるコイツとの戦いは​──楽しかった。


「それでは」


ゆっくりと短刀が自身の喉を貫いていく、異物が侵入してくる感触と炎に炙られるような熱さに一瞬顔を顰めるが直ぐに感覚がなくなり、何も感じなくなる。

鉄の塊がうなじまで通る感触を感じながら最後に​──奴の美しい顔を目に焼き付けて俺の意識は途絶えた。


▼▼▼▼▼▼▼


《レベルが上がりました》

《スキルポイントを獲得しました》

《カルマ値が大幅に下降しました》

《新しく心眼スキルを獲得しました》

《新しく火属性耐性を獲得しました》

《新しく毒耐性を獲得しました》

《新しく斬撃耐性を獲得しました》

《既存のスキルのレベルが上がりました》

《レベルが一定に達したスキルがあります、進化が可能です》

《新しく称号:人類の天敵を獲得しました》

《新しく称号:英雄殺しを獲得しました》

《新しく称号:屍山血河を獲得しました》

《山田さんのレベルが上がりました》

《山田さんのレベルが一定に達しました、進化が可能です》

《影山さんのレベルが上がりました》

《影山さんのレベルが一定に達しました、進化が可能です》

《麻布さんのレベルが上がりました》

《麻布さんのレベルが一定に達しました、進化が可能です》

《三田さんのレベルが上がりました》

《三田さんのレベルが一定に達しました、進化が可能です》

《井上さんのレベルが上がりました》

《井上さんのレベルが一定に達しました、進化が可能です》


なんとか騎士団長さんに勝てましたね、今回は凄い苦戦しましたね、辛勝という感じですね。反省し今後に生かしましょう。


「さて、どうしますか? 」


既にプレイヤーの大多数が死に戻りし、NPCたちは騎士団長さんが膝を突いた時点で座り込み諦観の表情を浮かべています。

その中でも未だにまっすぐこちらを睨んでいるパーティーが1つだけありますね。


「…………」

「ハンネス、やるなら最後まで付き合うぞ? 」

「えぇ、そうね相手も消耗してるはずだし」

「わ、私も精一杯支援します! 」

「……今度こそ射抜く」

「えぇ〜? マジかよ、しゃーねぇーなぁー」


ほうほう? 最初に仕掛けてきたパーティーですね、別にこちらは構いません。即座に武器を構えますが……。


「……いや、やめとく」


「ハンネス? 」


「今の俺らじゃ力不足だ、何が目的か知らんがここで挑んでも時間稼ぎが精々だ」


「……」


「だが、勘違いするなよ? 勝負は一旦お預けってだけだ! 」


「そういうことか……」


「まったくしょうがないわね……」


「強くなっていつかてめぇをぶっ潰してやるから覚悟​──」


「​──御託はいいんですよねぇ」


何やら熱く語りだしたところ悪いのですが先を急いでるのでサクッと心臓を貫きます。


「​──やっぱ俺、お前の事大嫌いだわ」


「? そうですか? 」


そのまま残りのパーティーメンバーもほぼ不意を突き皆殺しにしてその場を後にします。


▼▼▼▼▼▼▼

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