ジェノサイド・オンライン 〜極悪令嬢のプレイ日記〜
たけのこ
第1話プロローグ
「お嬢様、荷物が届いております」
学校から帰ってきて開口一番に家令である山本さんからそう言われる。確か今日だったか……忙しくて忘れていた。けど楽しみにしていたのは事実、内心のワクワクを隠して私は応じる。
「わかりました、ありがとう存じます」
そのまま山本さんは一礼して去っていく……さて、私も部屋に戻って準備しますかね!
▼▼▼▼▼▼▼
私こと一条玲奈は日本の華族である一条公爵家の長女です。
家柄に相応しい淑女たれとこの厳しい家庭環境にて育てられてきました。そんな生活は嫌いでしたし、なにより小さい頃から父の私と話す時の道具を見るかのような目が特に大嫌いでした……多分というか確信が持てますけど父も私のことが嫌いだったのだろうと思います、自分で言うのもどうかとは思いますが私はどこかおかしかったですから……。
小さい頃にアリの巣に水をいれたり、虫を捕まえて戦わせたりした経験がある人は多いのではないかと思いますが、私はそれを人に対して、それも躊躇や遠慮、際限が無く行っていました。
今にして思えば人目のある所でやるなんて……と思いますが、そこは若気の至りと言いますか、小さい子供だったのでしょうがないとしか言えません。
そんな私にいつも『普通』を教え諭してくれる母が好きでした。私がやりすぎる前に止めてくれて、『正しい行い』というのを丁寧に優しく教えてくれていまして、何かあったらまず母に相談するように言ってくれました。
今にして思えば、母は一人娘である私の将来が心配だったのだろうなと自分のことながらに思います。
そんな私に転機か訪れたのは小学校に上がってからでした。子供というのは残酷なもので『異物』に敏感です。客観的に見て整った母譲りの容姿に、綺麗な濡れ羽色の黒髪。『みんな』と違うキャラや戦隊物の服や最新の子供服ではなく、ちゃんと1から仕立てられた一目で高いとわかる洋服。
この程度ならまだみんな「すごいね」「可愛いね」で済んだでしょう……ですが私は『普通』ではありませんでした。子供ながらに……いえ、子供だからでしょう、敏感にそこに気付いていたのでしょう。入学からそう時を置かずに、私という『異物』を排除するためにイジメが始まりました。
ですがこの時、私はこれをイジメと認識せずに自分がしてる『いつもの遊び』だと思ってしまったのです。物を隠されれば隠した本人の物を目の前で燃やし、押し倒されたら前歯が折れるまで押した相手を殴り続け、悪口を言われたのなら相手の口に虫を入れ顎を叩き上げ咀嚼させるなど、枚挙に暇がありませんでした。
そんなことが続き誰も私に近づかなくなった頃たまたま職員室前を通りがかった時です。母の謝罪の声が聞こえたのは……なぜ母か謝罪しているのかその時はわかりませんでしたがなんとなく、『自分が悪いのだろうな』と感じたものです。
大好きな母が理由はわからないけと自分のせいで嫌な思いをしている……それだけで悔しくなり立ち尽くしていました。職員室から出てきた母は目の前のそんな私にびっくりしたような表情して、それから微笑んで──
『帰ろっか? 』
それから私は『遊び』をしなくなりました。何かあっても淑女らしく微笑み受け流して、決して自分を出さない、自分がおかしいことに気づく年齢になれば尚更その傾向は強まりました。
父はますます私を無機質な目で見てくるようになり母にも辛く当たっていたようですが、当の母が微笑み私を暖かい目で見てくるのでまだ我慢はできました。
ですが、母が癌にかかりそれから数年もせず亡くなると、父はそのまま浮気相手と再婚し、あろうことか腹違いの妹と弟まで連れてきました。『あぁ、このままだと遊んでしまうな』と直感した私は、父の関心がないのを幸いとばかりに屋敷の離れに母の部屋の家具と一緒に移り住みました。
父は腹違いの妹と弟を可愛がるばかりで、私に対する興味などとうの昔に無くしていましたので、何も言ってはきませんでした。
ですが、今までの心の支えであった母がなくなり、自分の中の『異常』と折り合いをつけるのが難しくなるのは死活問題で、こればかりはどうしようもありません。何かないものかと様々な紛争地域や国の刑法などを調べていくうちに、端の方にオンラインゲームの広告があるのが目に付きました。
興味を惹かれるがままに調べていくと、今の私に丁度いいというのと、サービス開始間近というのもあって即購入しました。それが今日届いたのです。
「やっと届きましたね、カルマ・ストーリー・オンライン! サービス自体は昨日のうちに始まってますけどまだ許容範囲内ですね」
カルマ・ストーリー・オンライン、通称『KSO』はプレイヤー自身の行動によってカルマ値というものが変動し、最終的に秩序、混沌、中立の三つの陣営に所属することになる新作VRMMORPGです。所属と言っても具体的な組織や国に加入しない限りなにかしなければならないことがあるわけでもないですが、NPCたちからは犯罪者や聖人の如く扱われたり、施設の利用制限、なれるクラスやなれないクラスなど色々と関わってくる重要な値です。
このゲームは最初から自分で所属する陣営は選べず、カルマ値もプレイヤーがゲームをプレイしていくうちにNPCに対する態度、ゲームの攻略状況、特定の国や組織に対する貢献度などで上下するために、まだ始まりの街周辺から動けてないプレイヤーたちはそのほぼ全員が中立でしょう。
「もうサービス開始から1日以上経過してるし、もしかしたら既に中立から脱してる人もいるかもだけど…」
そしてなにより公式ホームページにて、運営はゲーム内のクラッキングやセクハラ行為などの現実の法に抵触しない限り、如何なる言動をも黙認すると書いてあるのがいいです。ここなら『遊び』ができると考えたのが一番の決め手です。
自分の行動次第で自身の立ち位置が変わるというのが、最初から自分意思など関係なく立ち位置も明白に定められた家庭環境とは正反対であり、自分には酷く魅力的に映ったのもあるし、日頃の鬱憤をリアルではできない手段でゲームで発散してしまおうというわけです。
「さてと、インストールも終わったし早速プレイしましょう! 」
トイレも行ったし水分補給も大丈夫、微かに母の匂いがする気がするベッドに横たわりいそいそと最新型の薄い輪っかのようなベッドディスプレイを被り、ゲームアイコンを視線操作で選択、そのままログインです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます