どこだ此処は?縄文時代じゃないだろう!

キャットウォーク

第1話 古墳公園

 長野県長野市に大室おおむろ古墳郡がある。

小高い山に約500基の古墳が散在し、入り口は公園として整備されている。

この公園は解放されており長野市が一望できる。


 涼しくなりはじめた9月末の土曜日、この公園に室賀 誠(25歳)と、恋人の桜井 穂乃花(22歳)、そして穂乃花のペットのニャン吉(推定7歳)が訪れた。

言うまでも無くニャン吉は猫である。


 公園は閑散としていた。

人が少ないので穂乃花は腕にニャン吉を抱き散歩することに決めた。


 公園を一周ぶらりと散歩したあと、誠は穂乃花に話しかけた。

「古墳の中に入ったことある?」

「無いよ。」

「どうして?」

「だってお墓だよ、お墓!」

「でも、再現された古墳だから、中は何にもないよ?」


 誠自体は古墳には興味は無かったし入ったことがなかった。

せっかく来たのだから入ってみよう、と、ふと思った。

この時、まさか、あんなことになるとは思ってもいなかった。

それは数分後におこるのだが・・


 「穂乃花、中に入ってみよう。」

 「え~・・・入るの、本当に?」

 

 誠は穂乃花の返事を待たずに再現された古墳の一つに歩き始めた。

あわてて穂乃花は誠の右袖を左手で摘まみ、誠のやや後方に続いた。


 選んだ古墳は壁と天井は岩、床は土、全体を芝生が生えた土で被っていた。

出入り口は1カ所しかない閉塞空間で、中は4畳ほどの狭い空間だった。


 そこに誠は数歩入った瞬間、目眩に襲われふらついた。

おっと、いけない・・よろめいた・・

あっ!

穂乃花を巻き込んでいないよな!

そう思い、思わず袖を掴んでいた穂乃花の位置を振り返る。


 すると、穂乃花もふらついて膝をつこうとしていた。

その瞬間、穂乃花が抱いていたニャン吉が腕から飛び出し古墳からも飛び出た。


 「穂乃花、大丈夫か!」

 「私は大丈夫、それよりニャン吉!」

 「わかった!」


 誠はすぐに、ニャン吉を追いかけ古墳から出た。

 ニャン吉は以外にも、古墳の入り口付近にうずくまり前方を警戒していた。


 やれやれ、回りの人が怖くてうずくまったか・・

ゆっくりとニャン吉に近づき、つかまえて抱き上げた。

ほっ、と息をはく。

 

 そして何気なく猫が見ていた方向を見て固まった。

「ここ、どこ?」


 市街地が一望できるはずだった。

しかし、目の前には関所のような建物と門、高い塀が立ちはだかる。

それ以外は見えない・・・


 「なんだ、これは?」

呆然と立ち尽くす。

しばらくして、我に返り後ろを振り返る。


 そこには穂乃花がいた。

穂乃花も呆然として、こちらを見ていた。

穂乃花がいるのを確認して、ホットした。


 ふと、穂乃花の回りを見る。

えっ?

再び唖然とする。


 公園が消えていた。


 穂乃花の後ろは、広大なススキ野だ。

そのススキ野を、草の生えた道が一本貫いている。

ススキ野のはるか遠くには小高い山脈が見える。

それ以外はない。


 呆然としていると、穂乃花が開きっぱなしの口を閉じた。

そして、誠に訪ねてきた。

 

 「これって・・」

 「ん?」

 「これって、イベント?」

 「いや、違うと思う。」


 「分かった! 私へのサプライズでしょ!

  う、うれしいかな、私?・・

  はは、ははは・・」

 

 確かに、公園で何かのイベントが開かれていると思いたいよね。

うん、俺も思いたい。

しかし、どう考えても、ここは公園ではない。

地形も違えば風景も違う。


 さて、どうしよう?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る