第2話「貧乏少女とプロット作成」
「あれから色んな面白い小説を読んで、ちょっとだけど仲良くなってくれた人もいるよっ」
カクヨムユーザー登録を済ませて3日が経過した美也ちゃんが相変わらず学校帰りに僕の部屋に来てはゴロゴロしながら自分のタブレットを弄っている。
「あとねっ、面白い近況ノートがあってさー、変態の館っていう―――」
「ストップ!!」
駄目だ美也ちゃん。あそこだけは絶対に駄目だ。
「あービックリしたっ……どうしたの康太お兄ちゃん?」
「いや、何でもない」
「えっとね、それでそこの主さんが触手好きで―――もがもがっ」
美也ちゃんがかなりヤバいワードをぶっ込んできたので僕は慌てて彼女の口を手で塞ぐ。
「ぷはっ、苦しかったよー。本当に康太お兄ちゃんどうしたの?」
「ごめん、なんか呪われた言葉が聞こえてきたからさ……あのね、美也ちゃん。あそこは入っちゃ駄目。絶対に入るなと強制はできないけど、せめてこっそり覗くだけにしときなさい。間違っても書き込んじゃ駄目だよ」
「うん、わかった。康太お兄ちゃんがそう言うなら書き込まないようにするよ」
OK、素直で良い子だね美也ちゃんは。
「それで、書きたいものとかもう考えた?」
「うーん……やっぱり私は異世界ファンタジーが好きだし、人気作もたくさんあるみたいだからそういう小説が書きたいなあ」
「良いと思うよ。異世界ファンタジーは一番読者が多いし、何より書きやすさが他のジャンルと全然違うからね」
それに美也ちゃんが書いた童話の『ヤマネコとアライグマの大冒険』も異世界っぽい感じがしたのでちょうど良いと思う。
「え? 異世界ファンタジーって書きやすいの? 同じファンタジーでも色んな設定を考えなくて良い分、現代を舞台にしたファンタジー作品の方が書きやすい気がするけど」
ところがどっこいそうじゃないんだなぁ。
「確かに異世界ってイチから舞台や設定を自分でつくっていかなきゃいけなくて難しい感じがするかもしれないけど、逆に考えれば自分の書きたいストーリーに合わせて都合よく世界を作れるという利点があるのさ」
「現代ファンタジーだと、どうしても現代社会ってのが前提にあるからそことファンタジーの調和性を考えるのが寧ろ結構難しいだよ」
「現代社会とファンタジーの調和性?」
美也ちゃんは僕のいうことを必死で理解しようと頭を捻りながら聞いてくれている。
「解りやすく言うと、例えば超能力バトルの作品を書くとすれば、現代社会が舞台だからバトルシーンをメインに書きたくても、主人公が学生なら大半は学校で勉強しているはずだよね? でもバトルを書きたくて学校には行ってない設定にしようとしたら、何でこの人学校に行かなくても良いの? ってなっちゃうよね」
ちょっと理屈っぽいかも知れないけど、簡単に言えばそういうことなんだ。
「あー、そう言われれば、そうかもしんないっ」
「後は主人公とライバルが町を壊すくらいの超能力バトルを繰り広げたとしてして、警察や学校の先生はどうするの? 止めないの? 他の人たちは超能力を使えるの? 使えないの? 体を治す超能力とか一般的に存在したら病院とか要らないよね?」
「本当だっ! そう考えると現代社会を舞台にして変にファンタジーの設定を加えると説明がややこしくなっちゃうね」
よし理解してくれた。美也ちゃんは賢いなあ。
「でも異世界ファンタジーなら作者の好きにできるんだよ。学校があってもいいし、なくてもいい、回復魔法が存在したら病院はなくていいし、警察みたいな機関のあるなしも自由だ。主人公がいる場所を国じゃなくて村にすれば軍隊も必要ないからね。もちろん必要になったらそのときに描写することもできる。とにかく異世界ファンタジーは自分の書きたいストーリーに都合よく世界を設定できるんだ」
異世界ファンタジーは万人に書きやすいからこそ、多くの人に小説を書かれてそれだけ多くの作品が書籍化されているんだ。もちろんその分読者も多い。
「なるほど~。異世界ファンタジーって自分の書きたい世界を自由に設定しても全然違和感なく書けるってことなんだね」
「そういうこと。極端に無理な設定でない限り読者が勝手にそういう世界なんだって思ってくれるからさ。あともう一つのメリットは話を長く続けられることかな?」
「ん、と。……それはどういうこと?」
「恋愛小説とかだと主人公とヒロインが出会ってから付き合うまで書いちゃったら続きが書きにくくなりがちだけどその点、異世界ファンタジーは物語の目的も自由に設定しやすいから、新しい敵を出すとか新しい土地に冒険するとかすればドンドン次の目的を作ることができるんだよ」
「それに美也ちゃんがロイヤリティプログラムでお金を稼ぎたいんだったら、長編にしやすくて読者も多い異世界ファンタジーがピッタリなのは間違いないよ。話数が多いとその分PVも増えるし、100万文字オーバーの作品もザラにあることだしね」
「うんっ、私っ異世界ファンタジーに決めた!」
「じゃあ、次はプロットの作成だ」
「ぷろっと? 名前は知ってる難しいやつだそれ」
残念、全然難しくないんだよね。
「プロットってのはこれといって決まった形式はないから、こういう作品が書きたいっていう構想をメモしただけのネタ帳でも何でも良いんだよ。異世界ファンタジーにするって書くだけでも立派なプロットだよ」
「他にはどんなことをメモしたらいいの?」
「自分の書きたい小説の材料を書けば書くほど良いかな。登場人物の名前とか国の名前とか、主人公の目的とか、盛り上がるシーンとか、さっきも言った異世界の舞台設定とか、とにかく思いついたことをたくさん書いておけば、実際に執筆するときにそれを見たらスムーズに書けるんだよ」
「わかった! 学校とかでも思いついたときすぐ書けるようにメモ帳に書いとくね」
僕もそれが良いと思う。小説のネタとかって通学中のふとしたときとかに思いつくことも多いしね。
「あと、異世界ファンタジーを書くならもういっこアドバイスがあるよ」
「なになに~、教えてくーださいっ!」
ああ、嫌になるくらい可愛いんだけど……美也ちゃん。
「異世界ファンタジーの主人公って、大まかに純粋な現地人の場合と現代社会からの転移・転生ものがあるんだけど、僕はいわゆる異世界転生モノをお勧めするよ」
「どーして?」
「異世界転生モノは人気があるってのもそうだけど、主人公が別の世界に飛ばされたことにすればその世界のことを何も知らないっていう理由付けができるんだよ」
「元々の現地人が主人公だったら、その世界の説明をする……つまり世界観描写が地の文になっちゃうから淡泊になりがちだけど、その世界のことを何も知らない転生者にしておけば、取り敢えず主人公が見たものが世界の説明になるんで、会話文とかでも十分描写が可能なんだよ」
そもそも一人称の作品だと元々主人公が知っていて当たり前の世界描写を説明的に書くって結構違和感があるからね。
「確かにっ、異世界転生モノって主人公が自分の知っている世界と比較したり、初めてみて驚いたシーンでもこの世界ってそういう風になってるんだってわかるもんね」
そういう事。美也ちゃんは僕の言うことを素直に聞いて受け入れてくれるから、これ以上言っちゃうと自分が書きたいものが書けなくなっちゃうかもしれない。アドバイスもほどほどにしておこうかな。
「異世界ファンタジーで転生モノにするって決めたよ!」
ほらね。
「でも後は自分のアイデアをドンドン入れていかなきゃだね。プロット作成頑張って!」
「うんっ、ありがとっ康太お兄ちゃん!」
美也ちゃんはさっそく自分の部屋でプロットを練りたいのか、そのまま僕の部屋から出てってしまった。
今日はギュッてしてくれないらしい。僕の右腕はずっと空いているんだけどなあ。
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