第55話 浅黄龍二の実力
俺と緑間拓海、舞黒優人そして新しいメンバーとなるらしい浅黄龍二の4人で貸しスタジオにやって来た。龍二くんの能力を見極めるために。
三喜田社長の話を聞いて、どうやらスポンサーに配慮したような感じで龍二くんを5人目のメンバーとして採用したように思える。そして、それが剛輝を怒らせた。
けれども、龍二くんにはアイドルとしての素質も十分にあると三喜田社長は語っていた。俺も三喜田社長に見いだされた身だったので、三喜田社長の審美眼が正しいと信じたかった。
そんな訳で、龍二くんの能力については自分の目で実際に見て確かめてから判断をすれば良いと考え、スタジオにやって来たのだった。
スタジオにやって来ると、まず4人は全員動きやすいジャージの格好に着替えた。すぐさま龍二くんの能力がどの程度なのか確認する。
「それじゃあ早速、どれぐらい出来るのか見せてもらえるかな」
「はい、分かりました」
音楽を流し、簡単なステップから始めるように指示すると素直に応じる龍二くん。彼は軽快な動作で動きにブレはなく、しっかりと動けていた。そして何より、ずっと笑顔を絶やさず浮かべて踊れていることが良かった。
なかなか、やるじゃないか。
「じゃあ、次はこんな感じで」
次は俺も一緒に入り、音楽に合わせて踊りながら動きを見せて、龍二くんに新たなステップを教えてすぐさま実践してもらう。
ぎこちない動きではあるものの、俺の見せた踊りを覚えようと試行錯誤を繰り返す龍二くん。そして彼は、すぐに自分なりに動いてみせた。すぐに、ある程度がモノに出来たら笑顔で報告してくる。
「こうですか?」
「うん、そう! 後は、手の動きをもっと軽やかに、こんな感じで」
短い時間だけで判断すると、今のところ龍二くんには踊りのセンスが十分にあると思う。すぐに新しい事も学習して自分なりに吸収し、踊って見せてくれた。
その次には、優人と拓海も一緒になって4人全員でトレーニングに励む。
「はい、お疲れ様」
「はぁ、はぁっ、ふう……。ありがとうございます」
結局、1時間ぐらいのレッスンを続けて行ってみたけれど、龍二くんは途中で根を上げることなくレッスンに付いてきた。初めてのレッスンで、これだけ出来るのなら上出来だと思う。彼は、体力も十分に有ることが確認出来た。
水分補給の為に俺が飲み物を手渡すと、息を切らしながらもしっかりお礼を言ってから受け取る。まだお礼を言える程度には、体力に少しだけ余裕があるようだった。
「ふぅ……。疲れたなぁ。龍二くんは、初めてなのに賢人のレッスンに最後までよくついてこられたね」
一緒になって急遽のレッスンを受けていた拓海は、リノリウム床に寝転がりながら龍二くんの頑張りを称えた。
「僕も最近ようやく1時間はもつようになったけれど、龍二くんは最初から出来ましたね」
優人は継続して鍛えたことによって今ではかなり体力がついて、長時間でも動けるようになっていた。それでも最初はやはり、優人は体力も少なく1時間もたなかった。その体力の少なかった頃を思い出して、龍二くんを称賛する。
「はぁ、はぁ、まだ体力が回復しませんが、なんとか。ありがとうございます」
2人から褒められた龍二くんは、呼吸を整えながらニコニコと笑顔を浮かべ答えていた。恥ずかしさを感じているのか顔を赤らめつつ、お礼を言う。
「ところで、龍二くんはいつから三喜田社長に声を掛けられてたの?」
俺は、少し気になっていた事を解明するために龍二くんに質問した。
以前に三喜田社長が語っていた、メンバーとなる1人が既に確定していて、すぐに合流すると言っていた人物というのが、浅黄龍二くんの事で間違いないだろう。
そうすると、あの時には既に優人がメンバーとなるのが決まっていた。
Chroma-Keyというグループ名が明らかになった時にはもう龍二くんがメンバーの1人として決まっていたと言うことだから、いつ社長に声を掛けられていたのか気になっていた。
「実は、半年以上も前に三喜田さんからはグループのお話は聞いていて、メンバーになるのは決まっていました。その時、同じメンバーとなる赤井さんや青地さんの事を教えてもらいました」
「そんなに前から?」
半年も前、ということは事務所の騒動があった頃から。それが終わった直後ぐらいに動いていた、ということなのかな。
「えぇ、そうです。ウチの両親が三喜田社長とは以前から親しい交流関係だそうで、新しい事務所を立ち上げると言っていたスポンサーを申し出ました。その話し合いの時に、アイドルデビューについての話があって決まっていました」
そう言えば、三喜田社長は新しい芸能事務所であるアイオニス事務所を立ち上げる時に、妙に自信満々に大丈夫だと語っていたが、浅黄財閥という大きなスポンサーが居たからだったのかと納得する。
「それじゃあ、なぜ今まで龍二くんの事を俺たちに紹介してくれなかったんだろ? 三喜田社長は」
「三喜田社長が赤井さん達に僕の存在を知らせなかったのは、僕が社長を口止めしていたからです」
「ん? どういう事?」
合流することは確定していた。それなのに、ずっと存在を知らせてもらえなかったのは、龍二くんが存在を隠すように三喜田社長を口止めしていたから。でも、それは何故? 理由が思いつかず、本人に問いかける。すると、こんな答えが返ってきた。
「赤井さんと青地さんの二人のことは、話を聞いて以前から知ってました。それで、踊りが上手なのも知ってました。そんな2人と合流する前に、少しでも自分で鍛えて追いついてからグループに加えてもらおうと、失望されないように半年間レッスンを受けて実力を上げていました」
「なるほど、そういう事か」
龍二くんも多分、コネでメンバーに選ばれたという事を承知しながら、あらかじめ努力を重ねて実力を高めてから俺たちのグループに合流してくれたようだった。
龍二くんは親が資金を援助してくれたからメンバーに選ばれたのではなく、能力で選んでもらったと言えるようにしっかりと精進している、というのが分かった。彼も色々と考えて、準備をしてから俺達の仲間に加わってくれたようだ。
ということは剛輝の言う、金で選ばれメンバーになったという考えは正しくない。どうにか彼にその事を認識させて、龍二くんと和解してもらわないと。
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