第53話 5人目のメンバー

 緑間拓海から聞いた話について、俺は三喜田社長にも確認をしに行くことにした。


 拓海の口からアイオニス事務所へ移籍してくるという事は聞いていたので、その他の事についても色々と確認するために、三喜田社長のもとへ話し合いに行く必要性を感じていたから。




 その前に、Chroma-Keyの他のメンバーである剛輝と優人の2人にも話をしておく必要があるな、と思った。三喜田社長と会う前、メンバーにも事情を説明したほうが良いだろう。そして彼らを引き連れて、三喜田社長に話を聞きに行こうと思った。


 学生寮の一室に剛輝と優人の2人を招いて、話をする。拓海には、他のメンバーへ話をする許可をもらって、一緒になって事情を説明する。


「え? 本当ですか? 拓海くんもメンバーに」

「お! それは、ええやんか。大歓迎やな」


 優人は驚き、剛輝は即座に歓迎するムード。拓海と2人は、文化祭の劇を行う際に既に出会っていて、文化祭期間中も色々と協力しあって仲良くなっていた。だから、今回の4人目の新メンバーとなったという事を驚きながらも、喜んでくれていた。


 そんな彼らの反応を見て、安堵する拓海。それから、改めて挨拶をする。


「うん、そうなんだ。事務所を来年の春頃に移籍して、アイオニス事務所へ行くことになった。よろしくね、剛輝くん、優人くん」


「俺のことは呼び捨てでええで、俺も拓海って呼ぶから」

「同じく、呼び捨てで大丈夫です」


「わかった、剛輝と優人」


 早速、いい感じに馴染めている。正式には来年の4月になるまでは、前の事務所に所属を続けるということなので、アイドルグループとしての活動がスタートするのはまだまだ先のことになるだろう。


 けれども事前に知り合い、仲良くなっておけばグループとしての連携も取れるようになって、順調な幕開きが準備できて良いと思う。


 そして、この4人で揃って三喜田社長のもとに話を聞きに行くことになった。移籍する前の拓海がアイオニス事務所に足を踏み入れる、というのは契約的に大丈夫なのかと心配したけれど、契約に関する色々な話し合いをしないといけなくて、その話もついでにするからと言うので、俺たちと拓海も一緒に向かう事になった。


 緑間拓海について話をしたいと三喜田社長を訪ねると、ちょうど良かったと言って三喜田社長からも話があるからと会議室へと通された。


「誰や、あれ?」


 剛輝が不審そうな表情を浮かべて、そう呟いた。会議室の中に見知らぬ少年が待ち構えていたから。一瞬、誰なのだろうかと少年の正体を考えて、ある事を思い出す。


 それは三喜田社長に会議室の中で、優人が新しいメンバーだと紹介された時と似たようなシチュエーションであった。まさか、彼がそうなのかと俺は思った。


 少年はニコニコと眩しい笑顔を浮かべながら、俺たちを見ている。その少年の身長は低く、まだ幼い見た目をしている。小学生の高学年ぐらいかと予想する。俺たちと比べて、年下なのは間違いないだろう。


「どうぞ、座って」


 すでに会議室の中で席に座って待っていた三喜田社長に、指示される。


 三喜田社長と話し合いをするため、会議室の中にある椅子へ腰を下ろす。そして、見知らぬ少年も当然のように席に座った。君は一体誰だと尋ねる前に、三喜田社長は話し始めた。


「緑間拓海くんの報道については、ニュースを見て既に知っていると思うが。来年の春頃に、アイオニス事務所に移籍してくることも本人から聞いたのかい?」

「はい。本人の口からお話を聞いて、教えてもらいました」


 三喜田社長との話し合いが始まると、まず拓海に関して確認をする為の質問を投げかけてきたので、俺が答えた。剛輝と優人も頷く。


「なるほど。それじゃあ、Chroma-Keyの4人目のメンバーとして迎える事も聞いているのかい?」

「それも聞きました」


 拓海の口からグループの新メンバーとしてオファーを受けていると聞いて、三喜田社長の確認の質問から本当だったのかと改めて驚いている。まさか、既に他事務所に所属している彼をオファーしているとは思っていなかったが、本当だったのか。


「うん。そうか」


 三喜田社長は腕を組み頷きながら、俺たちの知っている範囲を確認しながら、話を聞いている。


「そういえば、拓海くんと賢人くんの2人は知り合いだったのか」

「えぇ、学園の寮で隣同士の部屋になり、入寮してきてすぐの頃に知り合いました」


「僕らは、この前の学園祭で知り合いました」

「そうや。俺たちは、一緒に劇を成功させたんや」


 拓海との関係について俺が説明をして、付け加えるようにして優人と剛輝も拓海との関係について説明していく。グループの新メンバーとなる事を知らされる前から、既に知り合いであった、という事を。


「なるほど、それは良かった。残り1人のメンバーを加えて5人組として、拓海くんの移籍が完了するのを待ってから、Chroma-Keyは来年の4月をスタート目標として活動していけそうだな」


 三喜田社長が、これからのChroma-Keyについて確認するように、考えを口に出して言っているようだ。


 どうやら、Chroma-Keyは5人組のアイドルとして、来年の春から活動をスタートさせるらしいが。

 

 ここに来てようやく、アイドルとしてのデビューが見えてきた。そして、残り1人のメンバーというのは、やはり……。


「君たちの想像している通り、残り1人のメンバーとして加える予定なのは彼だ」

「はじめまして皆さん、僕の名は浅黄龍二あさぎりゅうじです。よろしくおねがいします」


 社長の隣りの席に座って、会話している最中は大人しくしていた彼こそが、Chroma-Keyの5人目のメンバーだと三喜田社長は言う。


 少したどたどしく、まだ子供らしいという話し方で自己紹介をする浅黄龍二という男の子。


 俺は、その男の子の名前に聞き覚えがあった。いや、俺でなくても知っている人は知っている、という有名な名前。


「ここに居る龍二くんは、浅黄財閥の御曹司だ。その彼を、5人目のメンバーとして迎える。赤井賢人くん、青地剛輝くん、舞黒優人くん、緑間拓海くん、浅黄龍二くんの5人組でChroma-Keyという新しいアイドルグループを立ち上げる」


 浅黄財閥なんて由緒正しい家柄の人が、俺たちのグループに加わるメンバーの中の1人となるなんて。俺が驚いていると、彼は手を伸ばして握手を求めてきた。


「あなたが赤井さんですね、リーダーだって聞いてます。よろしくおねがいします」

「あ、ああ。うん、よろしく」


 笑顔を浮かべて、目の前に差し出された手。俺は戸惑いながらも、握手に応じる。とりあえず、これで5人が揃ったわけなのか。そう思ったときだった、異を唱える者が1人、その場に居た。


 テーブルがバンと音を立てて、立ち上がった。会議室の中に、テーブルを叩く音が響き渡った。


「ちょっと待てや、社長。こんなボンボンを俺たちのグループに入れるんか? 俺は反対やで」


 5人目のメンバーとして紹介された浅黄龍二。彼が、グループに仲間入りする事について反対する声を上げたのは、剛輝だった。

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