第6話 戦況報告と監視(キース側)

 そういえば、戦場から引き揚げて来て、王宮に足を踏み入れたのは婚礼の時が初めてだったな。

 戦場からやっとの思いで戻ってみれば、16歳の第一王女との婚姻の命令が下っていた。

 第一王女リリアーナ殿下と言えば、第三王子とともに、第二王子を支える中核だ。

 今のうちに、引き離し監視下に置こうという腹積もりだろう。


 そして、婚礼も終わった今日、戦場から戻ったという挨拶と報告をするために王太子殿下の執務室に足を運ぶ。

 順番が逆ではないのか? との疑問は、持ってはいけない。

 この国は、法治国家では無いのだから。



 僕ともう一人の軍事司令官アルノー・リファールは、王太子殿下の執務室で礼を執る。

「お召しにより、参上つかまつりました」

 執務室の使用人によって、会議の為のテーブルに案内される。

 僕たちは、促されるまま席に着いた。


「よく参った。それで、戦況は……」

 王太子殿下が、席に着きながら戦況を訊いてくる。

 マリユス・ニコラは、部屋の隅に立ち。

 国王の側近であるシモン・アルシェは、他の文官と仕事をしている。

 本来なら国王の執務室に詰めているはずなのに、ずっと王太子の側で仕事をしているな。


 僕たちはしばらく王太子に、戦場の現況報告していた。

 今回は、後々面倒になりそうな国、ハーボルト王国の友好国を削ぐ戦いだった。

 なのに、いち早くハーボルトからの援軍が来て苦戦をいられた。


「やはり。ハーボルトは制圧出来ぬか」

「あそこの……王妃は優秀ですね。最近すたれてしまった魔術を駆使して戦いの指示を出しております。何より、王妃自身も戦い慣れている。女性の身で、剣術も優れています」

「側近も選りすぐりです。辺境の地ですし、今しばらく放っておいても良いのでは、無いでしょうか。向こうから、仕掛けては来ないのですし」

 今回、一緒に戦っていた司令官アルノー・リファールが報告をする。

 敗走とまでは行かないが、向こうの圧勝だ。こちらが退いたから向こうも退いてくれただけ。

 追われていたら、確実に全滅していただろう。


「致し方なし……か。こちらもそう余裕があるわけじゃ無いからな。ポステニアで手一杯ってところか」

「申し訳ありません」

「いや、良い、キース。それより、何だ? 不満がありそうだな」

「不満など、滅相も……。ただ、寝所を覗かれるのは、好むところではありません」

 僕は、マリユス・ニコラをチラッと見る。

 昨日、この王宮を出るところからずっと、あいつの気配がしていた。


「まぁ、そう言うな。そなたの父親のこともある。まだ我が派閥に疑う人間もいるのだ」

「はっ」

 僕は座ったまま、礼を執った。父親の事はよく分からない。本当に王太子を裏切ったのか……。未だグレー判定だ。


「それとな。リリアーナは確かに弟たちと仲が良いが、そなたとの婚姻で大人しくなるだろう。私に敵対するのでなければ、かわいい妹だ。少しは優しくしてやってくれ」

 意外だな。王太子がリリアーナの事を言う時に、優しい顔をするとは……。

「かしこまりました」

 椅子から立ち上がり僕たちは礼を執って、執務室から退出していった。

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