第5話 シャーウッド公爵邸の朝

 だるい。

 目が覚めて横を見ると、キースはベッドから消えていた。

 

 私が起きた気配を感じたのか、侍女が目覚めの紅茶と軽食が乗ったワゴンを押して来た。

 紅茶に一口付けてから、侍女に言う。

「湯あみ、出来るかしら?」

「かしこまりました」

 ああ、良かった。やっぱりこのままでは体が気持ち悪いから。


 湯あみが終わっても、寝間着のような感じのものに着替えさせられた。

 昨夜のような、眠れないものではなく、本当に、やわらかい感じの物。

「今日は、のんびりと過ごすようにと、旦那様からのご伝言でございます」

 初夜の次の日の定番の言葉。

 本来なら、キースから告げられるもののハズであるのに……。


 もう一度、紅茶を入れ直してもらい。

 軽い食事を済ませた。


 昨夜のどん底だった、気分は少し軽くなっている。

 乱暴に扱われるか、最小限の行為で済まされるかと思っていた初夜は……、なんというか、思ったより……。

 いや、恥ずかしい事に、色々配慮してくれて優しかった。

 精神はともかく、この体は初めてだったから、正直なところ助かった。


 そんな事を思い返していると、ふわっとバラの香りがした。

 ベッドから少し離れたところの小さなテーブルが置いてある。

 そこに花瓶が置いてあり、花が生けられていた。

 多分、私の世界と同じバラの花だ。

 

 私の意識がバラの方に向いたのを察したのか、部屋に控えていた侍女が教えてくれた。

「朝摘みのバラを旦那様が持ってこられたのですよ。奥様が好きだろうからと」

 

 そうね。嫌いじゃないわね。

 仕事が山積みで、愛でるどころじゃなかったけど……。

 

 そろそろ、ちゃんと考えないとね。

 いつまでも、めそめそ泣いていたって仕方が無い。

 キースはキース。

 悠人がいないのなら、自分で考えて何とかしないとね。

 

 大丈夫。

 全く知らないわけでもない世界だから……。

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