第6話 騎士団 紅一点としてのリナの立ち位置

 セドリックは、朝から慌ただしく支度をして、職場である王宮の近衛騎士団副団長の執務室に行ってしまった。

 当初の予定よりグルタニカ王国使節団の滞在が長くなり、使節団の警護を任されている近衛騎士団隊長たちとの打ち合わせが急遽きゅうきょ入ったからだ。

 交渉が難航しているというよりは、元々不安定な結界が完全に閉じてしまい、帰りたくても帰れない状態になってしまっていたからなのだが。


 結界が閉じてしまったのは、我が国にとって予想外の出来事だった。

 近隣国との貿易を考えれる程、結界が広がっていてこのまま消えてしまうのではとの予想を立てていたからだ。


 私の方は、いつも通りの時間に支度をして、騎士団長の大部屋の執務室に出勤をした。

 クランベリー伯爵夫人が、司令官室に行くわけにはいかないものね。

 新人騎士としての出勤。まぁ、いつも通りだけど。



「リナ・クランベリーは、こちらかな?」

 扉が開いたかと思うと、ホールデン侯爵が騎士団長の大部屋執務室に入ってきた。

 サイラスが扉の所まで行き、対応する。

 まぁ、自分の親父だしね。

「何か、部下に御用ですか?」

 サイラスは、私を部下と言った。

「ああ。騎士団に女性がいるというので、グルタニカ王国の使節団の方々が見学をしたいと申し出てきたのだよ。今、いいかね?」

「リナ・クランベリー」

 私は呼ばれたので、そちらに向かった。

「はい。ホールデン団長。お呼びでしょうか?」

 わざわざサイラスが部下扱いしてくれているので、私も部下としてサイラスの下に向かった。

「使節団の方々がお前に用事だと。ちょっと、行ってこい」

 サイラスが気軽に言っている。って事は、危険は無いって事ね。


「あっ、いや。こちらに来られていてだな」

 ホールデン侯爵が体をずらすと、3人ほど男性がいた。

 1人は昨日キースと一緒だったマリユス・ニコラだ。

「こちらが騎士団の紅一点。リナ・クランベリーです」

 なんだか、目玉商品のような紹介だわね。

「リナ。こちらの方々は、グルタニカ王国使節団の使節団長のフランシス・グルタニカ王子殿下、デリック・ブランジェ公爵、マリユス・ニコラ伯爵」

 ホールデン侯爵から、身分の高い順に紹介された。


「リナ・クランベリーと申します」

 私は騎士としての礼を執り挨拶をする。

 すると、マリユス・ニコラがにこやかに言ってきた。

「クランベリー伯爵夫人、ですよね」

「はい。でも、今は新人騎士です」

 私もにこやかに答えた。

 それにしても、グルタニカ王国の人間はみんな似て見えるな。

 外国人が、日本人を見た時の印象に似ているのかも。

 同じ肌の色、同じ髪の色で……。

 強いて言うならデリック・ブランジェ公爵がホールデン侯爵と同世代かなって感じで。


「へぇ。女性が1人いるだけでも、華やかだねぇ。うちの騎士団にも女性を入れようか」

 フランシス・グルタニカ殿下が、男ばかりだとムサイばかりだしねぇって言ってるけど。

 あれ? あそこって、軍部に女性いたよね。

 

 それにしてもフランシス殿下かぁ。いくつになったんだろう? セドリックと変わらなく見えるけど、軍部の責任者だし。

 本人も10代半ばから戦場に立っていて、経験値も高い。

 今も同じ軍事大国のポステニア王国と戦争しているはずなのに、余裕? それとも……。


 そこまで考えていたらフランシス殿下に声を掛けられた。

「ねぇ、君。戦える?」

 へ?

 えっと……。

「リナは無理です。お相手は私が致しましょう。フランシス・グルタニカ殿下」

 私が何て答えようと思っている内に、サイラスが返事をしてしまった。

「君じゃあね。意味が無いよ。団長というからには、そこそこ強いのだろう? 僕はね、騎士団において、女性がどれだけのものなのか、見たいだけだから」

 ため息交じりにそう言って、フランシス殿下は私の方に向く。


「リナだっけ? 君はお飾りでここにいるだけ? 戦場には出て来ない? それなら、確かめる意味も無いけど」

 挑発でも何でもない。ただ、淡々と言っている感じがする。

 言っている事も正論だし。

「団長。大丈夫です」

 私は、サイラスにそう言ってフランシス殿下の方を向く。

「フランシス・グルタニカ殿下」

「フランシスで良いよ」

「フランシス殿下。訓練場で良いですか?」

 私はそう言って、フランシス殿下をいつもの訓練場に案内した。

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