アラン王子殿下の憂鬱 4

 リナは、必ずジークに国王になって貰わないといけないと言う。

 多分、俺たちの代でなにかこの呪いめいたものを、断ち切りたいのだろう。

 海外からの侵入者も気になるところだし。

 まぁ、自分たちじゃ力量不足だから各派閥のトップに返り咲いて欲しいってところか。


「それって、ケンカ売る必要あるの?」

 つい訊いてしまった。

「ホールデン侯爵家は、今、この国で一番の勢力だと聞いてます」

「そうだね」

 ジークが相づちをうつ。

「そのような強い勢力の当主が、弱い立場の人間の話をきいてくれるでしょうか?私で無くとも、他の派閥の人間トップの話でも……」

「聞かないだろうね。というか、聞いてたら第二王子派は二分にぶんしてない」


 ジークとリナがの会話を聞いていて、気になる事を訊いてみる。

「そこまで言うのなら勝算はあると思うけど。失敗したら、リナが一番危ないんじゃない?」

 それが1番心配。リナが危ない目に合うくらいなら

「僕のいのち使う?」

 リナの目がビックリ目になってる。可愛い。

 いいよ。僕のいのちで、君が助かるのなら、喜んであげるよ。


「だって、僕が死んだらホールデン侯はジークを狙う必要無くなるよ」

 ね、だから承諾して。頼むから。

「ダメです。それじゃ意味が無い。20年前の恨みで生きている人間にそれやっちゃぁ、ダメで……」

 リナがボロボロと涙をこぼし、泣き出した。

 え? 僕の所為? 何で?

「リ……リナ?」

「リナ嬢?」

 どうしょう。どうしたら……。

 何か考える前に、リナを抱きしめていた。軽く……だけど。


「違う。私、誰も死なせたくなくて。2人とも助ける為に……。なんで……そんな、簡単に……た……立場とか……身分とか……」

 泣いてしゃくり上げてる所為か、言葉が途切れ途切れになっているね。

「死ぬのが、怖くないはず……ないでしょう? 嫌です。死なせたくない、もう誰も。何のためにこんな……死なせるつもりなら、最初から……動いて……ません」

 ああ……そうか。それが、普通の感覚か……。

 腕の中で、わあわあ泣いているリナを、ジークとなだめながら僕は、そんなことを考えてた。


 いつ死ぬかも知れないと考えて、覚悟を決めて……。ずっと、そうやって生きてきて。

 そうか、怖いよな。死ぬのは怖いことなんだ。

 でも、やっぱり僕は、そんな怖いところにリナがいることの方が怖くて。生きることを約束しながら、リナにも誓わせてた。


 リナの婚約の夜会には僕たちも参加したけど、なんか、色々警戒してるみたいで近付くのをやめた。

 その代わりといっては何だけど、親戚筋のマーティンソン公爵夫人に、リナのことをお願いしてた。

 まぁ、気に入ったらって感じの返事だったのだけど……。

 ホールデン侯爵家の動きも怪しいしね。


 リナはしばらくは、婚約夜会後、恒例のお茶会巡りをしているみたいだった。司令官の礼服を着て巡ってるみたいだけど、大丈夫かなぁ。

 そのうち、うちのお茶会にも来るだろう。

 まぁ、うちはまだフイリッシアがデビュタント前だから、僕も参加するのだけどね。


 お茶会には帯刀して貰った。司令官の礼服に帯刀した姿はカッコ良いと言って、フイリッシアを丸め込んで頼んで貰ったんだ。

 余所でも何度か、そういうお願いがあって帯刀していったみたいだったから、なんの疑問も無く了承してくれた。

 フイリッシアの護衛には、レイモンドを付けた。

 最近、やっとレイモンドも覚悟を決めたみたいで、仲睦まじくしている。


 いや近衛で来たリナを見てたから知ってたけど。礼服となるとこれはまた。

「なんか、愛玩動物っぽいな」

 レイモンドがボソッと言う。

「まぁ、もともと幼いからねぇ、リナは」

 この格好になると、輪をかけて幼く見えるよな。脳内で勝手に男性分類するからだろうか。


 でも、これが女性受けしたおかげで、嫉妬と羨望の的になることを回避できたのだから、結果的には良かったんじゃない?

 しばらく、そんな感じで談笑出来てた。

 なんか、変な気配がしてフイリッシア以外の、護衛の近衛を含めたみんなが反応した。


 リナもちゃんと反応してる、警戒心あったんだね……って、感心している場合じゃないか。

 乱入してきた兵士。リナを狙っている。

 とっさにリナの剣を抜く。

「リナ。借りるよ」

 リナを引き寄せ、斬りかかってきた兵士を斬った。

 リナの剣で、人を殺したりしないから安心して。

「わ……私も戦えます」

 バカなことを言うんじゃない。

「ダメだよ。リナは女の子なんだからね」

 理由になってないけど、リナを戦わせたくなかった。

 セドリック、早く来い。


 近衛が来て、一息ついたら。リナから手紙を押しつけられた。

「アラン様。これを王様に渡して下さい。中は王様と一緒に」

 リナは分かっているのだろう、自分が国王のもとにいけないことを……。セドリックは、もう二度とリナを自由にさせない。


 セドリックがサイラスを連れてやってきた。いつの間に仲良くなったんだ。

 セドリックがリナを肩に担ぐ。いや、扱いがひどすぎない? 一応、女の子だよ。

「大丈夫ですか。アラン王子殿下」

「ああ。問題ない」

「ちょっと、現場離れても良いですか」

「そのために、サイラス連れて来たんだろう。早く、リナを連れて行け」

 司令塔は一つで良い。

 さっさとリナを安全なところに閉じ込めてくれ。


 リナが抵抗して、暴れてるけど。手紙は必ず国王に届けるから安心して後は、みんなに任せて。

 リナを見送った後、妹をレイモンドに任せて、僕は走った。

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