第102話 司令官のお仕事とエイリーン様のお茶会

「団長。昨日は、すみませんでした」

 珍しく、騎士団団長の執務室の机で書類に向かってたサイラスが顔を上げる。

「リナ嬢の悪いと思ったらすぐに謝ってくる態度、嫌いでは無いけどな。部下扱いだったら、何でも許されると思ってないか?」

 なんか、サイラスが不機嫌なのを隠してない。

 私は、キョトンとしてしまった。だって、今までどんなに不機嫌でも私には笑ってみせてくれてたから。


「え……と、思ってました。兄様といるみたいって……」

「兄様……ねぇ」

 サイラスがあたまを掻きながら言ってくる。

「まぁいいや。謝罪は受けとっておく。気にするな、アレはセドリックが悪い。リナ嬢は何も知らずに俺に話を振ってきたんだ。この話は、もうここでお終い」

 これ以上、蒸し返すなってことですね。

 表面だけは、普通に戻った。機嫌は悪そうだけど、隠しきれてない。

 何かあったのな?


「それで? 他には?」

「あっと、昨日教えて頂くはずだった指揮官の仕事を訊きに来たのですが……忙しそうですよね」

「ああ。なんか、書類たまっちまって……ほれ」

 書類の束渡される。見ていいの?

「あの、これ?」

「どうせ明日には、リナ嬢のところに上がってくる書類だ。ここで処理したら分からない所も教えてやれる」

「うわ~。イヤだなぁ」

「イヤじゃ無い。上官の仕事なんて普段は書類にまみれてるもんだ」

 なるほど、平和だ。デスクワーク嫌いだけど……。




 ご婦人方のお茶会。

 いつになったらこの茶番も終わるのかと思ったら。

 エイリーンとフイリッシアのところで終わるらしい。

 フイリッシアはデビュタント前なので、お茶会と言っても身内ばかりらしいけど。


 ーと言うわけで、エイリーンのお膝にいます。あれ?

「本当に可愛らしいわ。やっと、抱っこすることが出来た」

 なんか……危ないんですけど。

 誰といる時より、貞操の危機感じてるんですけど……。

 キスするのかって思うほど、顔近いし。なんか、身体触られてるし……。

 無抵抗な私も私だけど……。他のご令嬢達、スルーしてる。

 ストレスか? ストレスがたまってるのか? エイリーン様。

 結婚の準備も大変そうだけど、その後も大変だもんね。


「エイリーン様。大丈夫ですか?」

「なぁに? 大丈夫よ、リナ様」

 そうは見えないから無抵抗でいるんだけど。私で癒やしになるんだったらそれでいいやって。

 私が男だったら大問題だけど、女だからね。傍目にどう見えようと。



 お茶会の帰り、近衛が来てジークフリートの私室に誘導された。

「エイリーンがすまなかったね」

「エイリーン様もお疲れなんでしょう。気になさらないで下さい」

 王太子妃になったら、簡単には会えなくなるし。


 椅子を勧められることも無かったので、突っ立って騎士としていたんだけど。

 どういう立ち位置で、呼ばれたのか分からないなら、騎士か指令官としているのが一番無難だからね。

「リナ嬢。少し目を閉じててもらえるかい?」

 なんだろう?

 素直に目を閉じた。逆らっても、意味ないし。

 でも、立ってるから大丈夫だけど、最近書類と格闘することが多くなったので、座ってたら絶対寝てる。

 近くで気配してるけど、ジークフリートだし。


「リナ嬢……もしかしたら、眠くなってない?」

「すみません」

 あくびでそうです。

「もう、目開けていいよ」

 溜息を吐かれてしまった、でもジークフリートの顔は笑ってる。


「これ、預かってて欲しいんだけど」

「手紙……ですか?」

「落ちてた手紙……なんだけどね。もし、何かあったら国王に届くようにして欲しいんだ」

 なにかあったら。


「分かりました。責任を持ってお預かりします」

「リナ嬢は、本当に私を信じてくれているんだね」

「なんですか? いきなり」

「いや。私もリナ嬢を信じてるからね」

 ジークフリート?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る