第62話 クランベリー公爵邸 リナの交渉

 準備不足なのは、いなめないからなぁ。仕方ない本人に訊いてみるか。


「最近貴族の方々が、私を取り込もうとなさっているみたいで。クランベリー公爵様もでしょう? どうしてなのか、ご存じでしたら教えて頂こうと思いまして」

「貴女は、自分の立場が理解出来てないのですかな?」

 うわ~、威圧に殺気が混じってるよ。怒鳴ったりしない分余計怖い。

 まぁ、こんな『そもそも論』言ったら怒るわな。目を背けず対峙する。

 私の方は、柔和な態度を崩さない。

 子どもらしく、笑顔でね。


「出来ておりますわ。ですからこちらに伺っておりますのよ。ただ、わたくしの立場では、そういう情報が入ってこなくて。ご存じなら教えて頂けたらと思いましたの」

「この間の、私を信じてるというのは嘘ですな」

「あら、信じてなかったら質問なんてしてませんわ」

 女性特有の柔和さは、時に男性を馬鹿にしてるように取られて怒らせるものだけど……冷静だな。

 さっきから、煽ってるのに。

 さすがと言うべき? 威圧に混ざった殺気すごいけど、計算っぽいものね。


「剣が無くとも。私が直接手を下さなくとも、貴女をどうにかするのは簡単ですよ。それでも?」

「あら、こわい」

 くすくす笑って見せる。このアバターで大人の雰囲気出せるかな?

「でも……そうですわね。そうなったら、わたくしに見る目が無かった、と思うだけですわ」

 にっこり笑って言った。殺気で肌ピリピリしてるけど。


 ごめん、私に威圧も殺気も効かないんですよ。前世でも小娘は威圧すれば怯えるって思ってる男多かったもんでね。


 ふぅ~、クランベリー公が一息着いた。

「本当にセドリックが口を出す必要も無いんですな、貴女は」

 セドリックは、警戒するでも無くボーッと突っ立てる。置物の方がまだマシレベルだ。

 まさか、クランベリー公の殺気の原因。半分はこいつの所為じゃ、ないだろうな。


「むしろ邪魔ですわね」

 クランベリー公が笑い出した。

「いや……失礼。貴女の価値の話ですな。まぁ、元々は溺愛されてる貴女を取り込んでポートフェン子爵家当主を動かしたいって言うのが、共通認識だったって言うのは知ってましたかな」

「それは……まぁ、隠されてなかったようですし」

もう、煽る必要もなくなったので口調を元に戻す。疲れるしね。


「最近、新たな噂がありましてな。この間のリネハン伯爵家の処刑で、国王のめいくつがえした人間がいると。それが貴女の今の価値です」

 なるほど。それでか。


「ところで、私も一つ訊いて良いですかな」

「私が答えれることでしたら」

「なぜ、私に命令しなかったのですかな。国王の命令書があれば、私とて動かざるを得ないと言うことは、ご存じでしょうに」

 つい、くすっと笑ってしまった。


「貴方にクーデター起こす切っ掛けを与えろと? 嫌ですよ。内戦にでもなったら収拾がつかなくなるじゃないですか」

 そう、私がクランベリー公を真っ先に抑えようと思った理由がこれ。

 私の行動に乗じて、軍部に動かれては困るのだ。

 セドリックと約束するまでも無く。

 どれだけ無謀だろうと、こことの交渉が成立しなかったら私は次の行動を起こせない。


「正直、私は貴方を信じるしか無いんです。私が一番怖いのは、貴方にどうにかされることじゃなく、途中で裏切られる事ですから」

 私の言葉に、クランベリー公が驚いてる。

「私には、本当に何も無いんですよ。人脈と言っても誰かを通じてのものですし。貴方を含めて、これから相手にする方々には、私の権力なんて通用しないでしょう? せいぜい、取り込まれて利用されるのがオチです」


「なるほど……確かに貴方は、正しく自分の立場を理解してるようですな。分かりました、交渉に応じましょう。セドリックとの縁談が成されれば、貴女は私の身内になる。身内を裏切ったりはしません。同じ派閥に来るのならホールデン侯爵家も動きますまい。ただし、全てが終わっても婚約破棄は出来ませんがよろしいのですかな?」

「かまいませんけど、いいのですか? ほとんどメリット無いのに」

「貴女が、よそに取り込まれない。最大のメリットじゃ無いですかな? 将来の参謀殿を手放すほど、私はお人好しでも愚かでも無いつもりですが」

 それは……買いかぶりすぎです。


「それで? 私は何をすればよろしいのですかな」

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