第57話 王太子殿下の執務室 クランベリー公爵
さすがに王太子殿下を宰相の執務室に呼びつける訳にはいかないので、連れだってジークフリートの執務室に向かった。
執務室に入ると、ジークフリート、クランベリー公とセドリック、先ほど宰相の執務室から向かった王太子派の近衛騎士たちがいた。
私たちが入るのと同時に近衛騎士たちは礼を執り退出したけど。
セドリックは私を見るなりうつむいた。
何かやましいことあるの? それとも、わざと?
ジークフリートが、クランベリー公に
「こちらが今回の被害者のリナ・ポートフェン嬢です」
と紹介した。こっちは絶対わざとだ。
続いて、宰相が言う。
「セドリックの謹慎処分を今日この時までとします。明日から、任務に復帰するように。彼女の寛大さに感謝して下さいね。ご令嬢に不埒なマネをするなどとは、騎士としては風上にも置けませんから。二度とこのようなことが無いように」
「寛大な処置、ありがとうございます。今後、二度とこのようなことが無いよう、肝に銘じ精進致します」
セドリックが礼を執り、宰相に礼を言った。
クランベリー公は、私の方にやってきて礼を執る。
「この度は、不肖の息子がとんだことをしでかして申し訳ない」
「あ……いえ。もう済んだことです。それに、セドリック様には甘えてばかりで、きっと、子どもにするようにしてしまったんだと思います」
「そうですか。お嬢さんは不快に思ってないっと」
「ええ、まぁ」
ここで否定してしまっては、元も子もない……が、不味い方向にいってる気が。
「でも、社交界的には問題でしょうな。噂にでもなったら、縁談話も難しくなる」
うっわ~。噂流す気満々でしょう~って言うか、これが狙いかぁ~。
「そこで、うちのセドリックもまだ婚約者が決まって無くてね」
「クランベリー公。リナ嬢は私の側室候補ですよ」
ジークフリートが遮ってくれた。助かった気がしないけど。
「まだ、正式では無いですが、エイリーンとも仲が良いし。選択肢の一つとして、考えてもらっているところです」
ジークフリートは私の手を取り、手の甲にキスをする。
何だかなぁ~。何か引っかかる。
この前のホールデン候といい、今回のクランベリー公といい。
この間のセドリックも、途中までは計算尽くだったんだよね。
「あ~、アレですか。私もしかしたらホールデン侯爵家に取り込まれようとしてます?」
思いつきのままうっかり口に出したら、周りが固まった。
すまぬ、縁談の話だったよね。
セドリックが吹き出して笑い出した。
「なっ、親父。リナちゃんってこんな子だから……」
すごいだろ? って言ってる。
笑いながら言われても、褒められてる気がしないよ。褒めてないのか。
「そう思った根拠を訊かせて頂けますかな?」
一瞬、言って良いものだかって思ったけど。
私はクランベリー公に、夜会であったことの、事実だけ話す。
自陣の派閥にいるのに素っ気ないアランの態度。
クレイグ・ホールデンの不自然なまでのフレンドリーさ。
そうして、謹慎のきっかけになったセドリックのらしからぬ行動。
そして、今の縁談話。
「デビュタントの時の印象は間違っていませんでしたな。
ところで、本当に息子のところにきませんかな?」
「今は、第二王子派は無理ですね」
「今は…かね」
「今は、です。先は分かりませんが。ですから、噂を流すのはやめていてただけますか?」
「そうですなぁ。ただ、流さないと言ったとて貴女は信じますかな」
なるほど、そうだね。でも……。
「セドリック様のお父様でしょう? それだけで信用できますわ」
迷うこと無く、きっぱり言った。
クランベリー公は、少し驚いた顔をしたがすぐに笑って。
「これは、裏切れませんな」
と言ってくれた。まぁ、お互いにとって些細なことだしね。
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