第56話 宰相様とクリフォード様

 ライラの案内で宰相の執務室に訪ねていくと、ちょうど書類の処理をしているところだった。


「お忙しいところ済みません」

 宰相の机の前まで行って私は、ちょっと恐縮していう。

 宰相は手早く書類を片付けて私の方に来てくれた。

 ライラは入り口付近で待機していて、クリフォードは私のすぐ後ろに立っている。


「どうしました?」

 宰相は、穏やかな声で私に訊いてくる。

「今、王太子殿下のところにクランベリー公爵が訪ねてきているようなのですが、宰相様の方で話が着かなかったのでしょうか?」

 宰相は、私の後ろにいるクリフォードを睨み付ける。珍しいものを見た。

 いつも無表情に近いか、少し笑ってる顔しか見てなかったから。


「リナ様。教えて下さってありがとうございます。今の発言で、王太子殿下の元に何名か向かいました」

 私には穏やかな顔を見せるのに、視線を後ろに向けると厳しい顔になる。

「クリフォード、どういう事ですか。クランベリー公は穏健派とはいえ第二王子派なのですよ、それを」

「いずれ向き合わねばなりません。いつまでも、このままではいられないでしょう」

 クリフォード?


「ああ、すみません。リナ様、ご用件はそれだけでしょうか?」

 宰相は私に聞かせたくないのか、話題を変える。

「まだ、本題があります。セドリック様の謹慎期間が長いように感じますが」

 今度は、宰相が怪訝そうな顔をする。


「リナ様に不埒な行為を働いたと伺っておりますが」

「不埒?」

 ライラの方を見た。

 いや、この世界の基準がわからない。何を持って不埒とするのか。

 ダンスとか、結構密着するよね。

「見たままを報告致しました。男子寮の廊下で、リナ様を後ろから抱きしめて肩口に顔をうずめてた、と。あげくに任務放棄して逃げました」

 い……や、言葉にすると、確かに不味いかも……。兄様たちがよくハグしてくるから、慣れちゃったけど。

 セドリックから、拘束されたこともあるけど……。


 この前のセドリックおかしかったし、単に甘えてきたんだと思ってたけど……よく考えたら年下の女の子に甘えたりしないよね。

 これ、否定したら私の貞操観念疑われる?

 いやいやいや、セドリックには復帰してもらわないと困る。

 アランとの大事な橋渡し役だ。

 後ろで、クリフォードがこめかみを押さえてる。

「もう、降格処分で良いのでは?」

 容赦ないなぁ。派閥違うからって。


 私は子ども私は子ども私は子ども……よし。

「あの……兄様たちにも、よく抱っこしてもらってるのですが、なにか問題でも?」

「では、私ともその抱っことやらは出来ますか?」

 クリフォードが言う。

 ライラが警戒態勢に入ってるけど。宰相の方は怖くて見れません。

 って言うか、あんた今更でしょう。この前私に何してくれた。


「抱っこも何も、クリフォード様からは公衆の面前で、何度も抱き上げられましたが」

 そう言って私はにっこり笑った。

「あれはダンスの振り付けでしょう?」

 クリフォードが呆れたように言う。

「でも、そこだけとったら、なんてことしてるんだって事になりますよね」

「同じだと、言いたいのですか?」

「セドリックは、ライラの存在を知ってましたし。その上で、不埒なことはしないでしょう?」

「それは……まぁ。そうでしょうね。彼の前で、ライラの任務も言い渡してますから……。分かりました、リナ様がいいのであれば、彼の謹慎を解きましょう」

 宰相が納得してくれた。

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