第8話
「寺崎由起夫さん……ですね。先程のメッセージについてお聞きしたいことが」
「そそそそそうですけど、いや、なんで住所知ってんですか。ってかそれにしても早すぎでしょ」
「ああ、近かったのはたまたまっすね。住所はウチ、プロバイダなんで」
背中を向け示されたジャンパーを確認すると、確かにおれの契約しているネットワークプロバイダだった。
「……今月の通信料金ってどうなります?」
「……これからの返答次第っすね」
なんか軽い感じのおねえさんだった。多分年下だけど。
……そして、なんか見覚えがある。
◇
「じゃあつなぐっすよー」
「はーい」
必要かこのやり取り。いや、勝手に繋いだと文句を言われないためにか。協力してんじゃねえよおれ。
一瞬で住所を割られたことで観念したおれは、言われるまま彼女を家に上げていた。
「ビンゴ……いや、あたしも初見ですけど。sddbdfsファイルってほんとに存在したんすねえ」
「……もう一回言ってもらえます?」えすで……で……?
「自己深化型ファイルシステムっすよ。閲覧者の理解不能なところを、自動で掘り下げて教えてくれるファイルというかドキュメントというか……」
「へぇ……?」
うん?
「人間では作ることもできないファイル形式すけどね」
はあ?
「あたしは清水秋水。シュウで結構。ハウリング・インフラテックのエンジニア兼研究者」
言いつつ、彼女は社員証を掲げてみせる。
「この<ギフト>は、当社で買い取らせていただくっす」
まずは手付で1億。
買い取りという言葉に疑問を差し挟む間もなく、次に飛び出したその金額に耳を疑い思考が凍結する。
「あ、もちろん円っすよ。あとは、マネタイズした際に権利料として割合で……」
「いや、そもそもギフトってなんです。なんでそんな大金をぽんと」
「そうっすね……簡単に言えば、BGからの贈り物。未解の技術情報の塊っす。ウチの高速回線も、このギフト技術の一部を使ってるっすよ?」
その後のシュウさんの話を総合すると、BGの真の恩恵が、この<ギフト>発見だということだった。今や、世界各国、そしてBG関係メガコーポ各社が、血眼でこのドロップを探しているのだという。
「いやあ、うちのフォーラムでよかったっすよ。外部SNSだったら今頃人さらいの一人や二人が」
「えっ」
「その対策も含めて、当社に売ることをおすすめするっすよ。今回の見込みは大脳生理学、素材工学、システム工学……なんでこんな大物が突然ドロップしたのかはわからないっすが、人一人消すには十分な価値がある」
「ヒええっ」
「ウェルカム。冒険者<エクスプローラ>――」
脅しに怖がるおれが余程面白いのか、ニヤリと笑って言ったそのシュウさんの言葉に、突如「あっ」とおれは気づき……
「――真のブラックゲートへ」
……BGの受付カウンター嬢のモデルであろう女性の顔を凝視した。
新しい世界への扉が、そこにはあった。
.../end
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