警察が怪人と戦うパターンで勝てた試しはあんまり知らない。
■
どうも、菊池斗真です。
現在僕は、戦意をなんやかんやで復活させた魔法少女二人の姿を確認している。
「――茜のところにいく。
もう一方はそっちに任せる」
「奈月ちゃん、ちょっと待って!」
日向萌香が呼び止めるが、柴野奈月はそのまま一人でその場から地上へと跳躍して去ってしまう。
出ていくならこのタイミングかな?
「――日向さーん!」
「え、あ、せ、せせ先輩!?」
先ほどの柴野奈月とのやり取りで僕がこちらに来るということを忘れていたのか物凄く慌てている。
パロンはすでにその場にぬいぐるみの振りをして地面に転がっている。
知らぬふりして踏んづけてやろうかと思ったが、ここは我慢。
「あれ、もう一人いた子は?」
「え、あ、えーっと、急用があるって、先輩とは別の方に向かって帰っちゃいました!」
「そうなんだ…………日向さんも特に怪我とかしてないみたいだね。よかった」
「はい、元気です、凄く元気ですよ私は!」
焦っているのはわかるが、挙動不審すぎるよこの子。
「とりあえず外に行こう。
なんか大騒ぎになってるし」
「は、はい、わかりました」
ひとまずはこのまま外に出て、そして日向萌香が去るのを確認してからネビュラシオンに合流と行こうか。
……さて、細かい所は任せてはいるけど、ちゃんとこっちの指示したことはやってくれているのかな、あいつらは?
■
二人の魔法少女はネビュラシオンの幹部であるライオットは現在、TV局の正面エントランではなく、屋上にて戦闘を行っていた。
ライオットが壁を登って移動したので、二人もそれを追ってきたのだ。
「はぁ!」
緑色の魔法少女・小緑風花が手に持った槍で一気に間合いを詰めて、青い魔法少女・皆瀬蒼が弓で援護してくるという状態であるのだが……
「どうした、その程度か?」
ネビュラシオン幹部であるライオットにとっては、どれも攻撃としては稚拙としか言いようがなかった。
槍は穂先を弾いて軌道を逸らし、弓も小緑風花を盾にするように動けば目で見て避けられるほど単調な射撃しかしてこない。
威力自体は直撃を受ければ間違いなく傷を負うほどのものであるのだが、それを無駄なくさばいて体勢を崩すほどにも至らない。
もっと強力で、もっと速い理不尽な拳を前にした経験から、必要以上にそれらの攻撃に身構えることがないと理性ではなく肉体が悟っていたのだ。
「はっ! は、はぁ……!」
「グリーン、落ち着いて。今は大振りじゃなくて小さく、確実に当てることを意識して」
敵の前ということで名前を呼ぶことはしない皆瀬蒼
その一方で、相手が完全にこちらを手玉に取っているという状況に顔をしかめていた。
「……どうして、攻撃をしてこない」
「あぁ? テメェらが弱すぎてやる気が出ないだけだ」
何か裏があるのではないかと思って探りを入れる皆瀬蒼に、ライオットは心底呆れた様子で吐き捨てる。
その言葉に苛立ちを感じながらも、皆瀬蒼は冷静に状況を分析する。
(あの怪人が屋上に移動したから思わず追いかけた。
私たちにとっても、他に人がいるあの場所よりここの方が都合がよかったけど……向こうに場所を変えるメリットはないはず。
むしろ、人質とか使えば私たちはすぐに攻撃できなくなるのにどうして……?)
そんな疑問を抱き始めたその時、パンと何かが破裂したような音が聞こえてきた。
――それは下から、つい先ほど自分たちが居た正面エントランスからであった。
■
時間を少し前に戻し、TV局内部
「さて、撮影準備はできたか? 出来たな、じゃあはい、映せ」
フクロウの頭の怪人の言葉に従い、虚ろな目で指示通りに動く局員たち。
彼らは全員、今は催眠状態にかかっておりフクロウ怪人の言われるがままに動く。
フクロウ怪人が指示を出すと、それに従って周りの催眠状態の人間たちが動く。
『――皆さん、初めまして。
我々はネビュラシオン』
カマキリ頭の怪人が画面に映る。
つい先ほどまで、人気のお昼のドラマが放送されていたチャンネルが強制で切り替わる。
『繰り返します。
我々はネビュラシオン。
崇高なる総帥の命により、今回行動を起こしました』
フクロウ怪人が催眠に掛けた適当な局員から借りたスマホをチェックすると、SNSで早速反応があった。
何かのドラマか、はたまたいたずらかと思われているようだが……
『これはドラマやいたずらなどではありません。
我らが総帥の命による、聖戦です。
――まず、これからとある学校を爆破します。
では、どうぞ』
映像が切り替わると、そこにはとある学校が映った。
「おい、やれ」
『あいよ』
現場にいる、蟻頭の怪人に指示を出すと、その映像の学校が数秒後、音を立てて崩れていくのが見えた。
蟻怪人の強力な顎と魔法を駆使し、爆発物を使うこと無く学校の柱を破壊して崩したのだ。
映像の中は砂煙により何も見えなくなり、カメラがスタジオにいるカマキリ怪人に戻った。
『今の倒壊したのは―――――――――にある、○○〇〇高等学校です』
淡々とそう告げるカマキリ怪人
『校庭に生徒が部活動をしていたようですが、ご安心を。
壊れたのは教室棟のみで、部活等や体育館などは無事なので人的被害は出ておりません。
では続いて……』
そこからは同じようなことが三回続く。
学校、オフィスビル、有名な宅配業者支店
どれも関東圏内にある建物で、人的被害は出していないという。
『この映像を見ている日本の治安維持組織のみなさん。
我々ネビュラシオンは現在、〇〇TV局を占拠し、立てこもっております。
今この映像も、彼らを人質で脅迫して放映させています。
今すぐ、こちらまでやってきなさい。
でなければ、今度は先ほどの映像のようにこの局を破壊します。その際の人的被害は考慮はしません。では、お待ちしております』
そこまで伝えて、放送は終了した。
■
そして現在に戻り――皆瀬蒼はライオットを警戒しながら正面エントランスの見える位置に移動すると、そこには赤色灯を回すパトカーや、正面エントランス前に展開された多くの警察と思われる盾を持った集団を目にした。
そしてそれらに対峙するのは犬、猿、蜘蛛、カマキリ、イルカ、ワニの六人の怪人。
TV局を占拠したのはライオットを含めて十人の怪人がいたので、まだ局内に三人が潜んでいるはずだ。
それを理解しているからか、警察側は動かない。いや、動けない。
「はっはぁ!!」
「おらどうしたよ!!」
犬と猿の怪人がその手から強力な衝撃波を発生させ続けていて、前に進めないのだ。
すでにひっくり返っているパトカーも見えており、それがいかに強力なのかがわかる。
警察も、盾を低く構えて衝撃をやり過ごすのに精いっぱいでその場から動けなくなっているのだ。
まるで強力な台風の中にいるような状態だろう。
「しまった、おびき寄せられた!」
「え……?」
皆瀬蒼の言葉にどういうことかと間の抜けた声を上げた小緑風花。
「今更遅いんだよ」
しかし、そんな隙はこの場では一番見せてはいけなかった。
小緑風花はその横を素通りされ、皆瀬蒼の首をライオットが掴む。
「あ――ぐっ!?」
そのまま投げ飛ばされて、小緑風花を挟んで立ち位置が交換された皆瀬蒼とライオット。
正面エントランへ向かうための方向にライオットが立ちふさがる。
「もう少しこの場で大人しくしてもらうぞ」
ライオットはつまらなそうな表情のまま構えを取る。
「どいてもらう!」
「邪魔しないで!」
このままでは一般人に被害が出ると、焦燥感に駆られる二人。
しかし、その逸る気持ちで繰り出される攻撃は、先ほど以上に精細さを欠き、ライオットはさらに容易に対処できる。
「どうした、折角手加減してるんだぞ、もう少しまともな攻撃はできないのか?」
ライオットが本気になれば、肉体をさらに強化させている。
イフリートは圧倒的な熱で周囲を圧倒するのならば、ライオットは純粋な暴力で相手を制圧するのだ。
ゲイザーがトップに立つ前までは、ライオットこそが体術のトップだった。
そんなライオットにとっては、目の前の小娘二人の攻撃など大した脅威には映らない。
そんな膠着状態となったとき、エントランスの方向から再び発砲音が聞こえてきた。
警官たちが怪人たちに向かって発砲をしているのだろう。
「無駄なことを……奴以外で単純な運動エネルギーのみで、障壁を突破できるものか」
少しだけ背後を流し目で確認するライオット。
現在進行形で発砲が続けられているが、そのどれも怪人たちに届く前に見えない壁に阻まれる。
『フクロウ、カメラは?』
『問題なく映していますし、ネット配信もしています。
催眠に掛けた局員にも、スマホでこの映像を流させています』
『カメラが回っている間は迂闊に殺すな。しかし圧倒しろ。やれ』
『『『『了解』』』』
通信の魔法によって指示を出すライオット。
それを合図に、怪人たちはそれぞれ動き出す。
その圧倒的な力の差を、日本に、世界に示すために。
■
一方、某自衛隊基地にて、高坂茜はイフリートと一対一での戦闘を繰り広げていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
「どうした、早く掛かってこい」
「こ、の……!」
炎を纏う剣を振るう高坂茜の件を、イフリートは真正面から掴んで受け止めた。
「うぅむ……」
彼女の出現した当初はまともな相手と戦えると張り切っていたイフリートであったが、その時の昂りはすでにない。
――高坂茜の放出するエナジーの質と量に対して、その実力があまりにもお粗末だったのだ。
無論、一般人だったという経歴を考えれば十二分に強い。
しかし、ネビュラシオンの怪人として長く生きて修練を積んできたイフリートには、その程度の差などほとんどないも同然なのだ。
「……引け、魔法少女。
元より総帥からそちらと戦うことは命令に無い。
わざわざこの場で戦う必要もないだろう」
「勝手なこと、言ってんじゃないわよ!」
「わからないか、そうか、それほどまでに未熟であったか。
これも一人稽古が長かったが故の弊害か……相手の実力の見極めが疎かになっていたのは自分であったか」
「なにを――」
イフリートの物言いに激昂した高坂茜であったが、次の瞬間、手のひらに熱を感じた。
「あっつ!?」
思わず剣から手を放す。
同時にありえないという疑問で混乱した。
炎を発するその剣は当然ながら高温であるのだが、高坂茜自身の力でそれらの熱はきかない。
1500℃を超える炎を常に放出するその剣を握っても平気な自分が熱いと感じた。
その事実が信じられなかった。
さらに――手を離したその剣が、彼女の目の間で原型も無くなるほどドロドロに溶けて地面に落ちたのが見えた。
「失礼した。まさかここまで弱かったとは想定していなかった。
こちらは少し本気になれば、いつでもそちらを殺すことが出来たのだ」
本当に申し訳なさそうに語るイフリートのその言葉は、高坂茜の耳には届かない。
自分にとって自身のあった炎の魔法が、相手には一切効かないどころか、同じ炎で圧倒されているという事実が重く彼女の心にのしかかる。
「ああ、これは失敗だ。
ゲイザーになんと報告するか……魔法少女を圧倒するには早すぎた。
大人しく引けばよかったか……」
もはや眼中にないように一人で困ったように額に手を当てるイフリート
高坂茜の横を素通りしてその場から去ろうとし、高坂茜もまた、自分だけでは絶対に勝てないと悟り何もできないまま立ち尽くし……
「――何、勝手なこと言ってんのよ」
灼熱の戦場に、紫電が迸った。
「むっ!」
イフリートは咄嗟に迫り来る紫電を弾くが、その手に微かな痺れを覚えた。
そして高坂茜も、聞き覚えのある声に顔を上げる。
「奈月……?」
そこにいたのは、先ほどまで沈痛な面持ちで座り込んでいたはずの柴野奈月が、その顔に一切隠すこと無い怒りの感情を滲ませて立っていた。
「……ほぉ、ネビュラシオンを裏切ってほどされたかと思えば、以前の鋭さが戻っているな」
「黙れ」
短い言葉と共に、鞭が蛇の様に蠢き、剣の如く振るわれる。
その一撃は、イフリートが受け止めようと手を伸ばし……
「――っ!」
その直後に手を引いた。
しかしその行動も遅く、鞭を交わし切れずにイフリートの指先が接触し、雷光が瞬く。
咄嗟の光に茜が眩むが、視界が戻ったときには先ほどまですぐ傍にいたイフリートが、離れた位置にいた。
そしてイフリートのその指は真っ黒に焦げていた。
「訂正しよう。
随分と研ぎ澄まされている……魔法少女とやらの性質か?」
そう言っている間に、彼の指は元の色に戻る。
奈月の与えたダメージはもう回復してしまったようだ。
「意味の分からないことを……魔法少女なんて名乗った覚えはない。
そして……もう二度と、私の大事なものを奪わせもしない……!」
強い戦意を感じ、再び拳を握るイフリート
そしてそのイフリートを睨みつつ、茜の隣に立つ奈月。
「……奈月?」
「ふんっ!」
「いったぁ!?」
奈月は何を思ったのか、茜の尻を思い切り引っ叩く。
あまりの痛みに奈月は素っ頓狂な声を上げてその場で飛跳ねた。
「今ね、私ね……凄く気分が悪いのよ。
ネビュラシオンを一匹残らず駆除しなきゃいけないの。
でもね、これを相手にするのは大変なの。わかる?
これは、れっきとしたネビュラシオンの幹部なの。凄く強いの。
それなのにそんな顔されてこの場にいられると凄い迷惑」
「これ……?」
「は、はぁ!?
何よそれ! もとはと言えばあんたたちが落ち込んでたから私一人でこんな奴の相手しなきゃいけなくなったのに、後からきておいて何よその態度!」
「こんな……?」
敵であるとはいえ、少女からあんまりな呼び方をされて地味に傷つくイフリートであった。
「そんだけ元気ならさっさともう一方の方に行きなさいよ。
こいつは私が倒すから」
「冗談じゃないわよ、さっきまで死にそうな顔してた仲間を置いていけるはずないでしょ。
一人で戦えるなんて言うなら今度は私が引っ叩くわよ!」
そう声を荒げる茜の手に、再び剣が出現する。
イフリートの手によって溶かされたモノと、まったく同じ形をしている。
「……む」
しかし、その剣には先ほどよりも芯があるとイフリートは感じて警戒を強めた。
先ほどの様に容易くはないと。
「仲間の到着で急に強くなる…………ではないか。
気丈にふるまって見せて、その実、不安と恐れで実力を発揮できなかったか。
中々可愛げのある」
「言われてるわよ」
「な、べ、別にそんなんじゃないし!」
「あっそう」
奈月は茜に呆れを隠さずに嘆息しつつ、強い敵意をイフリートへと向ける。
同様に、茜もその剣を構えて再びイフリートへと戦意を高めた。
「なら……足引っ張るんじゃないわよ」
「調子乗り過ぎよ! お姉さんを舐めるんじゃないわよ!」
「ふっ……いいだろう、魔法少女よ、さぁ、来るがいい」
■
「……イフリートの奴、基地潰したらさっさと戻ってこいって伝えたよね」
「ああ、一度魔法少女たちを分散させ、そして再び合流したタイミングでTV局のライオットが負けたふりをする、という流れだったな」
僕、菊池斗真はショッピングモールの外に出て日向萌香と別れた後、人目の無い所からネビュラシオンの基地へと戻り、現在、フォラスやグラトニーと一緒にイフリートとライオットの作戦実行の様子をモニターで見ていた。
ちなみにイフリートの方はフォラスの魔法で、ライオットの方はネット中継と分担で確認している。
「奴の気質を考えれば、挑む者が現れれば応じるのが常だ。仕方がない」
「はぁ……しょうがない。頃合いを見て僕が行くよ。
ライオットの方もちょっと魔法少女たちを圧倒し過ぎかな。
フォラス、あと誰か一人でも人数が増えたら適当に押された振するように通信してもらえる?」
「了解した」
「ゲイザー、私は?」
スライム形態のままでも普通に喋れるようになったグラトニー
本当に成長が著しいな。
「グラトニーは今日の作戦の最後まで待機。これ以上動かれるとしっちゃかめっちゃかになり過ぎて大変だもん」
「わかった」
まぁ、全体を通して見ればそこまで悪い流れではない。
むしろ日向萌香と柴野奈月が一時でも戦意を喪失して復活するまでタイムロスしていたし、その分を取り返すと思えば悪くはないだろう。
「はぁ……まぁ僕も色々と失敗したのは悪かったけどさ……これ以上面倒ごとなく、作戦通りに進んでくれるといいなぁ……」
……なんか、自分でフラグを立ててしまった気がする。
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