いやー、本当によく躾られてますね。(白目)



とある平日のお昼。


僕、菊池斗真はクラスでそれなりに話しをする級友と席を囲んで昼食の総菜パンを食べていた。


両親は共働きしており、昼はお小遣いをもらって購買で済ませているのだ。



「そういや最近事故多いよなぁ」



クラスメイトの一人が思い出したようにそんなことを呟く。



「そうそう、少し前にもうちの前でトラックの事故があってさ、気付いた時にはもう大惨事でビックリしたぜ」


「こっちも、自動販売機にバイクが叩きつけられててさ」


「この間電線切断されてたな」



そう語るみんな、それぞれ事件の内容は異なるが、ある共通することがあった。



「「「でも死人が出なくてよかったよな」」」



そりゃ、気を付けて暴れてるからね。


あ、ちなみに今の被害についてはすべてネビュラシオン――というか僕が関わっている。


時期的に上司がネビュラシオン辞める直前だろうな。


電線切ったのは魔法少女たちだけど、他二つは滅茶苦茶心当たりがある。


それがこうして事故として処理されているのは、魔法少女たちの力だ。


認識をごかます力で、ネビュラシオンや魔法少女たちの存在は一般には知られていない。


この間総帥として勉強し始めて、これまでネビュラシオンは大々的にその存在を知られて世界全体と大戦争に発展して、最終的に核戦争で世界が滅びた……なんてことが起こっていたので、それを考慮して痕跡はあまり残さないようにしているのだとか。



デカい組織だとは思っていたが、そこまでのものだったのかと、感心した。



そしてそんな組織相手に単独で勝利した僕の転生特典どんだけ凄いんだよって我がことながらちょっと引いた。



「そういえば斗真はこの間のアニメ見たか?」


「え……あ、ごめん、今期はあんまり見てないかも」


「え、斗真がアニメ見ないって意外だな……アニメだけが生きがいとか言ってなかったか?」



言ってた。けどそれ、厳密にはアニメだ。


この世界の僕は、広く浅くのアニメ全般が好きなライトなオタクで、フィギュアとかは買ってないようだ。


まぁ、魔法少女関連以外は買うつもりも、前世でも買ってなかったけどさ。



「いやその、ちょっと今バイトみたいなことしててさ、それで疲れてて夜とか起きれないんだよね。


あ、でも一応撮り溜めはしてるから、休日に一気に見るつもり。だからネタバレはNGで」


「バイトか……なんか欲しいものでもあるのか?」


「色々物入りでさ。あ、でもバイクとかちょっと欲しいかも」



ぶっちゃけ走っても速度は大差ないけど、やっぱりああいうメカにはちょっと憧れる。


それに魔法少女と敵対するにあたって、様々な技術は身に着けておいた方が良いだろう。


出会って格闘するだけのラスボスとか地味だし、バイクに乗って銃を乱射するスタイリッシュアクションもこなせるラスボスになりたい。


使う場面とかは追々考えるけどね。いやでも……これはどちらかというとヴィランじゃなくてヒーローっぽいかな?



「なん、だと……!」

「斗真が、バイク……!」

「そんなリア充御用達アイテムを、お前が……?」



そんなことを考えていたら友人たちから信じられないようなものを見るようね目で見られた。失敬な。



「まぁ、強いて言うならくらいだよ。


夏休みとか長期休暇の時に欲しくなったものを買うために、忙しくない今のうちに貯金しようと思ってね」


「あー、なるほど、確かに今のうちにバイトしておくってのは手だよな。


大学受験するなら二年でもギリギリで、三年になったら絶対に遊ぶ暇とか無いだろうしな」


「そっか……あ、だったらいっそこの面子で夏になったら東京観光とか行くか?


旅費貯めて、こう、ぱぁっとね!」


「それいいな。折角高校生になったんだから遠出したいもんな」


「へぇ、ちなみにみんなはどこ行きたい?」


「「「秋葉原」」」



流石は根っからのオタク。


東京と言えば秋葉原、これ鉄則か。



「ちなみに他には?」


「東京ビックサイト」


「東京スカイツリー」


「東京ディ〇ニーランド」


「最後の東京って名前に付いてるけど千葉県だよ?」



そしてとりあえず東京観光に“東京”ってついてるところ回っていればいいだろうという感性の貧困さが見える。


そんな風に馬鹿な会話をしていた時だった。



――パシンッ!!


「っ!!」



耳に届くその音に僕は即座に椅子から転げ落ちてその場で跪こうとした。


いや、


咄嗟に全身の筋肉に力を入れて、どうにか反射的な自分の行動を抑え込む。



「お、おい斗真どうした急に?」



友人の一人が、急に椅子を蹴り飛ばして不自然な高さにかがんだポーズを取った僕にそう質問してくる。


それは僕自身が聞きたい。



「……あ、あれぇ、今消しゴムが落ちたようなぁ?」


「いや、消しゴム使ってないだろ」


「今ランチ真っただ中だろ」


「あ、あはははは、そ、そうだよね。あははははは、うん、ちょっと疲れてるのかなぁ?」



笑ってそう誤魔化しながら、倒れた椅子を戻しつつ席に座り直す。


その際、軽く周囲を確認したとき……一人の少女がこちらを見ていることに僕は気付いて、内心冷や汗ドッパドパになった。



魔法少女の一人、高坂茜



彼女が今、僕のことを大きく目を見開いてみていたのだ。





前日 放課後 天文部にて



「例の戦闘員、背格好や、奈月から聞いた普段の言動を考えると……奈月より年上だと思うのよね」



そう切り出したのは、この場に集まった魔法少女の最年長である高坂茜である。



「私も、年下はないかなって思うな」


「萌香に一票!」


「いや、私が最初に言ったんだけど……」



ひとまず自分の意見に賛成する日向萌香と皆瀬蒼の言葉を受けつつに、茜は続ける。



「出会った場所を考えると、やっぱり私たちの学校の生徒だと思うのよ。


だから一旦、高等部の男子に絞って調べるのが妥当だと思うの」


「でも……具体的にどうやって調べるんですか?」



小さく手を上げながら質問するのはこの場の最年少である小緑風花であった。



「それがネックなのよねぇ……魔法を使えるからって好き勝手できないし」


「――そうポム。


流石に広範囲で魔法を使うのは駄目ポム。


目撃者が増えるのは危険ポム


記憶を消すための魔力もみんなが負担するから、限界はあるポム。


物を壊すのもいけないポムよ。みんなならわかってると思うポムけど」



萌香の鞄の中から顔を出すみんなの指令兼マスコットのパロンがそう注意する。



「でも……あの戦闘員さんの特徴って身体能力と、あと魔法が利きにくいってところですよね?


身体能力の方はよっぽどの窮地にならないとわからないし、魔法の方はそれこそたくさん使わないといけないでしょうし……」



萌香の言葉に、その場にいる誰もが頭を悩ませる。



「…………あ」



そんなとき、件の戦闘員を探すきっかけとなった魔法少女である柴野奈月が口を開き、みんなの視線が集まった。



「奈月ちゃん、どうしたの?」


「え、あ……えっと……な、なんでもない」


「何でもないってことは無いでしょ。


何か戦闘員に関すること思いだしたんなら言ってみなさいよ」


「で、でも……」


「……良いから言う」


「うっ……」


「もしかして、何か凄く言い辛いことなんですか?」



萌香、茜、蒼、風花の順に尋ねられ、奈月の目は物凄く泳ぐ。


もうバタフライかってくらい泳ぐ。



「……茜、魔法をつかっても良いポム」


「それはいくらなんでも………………うーん……でも確かに、このままだと埒が明かないし」


「え、あ……うぅ……わかった、わかったわよ……話せばいいんでしょ」



パロンの指示に従って立ち上がった茜の姿を見て、観念したように奈月はため息をつく。


よっぽど話したくなかったようだが、その内容とは……



「実は、その…………私、あいつに躾と称して結構……その…………いじめてたというか」


「「「「う、うん」」」」



出会った当初はかなりやさぐれていた奈月を知る面々なので、それくらいやっていてもおかしくないなと思う。


思うが……今更ながら彼女をここまで懐柔させるきっかけとなった戦闘員にちょっと同情してしまう心優しい少女である。


でも大丈夫、奴は鍛えられた変態なのでむしろちょっと喜んでた。マゾの気質がある。絶対。



「それで…………その基本的に私の命令を破って貴方たちを攻撃しなかったから……いつも戻ってから鞭打ちしてて」


「「うわぁ……」」



ドン引きする茜と蒼


他の二人はぐっとこらえていたが、心なしか奈月との距離がちょっと開いたような気がした。



「うぅ……だから言いたくなかったのに……!」



友達に知られたくない黒歴史を話さなければならないこの状況はまさに拷問。


けどまぁ自業自得でもあるので仕方ないよね。



「ご、ごめんごめん! ほら、私たちのことは気にせず話して。


その…………躾の話がどうつながってくるの?」


「……鞭の音聞いたらすぐにその場で跪くように調教した」



半ば自棄になってそう言う奈月であったが……



「「「「…………」」」」



基本的にこの場にいる魔法少女は、パロンから見て、魔法の力を悪用しないという純真な少女たちだ。


故に、奈月の所業についてはちょっと……いや、かなり色々と刺激が強いものである。



「ぅ……うぅぅぅぅうう…………!」



そんな少女たちの視線を受けて机につっぷして足をバタバタと動かす奈月。可愛い。


今にも泣きそう、というかもう泣いている奈月。超可愛い。



「な、奈月ちゃん、ごめん、あの、えっと……その、嫌なこと話させてごめんねっ」


「……お茶、飲むといい」


「えっと……そうだ、この後みんなでケーキでも食べに行かない?」


「い、いいですねそれ!」



萌香が励まし、蒼が水分補給を進め、話題を逸らす茜とそれに乗っかる風花。


見事な連携である。流石は魔法少女。



「これは利用しない手はないポム」


「ケーキが?」


「違うポム。躾の方ポム」



萌香がわざわざ話題変えようとしてんのになんで蒸し返すんだよこのチクショウマスコットめ、と蒼が白い目でパロンを睨むが、スルーする。



「音域拡大の魔法を使って、奈月の鞭の音を聞こえるようにするポム。


体格が似ていると思われる男子生徒にそれぞれ監視を着けて、反応を示した生徒を重点的に調べるポム」





現在 天文部



「反応した人がいたんですか!?」



茜の報告を受けて、萌香が驚きに席を立つ。


他の面々も、まさか本当にこの学校に戦闘員がいたのかという反応だ。



「だ、誰なんですか!」



そして萌香に遅れたが、一番に食いついた奈月。



「ち、ちょっと落ち着いて、今写真出すから。


えっと……ほら、こいつよこいつ。


名前は菊池斗真」



スマホを操作してクラスの集合写真をデータ化したものを出す。


その集合写真の真ん中あたりで目立つ茜に対し、件の少年――菊池斗真は画面の真ん中と端の中間あたりとなんとも目立たないあたりにいた。



「……見覚えが、ある……ような……気が……?」



元々素顔を見た時が暗い所だし、あってすぐに頭を下げてきたので、戦闘員と菊池斗真が同一人物であるのか奈月は判断に迷っていた。



「まぁ、目立つような奴じゃないのよね。


いつもクラスでオタっぽい話はしてたし、一応クラスメイトで挨拶とかしたことはあるけどあんまり話したことが無いのよね」



茜も、一応知ってはいたが殆ど交流がないので斗真に関しては殆ど情報を知らなかった。


一方で……



「……あれ?」

「ん?」

「あっ……」



斗真の顔を見て、三人の魔法少女が首を傾げる。



「三人ともどうしたポム?」


「うーん……なんか、見覚えが…………あ、ランニングの時によくすれ違う人だ」


「……私も多分見たことある。自販機のところでよくストレッチしながらドリンク飲んでる人」


「私は……通学で、いつも同じバスに乗ってます」



三人の意見はとても些細なものだった。



「え、そうなの? 凄い偶然ね」



茜は特に深く考えずにそう言った。


世間は案外狭いともいうし、そういうこともあるのだろうと。だが……



「妙ポム……この場の全員がわずかとはいえ同じ人物に接点があるというのはおかしいポム」



パロンは写真に写る菊池斗真をその瞑らな瞳を細めて見る。



「……ひとまず、この菊池斗真の調査をするポム」


「それはいいと思うけど……具体的にどう調べるの?


あなたは戦闘員さんですかって聞く?」


「萌香に賛成」


「いや、それ絶対に頷かないでしょ……」



萌香は平常運転としても、萌香全肯定の蒼に呆れる茜。



「……やっぱり魔法ですか?」



風花の意見に、パロンは頷く。



「それが手っ取り早いポム。


もし彼が例の戦闘員なら、魔法に対して耐性があるはずポム


忘却の魔法をかけてそのリアクションを見るとか……とにかく二人っきりの状況で魔法を使って相手の反応を見るのが一番ポム」


「――だったら、ここは私の出番ね」



自信満々に席を立つ茜。



「……大丈夫なの? その……この菊池斗真が本当にあいつだったら、なんか……危ないとか」


「いや、それは無いでしょ。


戦闘員が私たちに危害を加えたことは無いし……何か事情があるならちゃんと聞くから」


「でも……やっぱりそれは私が」


「いきなりクラスメイトでもなんでもない女子生徒が声をかけるのは不審すぎるわよ」



不安そうな奈月の肩に手を置いて、自信満々に胸を張る茜。



「私ならクラスメイトで都合も良いし……まぁ、とにかくここはお姉さんに任せなさいっ」





次回! オタクな陰キャ少年がクラスのリア充ギャルに話しかけられた件!


頭のネジぶっ飛んでる童貞・菊池斗真の運命やいかに!?

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