イフリム事件 決戦 黒いGを殲滅せよ!
多くの兵士達が夜の闇を走る。みな一様に緊張した面持ちだ。
今日イフリムの街で緊急異常事態が発生した。それは『コードブラック』
このコードブラックを街の人々に聞くと。
「あれはヤバい」
「とにかくヤバい」
「音がヤバい」
「視覚ダメージがヤバい」
「黒くてテカってヤバい」
みな一様にヤバいを繰り返す。今宵、イフリムの街は阿鼻叫喚の渦えと飲み込まれる。漆黒の軍勢が街を飲み込まんとしていたのだ。
とある指令室にて
「司令六年振りだね」
「あぁ、間違いない。やつらだ」
「司令!! G出現!!」
「きたか……」
~~二時間前~~
俺達は、イフリムの地下水路に来ていた。とても暗く、明かりがなければ歩くことすらままならない地下。
暗闇を照らすため俺達全員は腰にランタンのような物を付けている。このランタン、魔石を消費して十メートルほどを照らす魔道具で、このような暗闇には必需品だ。
ここは暗く肌寒い。まるで俺達冒険者が常に背中に感じている明日への不安を形にしたかのようだ。
走り続けなければ闇が追い付き、飲まれ、そこで終わる。俺達冒険者はそんな生き物なのだ。
そう、闇は常に後ろから迫って来るのだ。今の俺たちのように。
俺達バッシュ組は全力で走っていた。生きるということは走るということ。時にはゆっくりと。時には駆け足で。
そして、今は全力を要求される事態だ。
「全力で逃げろー!!!」
バッシュが必死に叫びながら走る。その顔には止まったら死ぬ! と書いてある。
「うぉぉぉぉぉ!!!」
俺はとにかく雄叫びをあげるしか出来ない。ここでも無力なのだ。自分に戦う力がないのはどこまでも口惜しい。
「うわぁぁぁ!!!」
マルサスはもはや叫ぶしか出来ていない。いつものイケメンフェイスは消え、青ざめながらただ前を見続ける。走るフォームが崩れつつあるので転ぶ恐れがある。
「…………………………………」
リズは無言で無表情だ。そして目が死んでいる。瞳に光がないのだ。見事なフオームでシュタタタタと走っている。なにげに一番早い。
「いやーーー!!! もうおうち帰る~!! おうち帰る~!」
ヴェラはいつものクールっぷりはどこへ吹っ飛んだのかと思うほど幼児退行している。目はうるうるし、手を前にパタパタして前のめりで走っている。こいつも転倒の恐れがあるな。
ふと、後ろを見る。そこには漆黒の壁がある。壁が迫ってきているのだ。……不快な音をたてて。
カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ
カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ
とにかく不快な音をたてて俺達を追い立てる。止まれば死。精神的に死ぬ。
とある言葉がある。一匹見つけたら百匹いる。あれは間違いではないか? 恐らくだが千は超えてると思う。
この世界に虫の魔物は少ない。しかもどれも小さい。俺が知る限り、カブトムシみたいな魔物でやく七十センチほどだ。
そんな虫の魔物で最大のサイズを誇るのが、誰が考えて命名したかホラーローチ。まったくその通りである。異論はない。簡単にいうとデカイゴキブリだ。
サイズは約一メートルちょっと。恐怖である。
「うぉい! アルヴィン! 話が違うだろ! ラージラビットはどこだ!」
ラージラビット。簡単にいうと大きなネズミだ。戦闘能力は低く、噛みつきしか攻撃方法がない。
しかし、侮るなかれ。こいつらは色んな病原菌を持っている。不衛生で不快なネズミだ。
「さっきから地面に転がってる白い棒みたいなのがそうじゃね?」
「くっそ! 生存競争に負けたのか!」
「おうち帰る~!! うわ~ん!!」
幼児退行したヴェラ可愛いな。ナデナデしたい。
「うぁぁぁぁ!! アルヴィン! あんたなんでこんな依頼受けてんだよ!!」
「………………………………」
~~俺が依頼を受けた経緯はこうだ~~
「アルヴィンさん。最近ラージラビットが街中で何件か目撃されたらしいんです。噛まれるととても痛いですし、病気が怖いです~」
フェルトちゃんがそういいながら俺の口におつまみを運ぶ。フェルトちゃんの指の味がする。
「ラージラビットか、何、俺の手に掛かればあっという間に終わりさ」
「アルヴィンさんカッコいい! お願いしますね!」
フェルトちゃんの可愛いウインクに俺はときめいた。
~~~~~~~~
すみません嘘つきました。無理です。これはホントに無理です。
「もしかしてだけど、ラージラビットが街中で目撃されたのはホラーローチに追いやられてか?」
バッシュが多分だけどほぼそれで間違いない仮説を呟いた。出来ることなら入る前にその可能性に行き着きたかった。
「おうち帰りた~い! あう! ぎゃふん!」
「あっ」
ヴェラがビタン! とキレイに御手本のように転び、俺達を見つめ、スーと無表情になり、目から光が消えた。見捨てるか。
「いや! ダメだろー!!!」
とにかく、がむしゃらにヴェラを助けた。
~~そして現在~~
俺達はなんとか地下から脱出してギルドへと向かった。とにかく報告して討伐部隊を組まなければと。
そこからの対応は早かった。即、兵団とギルドが討伐部隊を組織した。勿論俺達も強制参加だ。
左を見ると、ヴェラとリズの表情が死んでいる。右を見ると、バッシュとマルサスの表情が死んでいる。……多分俺も表情が死んでいるな。
下水道の出入り口を一つ残して全て封鎖。入り口を囲み、全員が専用武器を装備する。
専用武器だが、消防で使う噴射気みたいな物で白い液体を噴射する。
その名も、「ホワイトリキッド 白い朝がまってるぜ」
ネーミングセンスを疑うが、効果はてきめんらしい。ゴキブリの弱点である油を、白い液体が分解してホラーローチの呼吸器に入り窒息させる。
下手に攻撃してホラーローチの体液やら体の一部を撒き散らすのは後が大変だ。
何より近づきたくない。
そして、兆候が現れる。地下水路への入り口からカサカサと不吉な音がしてきた。すると現場リーダーが。
「全員! 奴らがくるぞ! ホワイトリキッドを構えろ!」
現場に緊張が走る。みんなこの街を守るんだと決意を固めた表情をしている。俺達の表情は暗いけど。
そして、奴らはきた。
カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ
カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ
「きたぞ! 撃てー!」
一気に攻撃を開始する。狙わなくともホラーローチに当たっている、パタパタとホラーローチが悶えて息絶えていくのを見て、これはいけるなと思った。
そんな時もありました。
「くそ! 弾切れだ! 次をくれ!」
圧倒的なホラーローチの数。屍の山が築きあげられる。
だが、奴らの進撃が止まないのだ。誰かが呟いた「くそ! 例年より多い」嫌な予感が過る。
「こっちも弾切れだ! 早くくれ!」
「こっちもだ!」
「くそ! 教えてくれ! 俺はあと何体のホラーローチを殺せばいいんだ!」
「弾幕薄いだろうが! 何やってんだ!」
「あっ! 月は! 月が出ていない! やつらが見えづらい!」
「ホワイトリキッド残数僅か!」
絶望的な言葉が聞こえ俺は逃げる計画を思案し始める。
「本部! ホワイトリキッドが足りない! 早く追加を! ……なに? みんな休憩中だと? 事件は現場で起きてるんだぞ!」
こりゃ駄目だ。全力で逃げよう。こんなのに飲み込まれたら肉体的にも精神的にヤバい。
「……………………撤退」
あっ! ヴェラとリズのやつら撤退しやがった! 見事なフォームに惚れ惚れしそう。
……俺も逃げるかな。ホワイトリキッドが切れたし。
「……総員。抜刀!」
現場リーダーが重い決断を下しやがった。えっ? いくの? まじ? 俺、盾しかないから逃げていっすか? あっダメ? そんな肩を掴まないでくださいよ。バッシュさんマルサスさん。
「総員! 突撃!」
全員がウワーとかいいながら突撃する。みんな涙目だ。
「うおりゃー!!」
おお! ガルフェンいたのか。ガルフェンの斧の一振りでホラーローチが一気に吹き飛ばされた。流石、豪撃の二つ名は伊達じゃない。……あっ押しかえされてる。
「イヤーーー!!」
ガルフェンが黒に飲まれた。キャスティーは俺が幸せにするからそのまま逝け。
「はん! 青蛇にかかりゃこんなもん余裕よ!」
ハドックもいた。槍をブンブン振り回して、残像をいっぱい残して無双してる。三つの国の取り合いで見たことあるな。
「あっ! らめぇぇぇ!!」
あっ! ハドックが残像ごと黒に飲まれた。安心しろカタリナは俺が、くっ! ころ! プレイしてやるから。
あれ? そういえばカタリナとキャスティーは? ……いた。見事なフォームで走る後ろ姿が見えた。
「うぉぉぉぉぉ!!」
バッシュが二刀流でズバズバ切り込んでいく。どんどん頭からホラーローチの体液を浴びて緑色になってる。緑鬼だな。
「きゃぁぁぁ!!」
あっバッシュが黒に沈んだ。ヴェラは俺が可愛がってあげるよ。……明日から朝食は別に取ろっと。
「ふざけるなっ!!」
マルサスも頑張る。緑の体液を浴びながらも奮戦している。……きちゃない。
「くそっ! キリがない!エア・スラッ!」
「馬鹿やめろ! そんなことしたら周りに奴等の体液が飛び散る!」
「あっそうか。って、オンギャァァァ!!」
マルサスを止めたら闇飲まされた。まぁ、周りを考えなかった自業自得。リズはねっとりと可愛がってあげるよ。
現場はまさに阿鼻叫喚。黒い地獄が押し寄せてくる。押し返しては押されを繰り返す。
まさに地獄だ。俺にあいつらみたいな特別な力があれば。
俺にはみんなの不幸をただ突っ立って見ているだけしか出来ない。
そこに救いの声が聞こえた。
「ホワイトリキッド! 追加もってきました!」
神は生きていた。
「よっしゃぁぁ!!」
野郎どもが反撃を開始する。俺もまだいける、犠牲になったやつらを忘れない。
「ふははは! ローチがゴミのようだ!!」
俺はバンバン黒い地獄を白に染めていった。
そして、無事殲滅が終わり朝を迎える。辺り一面は白と黒、あと緑のコントラスト。汚い。
清々しい朝だな。さて、帰って大鍋屋の朝食でも食べようかな。
「ちょっと待てよアルヴィン……」
ギクッ! 嫌な予感がする。後ろを振り向くと後戻り出来ない、そんな直感が走る。
がしっ!
あっ! 肩を掴まないで! きちゃない!
後ろを振り向くとそこには白い液体をポタポタ垂らす暑苦しい男達が立っていた。俺はノンケだ、嬉しくない。
「よっ! みんな、お疲れ様。俺いかなきゃだからさ」
「クタバレ! 糞野郎!」
「らめぇぇぇぇ!」
みんなが一斉に俺を抱えてホラーローチがぐちゃぐちゃになった死骸へと叩きつける。
神は死んだ。
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