第6話

 ガイン!


 広い空間の中、金属と金属のぶつかり合う甲高い音が響き、ポトリと足元に矢が落ちる。


「初っぱなに弓は卑怯だろ」


 弓兵のスケルトンナイトが出現すると、直ぐに矢を放って来やがった。初めてのことでびっくりしたじゃんかバカ!


「戦略としては当たり前だけどな、こいつらにやられるとは思わなかったな」


「あっ、バッシュも初めてか」


「あったら作戦立てる時にいうだろうが」


「ははっ! そりゃそうだ」


 俺とバッシュが軽く談笑しながら後ろの面子を見ると、皆一様に青ざめていた。


「今の、アルヴィンが防いでなかったら俺に来てたな……」


 震えた声でマルサスが戦慄している。……マルサスよ俺に感謝しろ、その端正な顔を地面に擦りつけて今までの非礼詫びろ。てか、さんをつけろよデコ助野郎!


「お前らこの程度のイレギュラーで臆病風に吹かれんじゃねーぞ! しゃきっとしろよ! 何があるか分かんねぇんだから油断すんな!」


 バッシュが発破をかける。やはりまだ経験が浅い、全てがセオリー通りにいくならダンジョンでの不慮の事故なんてほぼほぼ起きない。

 まぁ、これも一つのいい経験になったろ。


「っ! はい!」


 マルサスはすぐに気を取り直し、身構える。遅れてリズとヴェラも戦闘体制をとり、いつでも戦闘が出来る状態へと移行した。


「よし、手はず通りヴェラ、頼むぞ」


「了解」


 ヴェラは一言で了承すると、弓を構えて矢を放ち、矢は真っ直ぐに弓兵へと進むが、容易く避けられる。

 まぁ、この距離だと遠すぎて追尾が発動しないか。でも、これで弓兵のスケルトンナイトの動きを制限出来る。


 ヴェラが弓兵に矢を放ち続け、弓兵の動きを制限する。時折リターンだけの魔矢を放ち矢の節約を行いながら。


 そして、前衛二体のスケルトンナイトがこちらに向かって来た。俺、バッシュ、マルサス前衛組も走り出し、接敵する。


 まず槍兵のナイトが突きを放つ、それを盾で左に受け流すように防ぐ、すぐに槍兵の左脇から剣士のナイトが出てきて切りかかってくる。


「せいっ!」


 即座に盾を剣と俺の間に滑り込ませ防ぐと同時に右に受け流す。剣士は若干姿勢を崩し、その場から離れる。すると、槍兵が俺目掛け石突きで殴りかかる。

 それをかがんで回避すると、即座に盾を前にタックルをかます。


「どりゃっ! そっちは任せた!」


 俺は槍兵を突き飛ばすと共に、バッシュとマルサスに叫ぶ。


「任された!」


 マルサスが返答し、剣士へと突撃する。俺はそれを見届けると、槍兵をみる。槍兵は体制を立て直し、槍をこちらに向け走り出す。


 槍兵は先ほどの突きを防がれたからか、俺の右下段から振り上げてきた。……これは避けると石突きか、上段からくるか? 防いだほうがいいな。


 即座に敵の行動予測を行い盾で受け止める。


 カンと軽い音が聞こえ、槍兵はすぐに離れていくと、再度身構え俺の様子を伺う素振りを見せる。

 ……俺の装備を見て疑問に思ってるんだろうな、何せ武器を持ってないからな。


 槍兵のナイトは駆け出し、俺に近付くと槍を一度後ろに引き一気に突きを放つ。最初の突きより勢いがあり俺の盾を突破する腹積もりのようだ。……チャンスだな。


「ほっ! ……しっ! バインド!」


 槍兵の突きを左に躱すと、がら空きの身体に盾を叩きつけ、バインドを唱えると、白い鎖がジャラジャラ出現してナイトを拘束した。


「うっし! 成功!」


 拘束が成功した喜びを口にし、他のスケルトンナイトに目をやる。剣士のナイトの攻撃をマルサスが盾を弾かれながらも防ぎ、バッシュがナイトの足を狙う。しかし、盾で防がれナイトが横に剣で凪ぎ払いをする。


 バッシュは後ろに跳んで回避し。マルサスは盾で防ぐが、「ぐっ!」と呻き、衝撃で後ろに押されてしまう。


 魔物の力は非常に強い。もし、お互い何の装備もなくスケルトンナイトと殴り合えと言われれば、どんなに屈強な男でも一撃でKOされる場合もある。


 あんな筋肉もへったくれも無い奴のパンチで成人男性は簡単に吹き飛び、頭を捕まれればトマトのように潰されてしまう。それにこれはボス戦なので通常より力と素早さが強化されている。


 故に、マルサスがあのように苦しむのは仕方ないことなのだ。ついでにいうとマルサスは硬盾こうたてというスキルを持っている。これは盾の強度をあげるのだが、俺のスキルのように衝撃を消すことが出来ない。


「マルサス! 真っ正面から受けようとするな! お前は俺と違うんだぞ!」


 思わず叫んでしまった。実際、あれでは危ない。もし衝撃を受けきれず、体制を崩したらやり込まれるかもしれない。


「ちっ! クソが!!」


 マルサスが苛立たしげに悪態をつく。あれは戦い方が荒すぎる。どうしたんだ?


「プロテクト!」


 すると、後ろからリズが支援魔術をマルサスにかける。プロテクトは対象の表面に薄い防御膜を張り、衝撃に強くする効果がある。


「ちっ!」


 マルサスが支援を貰うとさらに機嫌が悪くなる。ホントにどうしたんだろうな?

 下手に口出しすると不味そうなのでバッシュに丸投げするか。バッシュ、ファイト!


 マルサス達を見てると口出ししそうなのでヴェラに顔を向ける。矢が一本も来ない所を見ると抑え込めているんだろうな。


「止め!」


 ヴェラが弓を構えて矢を放つ準備をしているが、その矢は光りを放っていた。あれはヴェラのユニークスキル魔弓師のスキルだ。

 魔力を消費して、魔力の矢を生成する能力で、威力は消費した魔力に依存し、以前試しに最大出力で射ったら大きなクレーターが出来ていた。強力なスキルだけにデメリットとして、スキルクールタイムがあるため連射出来ないのだが。


 弓兵はヴェラの矢を受け体勢を崩していた、そこへ止めの一撃を放とうとしていたわけか。


 ヴェラが魔力の矢を放ち、矢が正確に弓兵の頭蓋に直撃すると、大きな破裂音を立てて爆発する。爆発の煙が晴れるとそこには粉々になった白い破片だけがある。……こわー。


 弓兵を倒し、ヴェラはバッシュとマルサスをみて、弓を構えていつでも援護できる状態にしている。

 俺が抑えている槍兵は拘束から逃れようと暴れるが、ビクともしない。


「お前の力じゃ無理だよ、俺の自慢の捕縛スキルだからな。逃げることは出来ない、諦めな!」


 やることがこいつを抑えつけることしか出来ないので、悪い顔をして話しかけてみると、キッ! と睨みつけてきた気がする。くっ、殺せ! とか、絶対に屈しない! とか聞こえてきそう。かなり余裕です。


「せいっ!」


 アホな事を考えていると、掛け声が聞こえたので振り向く。バッシュの横凪ぎの斬撃が剣士の胴体に入る瞬間だった。しかし、剣が僅かに胴体を進むと盾で防がれてしまう。


 バッシュは「ちぃ!」と舌打ちし、直ぐに剣を引きぬいて後ろに下がると、上段からの斬撃がバッシュのいた空間を切断した。


 剣士の鎧からカランカランと乾いた音が響き、恐らく胸骨の一部を切断したことが分かる。


 うーん……やっぱり、スケルトンナイトの反応が早いなー、バッシュもあまり深追い出来ないでいる。……おっ! マルサスの奴勝負を決める気だな。


「エア、スラッシュ!!」


 マルサスが剣士の後ろで剣を上段に構え、技名を叫びながら一気に振り下ろす。すると地面を抉りながら激しい風の斬撃が剣士に向かっていく。エアスラッシュ、魔力を込めて風の斬撃を飛ばす強力な技だ、もちろんこれもデメリットがあり、先ほどのように発動に溜めが必要で、消費魔力がかなり大きい。


 そして、あれはスキルではない。マルサスが右腕に着けている赤い石が付いた魔装具である籠手の能力だ。

 なんでも母親の形見らしい。


 魔装具、特別な術式で様々な能力が付与された物で。強力な物から微妙な物までピンからキリだが、総じて値段が張る。

 マルサスの魔装具はエアスラッシュの術式が刻まれていて、かなりの金額になる。まぁ……、家宝らしいから絶対に売らんだろうけど。


 放たれたエアスラッシュは剣士を飲み込み、跡形も無く吹きとばす。……こわー。

 ……みんな強力な必殺技持ってていいなー。俺なんて拘束するのが必殺技よ? いや、確かにこれも強いよ。でも違うんだよなー。もっとこうズバッ! とかさドガンとか欲しくない?


「…ふう。あとは槍兵だけだな」


 バッシュ達がこちらを向く。…こいつ、ビクッと震えた気がする。逆の立場ならほんとに恐怖だよね。仲間がみんな粉々にされるのを見せつけられるんだからな。なんて鬼畜な連中なんだ!

 バッシュとマルサスが俺の傍に来た。逆の立場ならチビらす自信あるよ。御愁傷様。……ん? マルサスがなんか落ち込んだ顔してるな。まぁ、さっきの戦闘はちょっとらしくなかったからな。


「マルサス、お前が止めさせ」


 俺はマルサスにやらせるため、顔だけを振り向く。マルサスが何で俺に? みたいな顔で首をこてんとする。…うぜぇ


「さっきの罰だ、これで帳消しにするからあまり気にするな。誰だって悩みぐらいはあるんだ」


 俺、最高にカッコよくね? なんて優しい先輩。敬意を表していいんだからね?

 正直、こいつが何に苛だったかは知らんが、ズルズル引きずってこの後の楽しみが台無しになるのは可哀想だ。


「何すかそれ……、まったく……人の気も知らないで。……本人がいうなよ……」


 何かゴモゴモ言ってる、全然聞き取れん。はっきり言って欲しい。


「全然聞き取れない。何て言ったんだ?」


「はぁ……、今回はあんたの肩を貸してもらいますよ」


 そういうとマルサスはスケルトンナイトの首を切る。うん、太刀筋に迷いが無い、振り切れたようだ。太刀筋なんて俺にはよく分からんけど。

 スケルトンナイトよナンマイダ~


「みんなお疲れ、無事終わったな」


「結果だけみると正に完勝だな、ほんとお前らが優秀なおかげだな」


 バッシュがみんなを労い、俺が嘘偽りなく称賛する。実際、俺がやったのはただ敵を一体隔離しただけ。他の二体を無傷で倒すなんて本当にみんな凄い。俺にも戦えるスキルがあればと常々思う。


 勝利の余韻に浸っていると、倒したスケルトンナイトの残骸が消えていく、同時に入って来た入り口の光りの壁が消える。そして、向かって反対側の壁から扉が出現してゴゴゴと音を立てながら開く。

 ボスは倒すと消滅するのだ、明確な理由は分からないがおそらく一度魔力に還元し、次の攻略者に備えているのだとか。


 最後に部屋の真ん中が光り、宝箱が出現する。

 ちなみに、箱の中から出るアイテムの種類だが。貴重な鉱石、大きい魔石、武器か防具、装具などがある。武器、防具、装具などはダンジョンで落ちていた物をダンジョンが回収し、強化し、変化させ、何かしらの効果が施されて出現する。ようは遺品なのだ。


「さて、今回は何が入ってるかな」


「私、そろそろ杖が欲しいです」


「私は弓ね」


 思い思いに欲しい物を言ってるな。あっ?俺は別に欲しいのないよ?強いていうなら金目の物かな。フェルトちゃんに貢がなきゃね。

 実際、装備関連は問題がないのだ。盾なんて俺のユニークスキルでキズがつかないから要らない。フォレストキャットの連続攻撃でも一切キズがつかなかった。逆にマルサスの盾はひどく歪んでいる。スケルトンナイトの攻撃を真っ正面で受け止めたからだ。


「よし、開けるぞ」


 バッシュが箱を開ける。そしてすぐに俺を向く。


「おめでとうアルヴィン。盾だぞ」


「ふぇっ? マジで?」


 つい、素っ頓狂な声をだしちゃった。…これってあれかな、要らないっていうと出る奴。よくガチャであるよね……。


 実は武器が出た場合は、その武器を使う人の物と決めている。だからまぁ、貰えるんだが……。


「なぁ? マルサスお前使わないか?」


 思わず、マルサスに進める。だってねぇ、この盾まだまだ使えるし。ぶっちゃけ別に俺には無用かな?って思う。


「何いってんすか、俺がそっち使うからアルヴィ~ン……が新しいの使いなよ」


 …おいマルサス何だ今のは、俺はアルヴィ~ンじゃねぇぞ。伸ばすんじゃねぇ。さんつけて下さいデコ助さん。


「……う~ん、でもな~。……ってなんだこれ! めっちゃカッコいい!! やべぇ!」


 箱の中を覗いて見ると、度肝を抜かれた。カイトシールドで、本体は青、金色の十字架みたいな模様が描かれ、周りを金色の装飾で飾られている。装飾過多な気がするけど中二心をくすぐるこのデザインはいいな。しかもこれ、オリハルコン製じゃないか? 価値がヤバイぞ。


「これ、使うわ」


 俺は有りがたく頂く。……あれ? 何か身体からすっと抜けていく感覚がある? なんだろ? まっいっか、悪い気がしない。

 それにしてもこれはやばいな持ってるだけで俺のイケメン度上がったんじゃね? いろいろカッコいいと思うポーズを取る。

 ……あれ? 何か皆が痛い人見てる顔してる。解せぬ!


「……帰るか……」


「……はい……」


 バッシュが疲れた声で言うとみんなも元気なく返事をする。……みんな疲れてんのかね?


 先ほど開いた扉をくぐり抜けると階段がある、それを降りていくと先には溶岩があった。

 イフリムダンジョン21階層から24階層は溶岩地帯。熱と暑さ対策をしないことにはまともに探索出来ない階層だ。


「……くっそ暑い。ほらお前達さっさと魔方陣踏んで帰るぞ」


 バッシュがゲンナリとした顔で魔方陣に乗り、消える。あいつ暑いの苦手だもんな。


「うぇーホントにあつい~」


「リズは暑いの苦手か?」


「はい~、夏とかだいっきらいです~」


 リズがぐだーとして辛そうだ、暑いのが苦手だとここから先はしんどいだろうなー。

 リズも魔方陣に乗り消える。


「マルサス、ほら」


 俺は今まで使っていた盾を渡す。正直、この盾は思いれが強い。だが使わないのは宝の持ち腐れだし、盾に悪い。


「…ありがとうございます。大事に使わせて貰いますよ」


「あぁ、それは俺が冒険者になった時から使ってる大切なもんだからな。ホントに大切に使ってくれ」


「えっ、マジでずっと使っていたんですか?」


「あぁ、ちゃんと毎日手入れしていたからな。ミスリル製だから頑丈だし、修理も楽だからな」


「っ!! これミスリル製だったんすか!? さすがにそんな物貰うわけには!」


 ミスリル製は非常に高価だ。頑丈で修理も一度魔法で溶かしたミスリルを表面に垂らすだけで欠けたところを満たして固まる。維持費が安いのだ。遠慮する気持ちも分かるな。


「いいんだよ、この盾が手に入ったんだし。どうせそっちは売るしかなくなるし。ラウンドシールドはお前に丁度いいだろ?」


 マルサスが思い悩んだ顔をしている。別に遠慮しなくていいのに。


「ほら、くそ暑いから早くいけ」


「っ…………分かりました。ありがたく頂きます」


 俺に感謝を告げると魔方陣に乗り消えた。去り際どこか笑顔だったな、やっぱ二十階層攻略は嬉しいんだろうな。


 マルサスが転移したのを見て、ヴェラが話しかけて来た。


「ありがとう昌樹くん、おかげでまた一つ神に近づけたよ。まだまだ先は長いけどね」


「あぁ、俺たちがなんでこの世界に転生したか、早く神に聞きたいな」


 ……そう、俺とヴェラこと佐藤 玲奈は転生者だ、何故転生したかは分からない。ただ、気づいたら赤ん坊だった。

 そして、分かることは俺とヴェラにはユニークスキルがある。きっと何かしらの目的があるのだろう。それが、ダンジョンに潜る理由の一つだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る