第12話 星空は人を感傷的にさせる

 真矢と菜子は、夜空を見上げていた。

「よう、死んだら『お星さまになる』言うやん。あれ、何でやろなあ、真矢」

「さあ。でも昔の庶民とかにしたら、空の星やったら、どこにおっても祈れるやん。仏壇とかなくても」

「太陽とかはあかんの?」

「太陽は神さんみたいで恐れ多いやろ。それに眩しいし。雲は形が変わり過ぎるし、まあ、星が手頃やったんちゃうかな」

「成程なあ」

 しばし、2人で星を眺める。

「そう言えば、葬式、終わったんやろな」

「そやなあ。こっち来て、そこそこなるしな」

「どんなんやったんやろ。泣いた人、おるかな」

「どうやろ。あの職場の人って、遺体は見慣れてるしな」

「まあな。でも、雰囲気に流されて泣く人っておるやん」

「おるおる。卒業式とかやろ」

「中学校の時とか、大方同じ高校行くし、引っ越すわけでもないねんから問題ないやん」

「手紙でも電話でも連絡取れるしな」

「おまけに、2日後には映画行く約束もしてるねんで」

「思い出とかを思い出して、感傷的になるんかな」

「真矢はならんな」

「菜子もならんやろ」

「ならんわ。多少なっても、泣くほどやないわ。

 あれ、雰囲気に酔ってるんやで。可愛い女の子アピールやで」

「それは言い過ぎかとも思うけど、まあ、さりげなく男子のおるとこで泣いとったな、確かに」

「そやろ。だから、それができん私らはもてへんかってん」

「まあそれだけやないやろけどな。そういう可愛げのなさは、確かにな」

 反省するように、溜め息をついて、ずずずーっと飲み物を啜った。

「中学の思い出かあ。

 そう言えば、1年の時の調理実習で、卵を入れたケースを全部倒して割った業者がおってん。そのせいで、オムライス、卵抜きやった。がっかりや」

「それ、ただのチキンライスやん。

 ああ、そうや。集会で、もの凄い教頭先生が怒ってはった時、かつらがずれていくんが気になって、全校生徒が緊張して注目や」

「それは、ププッ、笑うな。泣かれへん」

「な、笑うやろ」

「私らの葬式かあ」

「まあ、真面目に仕事はしとったで」

「したした。

 あ、思い出した。最後の仕事。週明けに結果をまとめて提出するつもりで、内容をまとめとったんやけど、自分にだけわかるような書き方でメモしとったわ。あれ、完全に暗号やな。ダイイングメッセージか。誰か、分析やり直しや」

「私も思い出してもうた。借りたまんまの辞書とか本とか、机に入れてんねん。食べかけのチョコレートも一緒やから、早よう出さな、えらい事になってるで」

「まずいやん」

「あかんわ」

「私らの葬式って、同僚、泣かへんな」

「怒ってるわ」

 真矢と菜子は確信し、大きな溜め息をついた。

「どうしたの」

 通りかかったロレインが声をかける。

「いや、大したことないねん」

「星空って、人を感傷的にするよなあ」

「お、詩人だねえ」

 3人で、夜空を見上げたのだった。




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