第3話 いなくなった金魚

 郡司家には水槽があった。入っているのは食べ応えのありそうな大きさの赤い魚が1匹で、いつもじいーっとしていて、タカミかチカがエサを与えると、その時だけ動いてパクッとそれを食う。

 運動不足は良くないと思って、わたしは時々、水槽の上蓋に飛び乗って鳴いて驚かせたり、水槽の前で手を振ってやったりもする。すると慌ててバタバタと向きを変え、逃げ出そうとして透明な水槽のガラスに頭突きしていた。

 チカ並みにどんくさいやつだ。

 しかし、わたしが何をしても動かないようになり、新しい手を考えているうちに、エサが目の前に来ても食わないようになった。

 どうした事だろう。心配になったわたしは、捕まえて来たネズミを差し入れてやろうと水槽の前に持って行ったが、それを見たタカミが悲鳴を上げていた。

 タカミも欲しかったのだろうか。

 そして間もなく、そいつは腹を上にしてぽっかりと浮かび、ミキオとチカが庭の隅にそいつを埋めた。

 死んだらしい。

 わたしはせめてもの手向けに、虫を供えてやった。


 水槽がなくなって広くなった棚の上は、花が置かれるようになった。作り物のやつだ。赤い魚以上に動かないつまらないやつだ。

 私の昼寝場所にしようかと思っていたのに、新参者に取られてしまった。

 まあいい。わたしは他にも、特等席がいくつもあるのだからな。

「ネコさんも寂しいの?金魚がいなくなって」

「ライバルみたいだったからなあ」

 タカミとミキオが、そんなとんちんかんな事を話していた。

 わたしがあの動かないやつとライバルだと!?勘違いも甚だしい。わたしは、食いでがありそうだった、非常食の魚が消えたのが少々残念なだけに過ぎないのだ。

 わたしはフンと頭を上げ、シッポをピンと立てて、巡回に出る事にした。今日は魚肉ソーセージの気分なので、ホステスとやらの所に行こう。


 ホステスとやらのリナは、何か甘いような変な臭いがするのが気に入らんが、魚肉ソーセージをいつも冷蔵庫に買いだめしている。そして私が行くと、いつもそれを1本剥いて、

「エリザベス、あたしのつまみのおすそ分けだよぉ」

と言いながらくれる。そこは評価してやってもいい。

「にゃああ」

「美味しいの?そうかそうか、良かったぁ」

 ふにゃあと笑ってリナは私の頭を撫でていた。


 その夜は集会の日だったので公園に行き、カラスの攻撃に注意するようにとの連絡や、新しくできた食堂の残飯は痛んでいる事が多いとの注意がなされ、ワルガキや新しく来た新入りの猫の情報を交換し、わたしは家へ戻った。

 そして、夜勤の翌日なのでゆっくりと朝寝をしていると、タカミの悲鳴がした。

 やれやれ。また何か問題か?

 わたしが手を貸してやらねばいけないようだ。そう思い、わたしはのっそりと声のした方へ歩いて行った。





 

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