春日丘町のネコさん
JUN
第1話 郡司家の人々
暖かを通り越して少々暑い日が続いている。こういう日は、公園のベンチでもなければ河川敷の橋の下でもなく、レースのカーテン越しに日を浴びるくらいがちょうどいい。
というわけで、わたしは郡司家に向かった。
一応私の寝床は郡司家にあり、郡司家でわたしはネコと呼ばれている。
そりゃあ間違いなくわたしは猫だ。しかし、「ニンゲン」という名の人間がいるとは聞いた事がないし、この郡司家の人達のネーミングセンスはいかがなものかと思っている。
まあ、ほかの食事をくれる人は、タマ、ミケ、チビなどと呼んでおり、それらありふれた名前と比べて、どっちもどっちだと思わなくもない。
まあ、どうでもいい。
中に入って、一応主婦のタカミに愛想を振っておく。
「にゃああん」
「おかえりなさい、ネコちゃん」
タカミは専業主婦だ。サラリーマンである夫のミキオを送り出し、幼稚園に通う娘のチカを送り出すと、買い物や洗濯を済ませ、雑誌を見たりおやつを食べたりして、
「ダイエットしなきゃ!」
と言って数日バタバタしたと思ったら、いつの間にかやめている。よくわからない生物だ。
しかし、カリカリを選ぶ趣味はいい。
わたしはリビングのフローリングの上でゴロンと横になった。
そして、チカが帰宅し、チカの面倒を見てやる。
このチカは、のっそりとしていてどんくさい。ちゃんと餌をとれるのか心配だ。
そうこうしていると、ミキオが帰宅する。
「お帰りなさい、ミキオさん」
「ただいま、タカミさん」
2人はラブラブのつがいだ。しかし見たところ、どうもタカミの方が強いようだ。尻に敷かれる、という状態らしい。休みの日のお出かけも、買い物と呼ぶ狩りの荷物持ちも、ミキオがいいなりに見える。
だがまあ、本人達がそれでいいのならわたしは構わない。
しかし、時々チカを忘れて暴走するので、私が配慮してやらねばならない。やれやれ。
「にゃあん。にゃあああん」
泣きながら、足に体をこすりつけて尻尾で軽くピシリとしてやる。
「あらあら。やきもちをやいているの、ネコさんったら」
「しょうがないなあ」
タカミは笑いながらミキオのカバンと上着を受け取り、ミキオは笑って私を抱き上げ、
「ただいまー」
と鼻をグリグリとこすりつけて来る。
やれやれ、手間のかかる。
スタンと降り立ったわたしは、次にチカがミキオに抱き上げられるのを見て、テレビの前へ戻った。
ネコだって世界情勢に無関心ではないのだ。
どうということもない、ありふれた家庭。
しかし時として、こういう家庭にも事件は起こるのだ。
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